秋とグリーダ3
「この魔法は凄くてな、簡単な奴なら消滅した服まで再生するんだよ。風邪引かなくて良かったな。とりあえず…ブレイジング・サン」
ボオオオ!__
「ブラッディ・クラッシュ!__っ!なに!」
青い小太陽がどす黒い奔流を突き抜け、グリーダに衝突。
青い火柱が上がりグリーダを焼き尽くす
「ぎいやあああ!熱い熱い熱い!」
身体が炭化するが直ぐに再生し、焼かれながらも直ぐに再生していく。
「お次は、バキューム・トルネード」
ゴオオオ!真空の竜巻がグリーダを襲う。
「ぐっ、いぎ、あがっ」
息も出来ず身体がねじ曲がりボキボキと骨が折れるが、直ぐに再生。
「お次は、ブリザード・ストライク」
ヒョオオオ!凍てついた吹雪が叩き付けられる。
「あああぁぁぁ!寒い寒い痛い!」
身体が凍り付き砕けるが、直ぐ様再生。
「そして、ガトリング・メテオ」
ドドドド!回転した隕石群が墜ちてくる。
「ぐぎゃ!あが!ごぶっ!」
グリーダよりも大きな隕石が衝突、身体が潰され再生、潰され再生を繰り返す。
「さて、知ってるかな?これは古代の知識なんだが…四大元素の魔法には法則があってな。赤、緑、青、黄の順番で超位魔法を使うと元素が循環するんだとさ。という事で…禁術、エレメンタル・ローテーション!」
ボオオオ!青い火柱が上がり、竜巻が加わると…
ゴオオオ!青い火災旋風となる。そこに水が加わり雷が発生…
バチバチ!青い雷の竜巻が吹き荒れ、土が加わり青い炎と交わる…
ゴゴゴゴ!雷を纏う青い熔岩の竜巻が爆発しながら螺旋を描き…
「ぎいやああああああぁぁぁ!!」
グリーダを繰り返し滅ぼしていく。
「………」
「痛いだろ?熱いだろ?寒いだろ?苦しいだろ?お前が皆にやってきた事はこんなもんじゃ足りねえぞ?」
「………ゆ…るさ…な…い」
グリーダは憎悪の籠った瞳を向け、震える手で左手の指輪から液体を取り出し、一気に飲み干した。
「へえ、秋の英雄の薬か。色の濃さからすると百倍か?どうせなら秋が飲んだ三千倍の原液使えよ」
先程とは比較にならない程の、どす黒い魔力が溢れ出る。
「死…ね…ブラッディ・カース・ディストラクション」
ゴゴゴゴ!どす黒い魔力の奔流がゴゴゴゴ!全てを破壊する程の呪いとなってカナン目掛けて襲い掛かる。
「すげえなー。リフレクト・ミラー・フォース」
ドンッ!カナンの目の前に巨大な鏡が出現
ゴゴゴゴ!__
グリーダの呪いを受け止め
ドゴオオ!__
星の力で増幅し、跳ね返す
「あああぁぁぁ!」
幾多の呪いがグリーダを襲う。様々な負の感情を吸収しながらも破壊され、再生されていく。
「アイ、紅羽、アレやろうか」
「「はーい」」
アイと紅羽が近寄って来てカナンの肩に手を置く。
すると黒、青、赤、紫色の立体魔方陣が展開された。
「ぐっ、はぁ、はぁはぁ」
「邪属性増幅してもあんまり効かないか…なあグリーダ、普通ならエターナル・リヴァイブは痛すぎて精神が壊れるらしいぞ。でもお前の精神は壊れていない、何故だか分かるか?」
「……」
「答えはお前の好きなエリクサーだ。飲み続けると、年齢を保つ効果と、精神を保護する効果もある。精神年齢も年を取らない。俺が時間経過でも憎しみが薄れなかった様に、お前の精神は壊れる事は無いんだよ。良かったな」
「ぐ、そ…」
カナンはストレージから古代の魔法玉を取り出しグリーダに向ける。グリーダは疲れきった様に動かない。
「メモリートランスファー」
グリーダの記憶の転写をし、魔法玉に保存した。
「なに、を」
「お前の記憶を複製させて貰ったんだよ」
「何だと…やめ、ろやめろやめろやめろやめろ!見るな見るな見るな見るな!」
「これで目的が分かる。魔法も完成した事だし、ちょっと修学旅行にでも行ってきてくれ」
予行演習の間違いかな?そう呟いた時に立体魔方陣が輝き、回転し、魔法が完成する。
「地獄門」
ブオン!と漆黒の扉が現れる。禍禍しい骸骨のあばらの様な扉。生きている様に蠢き、プシューと息をするように紫の煙が立ち上っている。
「往復切符だから安心してくれ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
ズルズルとグリーダを引摺り扉の前に立つ。流石に禍禍しい外見にグリーダも恐怖を示す。この先に何が待っているのか、想像を絶する物が待っていると感じる程の魔力を感じる。
ギコギコギコギコ。
扉が躍動する様に開く。
内部は紫の煙により伺う事は出来ない。
グリーダの目から涙が流れ顔は恐怖に歪んでいる。
「いってら」
「嫌だ!入りたく無い!お願いだ!」
「月並みな言葉だが、お前は助けを求める声に耳を貸した事はあるか?」
ポイッと扉の中にグリーダを投げ入れる。
断末魔の叫びが聞こえてくるが気にせずに、グリーダの記憶が入った魔法玉を眺める。
「アキ、それどうするの?」
「ん?ああ、吸収するぞ」
「大丈夫なのか?」
「まあ秋のけじめって奴さ。仇を討って、復讐してはい終わりってんならそれまでだが、こいつの業は背負わなきゃ秋として生きて行けない気がしてな」
「それで気が済むなら止めないわよ」
「ありがとな。もし昏睡して一時間しても起きなかったら、叩き起こしてくれ」
「ええ」
「ああ」
カナンは魔法玉を胸に当て、融合の魔法を発動した。
「フュージョン」
スーッと魔法玉がカナンの中に入っていく。
するとプツンと糸が切れた人形の様にカナンが倒れた。
「紅羽、待とうか」
「そうだな」
「アキの顔に落書きでもする?」
「それ良いな」
――――
―――
――
(ぐっ、頭が割れる様に痛い…グリーダの人生の記憶が流れ込んで来るが…230年分くらいか?こりゃアイと紅羽に叩き起こされるのが確定か?)
夢に居る様な感覚。自分の中にある精神世界で、早送りの様に記憶の映像を観るカナン。次々とグリーダの記憶が最新の記憶から古い記憶へと順番に流れ込んでくる。
(これは魔王に進化した時の記憶か?印象に残っている場面は少しゆっくり観えるな…)
負の感情を吸収する様子が写し出され、どす黒い力が漲る場面、そしてギュルギュルと次の映像に移る。
(これは王女か、幼女の王女、懐かしいな。あっ、寝ている王女に魔王の呪いを掛けるマーキングをしている…腹立つなー)
(おっ!次は太った時の様子だ。デブざまぁ。鏡を見て絶叫している…鏡を叩き割って荒れてるなー)
今50年くらい前か?とグリーダの記憶を観ていく。
(魔法の勉強をしたり、魔導具の研究か…アイディアは自分で出して研究者を馬車馬の様に働かせているな。だからなんか変な物が多かったのかな?あっ、研究者殺したな)
机に向かう映像が目立ち、研究者の首を跳ねる場面でギュルギュルと切り替わる。日常などの映像や使用人を虐める映像が続く。ロブ王国の遺跡では地下への扉を探していたが、魔導兵を倒さないと行けないと知り、諦める場面。
(何か行動に違和感があるんだよなー。ん?これは、200年くらい前か……イリアと揉めているな…なんでグリーダがイリアに憎しみの感情を持っている?)
秋が死んだ後の場面だろうか、憔悴した様子の聖女と向かい合って問い詰められているが、はぐらかしている。グリーダの内面が良く分かるが、イリアに向ける感情に首を傾げる。
(まっ、記憶が馴染んだら分かるかー。エリクサーを搾取する場面もあるな、そろそろ俺出るかな?おっ!出た出た!懐かしい顔してんなー)
秋と対面した記憶が写し出される。罵倒し、拷問する様子、孤児院の子供達を嬲り殺す場面も写し出された。
(あーくそ。思い出したら駄目だな。地獄門じゃ足りねえんじゃねえかな?)
勇者や聖騎士、聖女と出会う場面等が写し出される。ファー王国の暮らし振りを見てカナンの顔が歪んでいく。
(贅沢三昧か、予想通りだけど…性癖が拷問ってどんな外道だよ)
更に記憶が進む。グリーダが10歳くらいだろうか。目線が低くなってきた。城の外に出ている映像、街道を通り日を跨いでもひたすら進む映像。
(なんだ?こいつ一回誘拐されたのか?_いや違う。自作自演の誘拐か?何の為に?)
やがて多くの日数を重ねてたどり着いた国。
(ここは_ラジウス王国!?邪王が生まれ、秋が死んだ国…おいおい、これは)
グリーダは魔法を使って見つけた城の隠し通路を通り、邪王になる前の国王の元に辿り着いた。そこで国王を洗脳しながら話をする。グリーダが書いた秘術の書を渡しているのが観てとれる。
(まじかよ…進化の秘術はグリーダがラジウス国王に教えたのか…最初からこの場所で邪神が顕現する事も知っていたのを観ると…グリーダは転生者?あれ?もしかして秋って間接的にグリーダに殺された?)
カナンが混乱している隙に映像が進む。目線が低くなり、5歳ぐらいかな?と推測。
(魔王を生み出したのも、邪神を顕現させたのもこいつが原因かよ……なんか頭痛が酷くなってきた…ん?ここは大教会か?しかもこの幼女は…?)
場所は大教会。恐らく洗礼の儀式だろう。沢山の子供達の中に飛び抜けた美少女がいる。そしてグリーダが近付き話し掛けた。目の前に立っている桃色の髪の幼女がこちらを見ている。
(うわー!この幼女可愛いなー。ギュッてしたいわー。_げっ!殴った!ちょっ、やめろ!まじかよ!グリーダくそガキじゃねえか!)
そして場面が変わり、赤ん坊の映像が終わり、更に場面が切り替わる。建ち並ぶ高層ビルの様な建物。空を飛ぶ乗り物や車の様な乗り物が見える街並みを、とても高い位置から見下ろしている場面。何故かハァハァと息切れしている。
(地球じゃないな。これは古代文明の時代?グリーダは古代人の転生者だったのか。しかも古代の女王か?)
その街並みが突如一変。早送りで風化する様に崩れ去る街並み。それを見て絶叫し、絶望するグリーダと思われる人物。
(これが天罰、か?うわ…すげえな。崩壊の魔法を全体に掛けたみたいな大魔法か)
そしてギュルギュルと映像が切り替わる。
グリーダが誰かと闘っている映像が流れた。
(なんだ?戦争?いや、襲撃か?)
苛立ちや憎しみの感情が入り乱れ、グリーダは激しい息切れをしている。
そして視線の先、武器を持ち相対する人物を見てカナンは目を見開き叫ぶ。
「_なっ!イリア!」
――――
―――
――
「アキー」「アーキー」
ペシペシと顔を叩かれカナンの意識が浮上する。
「_んあ?……時間か」
「うなされてたわよ?大丈夫?」
「んー、まあなんというか…色々分かって疲れたかな」
「後で聞かせてね」
「ああ、記憶が馴染んで整理が着いたら話すよ…とりあえずグリーダの目的はなんとなく分かった」
「あら、分かったの?」
「こいつも復讐者だったって事かな。魔王の力と聖女の力を融合して、神種、又は超越種になるつもりだったんだよ。はぁ…ったく…あいつ古代まで行って何してんだよ」
最後の映像を思い出し深いため息が漏れる。もしかしたら古代文明が崩壊した原因は…と思考の海に沈もうとした所でプシューッ!と地獄門が開いた。
「まあ何にせよこいつは生かして置けないな。危険過ぎる」
エレメンタル・ローテーション~赤、緑、青、黄色複合特殊条件禁術、正しい順番で超位魔法を発動すると使用可能な禁術、最初に使った属性がベースになるので、4種類のエレメンタル・ローテーションが存在している。
地獄門~赤、青、黒、紫色複合神位魔法、主人公オリジナル拷問魔法、地獄の門を開き対象の罪によって行き先の異なる地獄へ案内する、八大地獄、八寒地獄のどれかに行ける地獄ツアー。因みにグリーダさんは大焦熱地獄と青蓮地獄に行ったご様子。




