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海へ行こう

 国へ帰ったカナン達は、無事目的を達成出来た事に安堵し、数日は磨り減った心を落ち着かせる様にゆっくりしていた。

 結果を聞いた周りの者も、無事帰ってきた事に安堵し日常を過ごす。


 カナンは記憶が馴染むのに負担があるのか、よく眠る様になった。アイと紅羽は王城に行ったり、カタリナの修行をしたりサティを制したりという日常をこなす。


「…うーん」

「おはようアキ、何か分かった?」

「んー、分かる事の方が多いけど、頻繁にある拷問シーンで大分精神がやられるな…あとは大事な所が抜けている様な感じ?

 まあ記憶の複製だからこんなもんだろうけど…何で古代で天罰が起きたか分からないんだよなー。色々どうなったかも飛んでるし…余程ショックだったのかね?」


「あと3年くらいでイリアが帰って来るんだろ?その時に聞けば良いんじゃないか?」

「まあ…そうだな」

『アキー!ひまー!』

「はいはい」


 目が覚めて、一通りの人生の記憶を視て記憶が馴染んだ様子のカナン。調べる事と擦り合わせが多いなー、とこめかみをグリグリしながらベッドから出る。


「ところで二人とも、実家ではあまり出ない方が良いぞ。ハプニングが起きそうじゃないか」

「良いじゃない」

「今更じゃないか?」

『はやくー!』

「だーめ」


 しぶしぶ石に入る住人達、しかしウキウキと楽しそうにしている様子に、カナンの磨り減った心に少しの潤いを与える。


「ファー王国は内陸だからなー。近い所が、西のエルメスを越えて更に進んだ先に海があるから、小旅行って感じだな」

『ウフフ、そうね。自分へのご褒美よ』

『我もご褒美あげるからな』

『リーリアもあげるー!最近力が増したから、加護の力を上昇させといたよ!』


「ちょっ、リーリア。やるなら先に言ってくれよ…」

『えへへ、矢印と加護を合体させるのに、ちょっと夢中になっちゃって!大丈夫!人間以外の恋愛運急上昇と、人間以外への魅力急上昇に、人間以外の友達がとても増えやすいよ!因みに上昇した分、人間への諸々は下降してるから安心して!』


 過去のぼっち体験を思い出し、切なくなるカナン。


「安心出来ねえよ。人間以外ってのを取っ払ってくれよ」

『無理!ねー矢印ー!でも矢印と何となく会話出来る様になったんだよ!凄いでしょ!』

「えっ!そうなの!矢印!やっと話が出来るな!…えっ?ごめんね、私止めたんだけど…。ってそれは良いんだけど…矢印って女の子だったの?」

『何当たり前の事言ってるのさ』

『普通分かるでしょ』

『知らなかったのか?』


 光る蒼い玉を思い浮かべるが、女子要素が微塵も感じられず、やっぱり魔力体じゃないと分からないのかねえ…とため息を付く。


「いや…わかんねえよ…ごめんな、矢印なんて名前付けて」

『矢印は嬉しそうにしているから大丈夫だよ!名前持ちの精霊だから実は上位精霊なんだよー』

「えっ?そうなの?でも蒼いからノーマルだよな?」

『そうだねー!矢印は元々エルメスの精霊の森に住んでいたんだけど、何故か数百年属性が変わらないから、精霊のぼっちになっちゃって北の森に住み着いたんだって。ノーマルを極めるらしいよ』


「そうだったのか。じゃあ前世の秋に会ってるのか?…ははっ、覚えてるか、良かったよ」


 思わぬ再会に頬を緩め、こうして前世を知っている者に会えるのも転生出来て良かったと思わせる。

 因みに矢印の属性が変わらないのは、200年前、秋の精霊水を過剰にガバガバ飲んで、魔力が変質したからである。


『アイと初めて会った時も、津波が起きて心配で見に行ったらしいからねー。愛されてるねー!』

「ありがとな。今も生きているのは矢印のお陰だよ」


『私も矢印のお陰でアキと結婚出来たのよね。ありがとね、矢印』


 雑談もそこそこに海へ行く準備を完了させ、家を出る。王都を飛び立ち西へ。急ぎの旅行では無いのでゆっくり行く予定だ。


「そういえば王女は来れないんだよな?」

『ええ、ティナは式典があるから隣国へ行っているのよ。リナちゃんは…ティナの道連れになったわ…』

「うへえ、リナ大丈夫か?貴族とかも居るんだろ?」

『一応認識阻害メガネと、結界の魔導具沢山付けて、ティナのお付きのメイドとして特に何もせずに一緒に居るだけらしいわよ?ティナより厳重だから大丈夫じゃない?』

「…まあ、何かあったら直ぐに飛んで行くか…頑張れカタリナ」

『因みにサティさんは後で行くって』

「了解」


 道連れになり、死んだ目の妹を想像し苦笑するカナン。


『ところで朝から浮かない顔だけど、何かあったの?』

「ん?ああ、なんというか…最近夢でな、アイツが話し掛けて来るんだよ」

『アイツ?』

「グリーダ…幻影なのか分からないけど、記憶を取り込んだ影響なのは間違いない…」


『でも、死んだんでしょ?』

「ああ、と言っても後1年くらいしないと分からないかな。死の星までは結構遠いんだよ」

『無理しちゃ駄目よ』

「ああ、気を付けるよ」


 少し疲れた表情で笑うカナンに、石の住人達は心配するが、アキの決めた事だから応援しましょ。と見守る選択をした。







 ________



 大教会にて


「ん…んぅ…ふぁー」


 二度寝した銀色の髪の女性が禁庫で起き上がる。寝起きで目を擦りながら辺りを見渡し、暫くボーっとしていた。


「良く寝たー…何百年も寝たような感じ。なんか長い夢を観たし、神様になって崇められる夢…最期は身体が異形になっちゃって自暴自棄になった私を、黒髪の男の人が暖かい光で包んでくれた…格好良かったなぁ…」


 まあ夢だけど…と呟き、ボーっとしていたが、不意にはっと気付く。


「あれ?私って死んだよね?でもここは大教会よね?なんで?」


 自分の死を思い出して目が覚める。そこでふと近くに魔力を発する物に気付く。


「ダンジョンコア?でも起動してる…あれ?この魔力…彼の?あれ?私の中にも彼の魔力がある………くふふ。彼が私を生き返らせてくれたのかな?だと良いな。いや、きっとそう…私の魔力も入るかな?」


 にやにやと笑いながら夢の中の男性に想いを馳せる聖女キリエ。ダンジョンコアに魔力を込めた。


「ダンジョンコアにメガネが乗ってるけど、彼のメガネに似ている。私にプレゼントかな?嬉しいな。…夢の中で女の子が名前を叫んでいたけど…なんだっけなぁ…」


 ダンジョンコアに乗っていたカナンのメガネをスチャッと装着。


「思い出した!アキ!会いたいな。会えるかな。会わなきゃ。でも何処に?探す?探そう。お礼を言わなきゃ」


 んー!と伸びをして禁庫を回り、使えそうな物を手に取っていく。


「よし。行こう。とりあえず教会を離れよう。奴らに嵌められたお返しはその内するけど、先ずは彼。また会えるかな?会えたら…」


 くふふと笑い、禁庫を出て教会を後にする。



「また殺し合って(愛して)くれるかな?」

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