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秋とグリーダ4

 地獄門から出てきて、茫然としているグリーダを見下ろす。

 記憶が馴染んで来ているのか思い出す様に映像が頭に浮かび、気になる事が多々あったが、今は目の前の事だと頭を振りグリーダを見据える。カナンは仮面が外れているのに気付くが今更なのでそのままにしてあった。


「やあおかえり、楽しかったかい?」

「………」

「まあ少しは苦しみって奴が理解出来たかねえ」

「き、様は、誰、だ、ふざ、けた顔を、して」


「ん?」


 カナンは顔をペタペタ触る。何かが塗られた痕跡。アイと紅羽か…とチラリと二人を見るが目を逸らされた。

「クリーン」

 清潔の魔法を発動し、落書きを消す。


「今世では初めましてだよな。リストリクション」

「くっ、今…世だと」


 グリーダを拘束の魔法で動けなくする。諦めが目に浮かぶグリーダは抵抗せずに拘束された。


「そうそう。お前とは前世で因縁があってな、こうして遥々準備をしてやって来たって訳さ」

「ぜん…世…因…縁」


「俺だよ、200年前にお前が隷属した迷い人、秋だ。…まあ、ドブネズミって言った方が思い出しやすいか?」


 ははっ、と笑う少年を見て、グリーダの表情が徐々に険しくなっていく。瞳に映る憎悪の中に、屈辱など不名誉な感情が見え隠れしだした。


「なん…だと!貴様か!ドブネズミ!この屈辱!許さないぞ!殺す殺す殺す殺す殺す!」


 ギシギシと拘束から逃れようともがき、地獄での苦しみも忘れる程の憎悪を示す。それを見るカナンは、らしくなったじゃねえかと言って、くくっと嗤う。


「久しぶりだなあ、どうだい?立場が逆転した気持ちは」

「貴様のせいで!イリアスを始末出来なかった!貴様が全て台無しにしたぁ!殺してやる!殺してやる!」


「邪神に聖女殺しを任せるなんて、随分と回りくどい事をしたもんだなー。そんなに天罰が恐かったか?」


「余の国が消えたのだぞ!貴様に分かるものか!貴様が邪神を消さなければ!」


「ははっ、お前はダークマターを使って邪神をコントロールしようとしていたみたいだが、見事(おれ)に計画を台無しにされたなあ。ざまぁ」


「くそおぉ!貴様さえ居なければ!」

「秋を隷属しておいて何言ってやがる。まあお前のお陰で力を求めるきっかけを得られたからな。お礼に俺の自論を教えてやるよ」


 カナンは、まあ話を聞けよと拘束の魔法を強くする。身動きの取れないグリーダはカナンを睨み付け、歯をギリギリと鳴らしている。


「俺とお前が願いを込めて転生した様に、この世界には…いや、この星には願いを叶える能力を持った存在が居る。

 この星だけじゃない。生きている星には必ず存在していると言っても良い。じゃあ何の為に願いを叶えているか…それは格を上げる為。」


「……」


「そいつは実体を持たないが故に、格を上げる為には人間等の信仰や認知が必要だ。

 その為に願いを叶えれば信仰を得やすいし、大きな魔力を持っている存在の願いを叶えれば、見返りにそれだけ返ってくる力が大きいから、格を上げやすい」


「それが…どうした」


「要するに人の願いを叶える能力を持った存在と、星を監視する能力を持った存在が居るんじゃないかって事さ。心当たりあるだろ?」


「……女神達…」


「まっ、恐らくそうだろうな。そこでだ、俺は常々思っていたんだよ。願いが届かない場所、監視の目が届かない場所はあるのか?って」


 カナンはストレージからドォン!と巨大な金属の塊を取り出す。鉛筆の様に、円柱の上の天辺が尖った形をしている。


「答えはある、だ。そこなら魔王のお前が死のうと女神は顕現しない」

「なん…だと!そんな場所など存在しない!」


「くっくっ、なら試してみようか。グリーダさんよ。アイ、絶界の頂点に穴を開けてくれ。_「はーい」_おっと、この指輪は没収な。後は…そうだな。こいつはプレゼントだ。極・亀甲縛り」


 ギュンッ!とグリーダが更に締め付けられる。カナンはグリーダの左手に嵌まっている指輪を素早く引抜き、円柱の側面にある扉を開く。そして拘束したグリーダを中に押し込み、扉を閉めて鍵を掛ける。


 ガンガン!と扉を叩く音と、アレな叫び声を無視し、カナンは円柱に魔力を流し、精霊石を取り付けた。


「答えは…この星から離れれば良い。そう、宇宙(そら)へ行けば何も届かないんだよ。起動!」


 ボオオオオ!円柱…いや、ロケットの下部から炎が上がり、ロケットが浮く。


「よーし、風向き良し!天候良し!歴史的瞬間だな!オータムフェスタ号!発射!」


 ゴオオオオオオオオオ!

 ロケットが宇宙に向かって上に飛ぶ。高く高く昇り、どんどん小さくなって行く。


「もっと何かやっておけば良かったかねえ?」

「まあ良いんじゃない?復讐完遂ね」

「まあな。でもそのせいでやること増えた気がする」

「でも、大きな事が1つ減ったぞ」

「そうだな。スッキリした気分もあるし、良かったか?」

「ところであのロケットは何処に行くの?」


「恐らく死んでいる星かな。昔から星を眺める事が多くて。星属性の影響か、生きている星と死んでいる星が分かるんだよ。そこで死んでいる星の集まりに進路を向けてあるし、あのロケット着陸機能は無いからな」


「アキってよく星を見ていたわね」

「まっ、エターナル・リヴァイブもそろそろ切れるし。永遠にさよならだな」


 暫くすると、完全にロケットは見えなくなった。


「……」


 カナンは暫く空を見上げ、噛み締めるように何かを呟き、アイと紅羽に向き合う。


「アイ、紅羽。俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。それじゃ帰るか!」

「ええ」

「ああ_ん?」


「ん?どうした紅羽」

「ああ気のせいだ。何でもない」


 三人は絶界の穴から出てそのままファー王国を目指した。

 聖女キリエと少し欠けた移魂の魔方陣をそのままにして。


「それにしてもオータムフェスタ号って何?凄く恥ずかしかったんだけど」

「確かにあれは無いな」


「………」




 絶界内には魔法玉の魔力、グリーダの魔王の魔力、そしてカナン、アイ、紅羽の魔力が充満していた。


 そしてフッと紅羽の結界が消えたその時。


 不完全な移魂の法は、その場に停滞していた巨大な魔力達に無理矢理起動させられ、ある魂を呼び寄せる事になる。


「……んぅ…ここは…?」


 銀の髪を靡かせた女性、聖女キリエが目を覚まし起き上がる。辺りを見渡し、真っ白な世界を見て、夢か…地面固いけどまあ良いや…と周囲の魔力を全て吸収し、再び横になる。


 やがて絶界が解け、教会の者達が押し寄せるが、横たわる聖女キリエしか存在せず、人々は混乱した。


 グリーダが殺されたと判断した教会の者達は白いローブに白い仮面の者を各国に指名手配した。


 なんとか事態を収まったが、聖女復活ショーは失敗に終わり、強硬派の地位は下がって行く。


 そして再び地下の禁庫に納められた聖女キリエは、ある日忽然と姿を消し、教会の者達が最高に混乱する事になる。




 こうして、誰よりも神を憎み


 そして、誰よりも神に憧れた女に、最期が訪れた。

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