霊山へ
「アキ、夜中にガサゴソしていたけど何していたの?」
「03の状態を見ていたんだよ。多分問題なく動くよ」
「ふーん、何処までしたの?」
「…何がですか?」
「ナニがよ」
「…右腕を取り外して魔力回路を視ただけだよ」
「嘘ね」「嘘だな」
「…確認ですよ、確認。何処まで精巧に出来ているかの…ね」
「「ふーん」」
やましい事はしていないと必死に主張するカナン。アイと紅羽は特に気にしていなく、ただふざけているだけなのだが、朝からピリピリとした空気を演出している。
『ふざけてないで早くご飯食べようよ』
「そうね」「そうだな」「……」
朝食を済ませ、家の外に出る。家を元の岩に戻し山脈の方角へ飛び立つ。
暫く進み、進行方向に伸びる山脈に差し掛かる。
山々が少しずつ高くなり、遠目に見える2000メートル級の頂点が双子山になった山脈。麓は全て深い森に囲まれており、一般人が地上から進むには大きく迂回しないと行けない程だ。大教会は双子山を抜けた先にある。
だがよく見ると山脈の中心に沿って、馬車がすれ違えるくらいの街道の様な物が伸びている。この道を進み、山越えをするのが最短ルートの様だ。
「さて、山脈の真上は飛べないから森の上から様子を見ようか」
『ほんとね。霊山って言われるだけあるわね。凄い魔力…』
「まあ迂回すれば害は無いからなー」
山脈から離れ、深い森の上を進み、山脈に伸びる街道を確認していく。ちらほらと馬車が進んでいる。大半が巡礼者や商人だ。貴族の馬車らしきものは見えない。
「豪華な馬車は見えないなー流石にもう大教会に居るのかな?」
『移動したのは1ヶ月くらい前よね?』
「ああ、そうだよなー…ん?あんなのあったっけ?」
双子山に差し掛かった時に2つの山の間、谷の中心部分に建物が見える。その建物の付近に豪華な馬車を発見。レンズの魔法を発動し、拡大してみる。
「あー、ロブ王国の紋だな…ちっ…寄りによってあそこか」
『あそこ凄いね。霊山に居る人間は大丈夫なの?』
「あの街道を通るなら大丈夫なんだよ。街道から逸れると白色魔力に適応していない者は、魔力酔いでまともに動けなくなるんだ」
『私と紅羽は出れないわね。特に紅羽は存在力が減って幼女になるかもねー』
『アイ!やめろ押すな!幼女は嫌だ!』
「ロリ巨乳か…」『チビは嫌なんだよ!』
ロリ巨乳は見たい、見たいけど嫌がっているなら仕方ないと諦め宿泊施設を眺める。施設に出入りしている者を見ていくが、目的の人物の姿は無さそうだ。
「こりゃギリギリまであそこに居そうだな」
『そうなの?』
「ああ、霊山の魔力に身体が馴染めば、それだけ聖女になった時に副作用や変調が無いと思うし、上手く行けば魔力も上がる」
『じゃあショーの最中に殴り込みかしら?』
「そうなるかなー。とりあえず今は、あの双子山には近付かない方が良いかな」
カナンは顔を顰めて双子山を見据えている。
『そんなに嫌がるのも珍しいわね。そこに何があるの?』
「あー…秋のペットが居るんだよ…」
『あら、可愛いの?』『見たいぞ!』
「…ああ…可愛いぞ……でも、もう少し大人になってからな…」
『あー、もしかして強いのね』
「そうだな…おっ?あれはデブか?」
よく見るとぽっちゃりした人物がチラチラ見える。角度を変えてもチラチラとしか見えない。
「ん?そんなにデブじゃねえな…何でだ?揉めてる様だけど」
『確かにそんなにデブじゃ無いわね。違う人かしら』
「集音の魔法でも使うか。サウンドコレクト」
集音する魔法を発動。離れているので全ては聞き取れないが少しずつ聞こえてくる。
≪戻…てわ…の部屋≫≪時間…あり…せん≫
≪なん…し…!≫≪ですが!グ…ダ様!≫
「居るんじゃないか?何やら戻って部屋の荷物を取りに行きたいって言ってるけど、駄目だって押し問答してる。グリーダって聞こえたし。あ、なんか霊山に入ってから身体の調子良いみたいだぞ」
話の内容を噛み砕くと、霊山に入ってから少し痩せた様だ。
『ふーん、どうするの?』
「どうしようかな。このまま双子山に飛んだらアイツに撃ち落とされるし…準備万端の所で叩き潰したいからなあ」
『でもアキの事だから、待ったらなんやかんやで聖女になっちゃうんじゃない?』
「最善は尽くすさ。もしそうなっても、聖女殺しの天罰が起きない裏技はあるからな」
『あら、どんなの?』
「まず、これは古代の研究資料で実証された事だから確実性はあると思う。聖女殺しの天罰は、殺した存在と関係者に対して起きる。国が指示して兵士やごろつきが殺したら、順番に死んで指示した国ごと滅びるって感じかな。本当か知らんが、最悪魔王が聖女を殺せば天罰で相討ちに出来るから勇者パーティーに居るのは保険の意味合いもあるらしい。なんでそうなるかはよく分からないけど、一応星の女神の加護があるからそれだと思う。で、裏技だけど、神種に聖女を殺して貰う事だよ」
『へえー神種なら天罰は受けないの?』
「らしいぞ、あの魔方陣を使って召喚したり、捕まえた弱い神種で実験して、結果は何が起ころうとも全て防御したらしいぞ。最初に実行者に天罰が行き、そこで止まれば終わる」
『ふーん、神ってよく分からないけど凄いのね』
「ある条件と、神気ってのが使えれば神種らしいぞ。人間からも成れるけど条件がかなり厳しいな。とまあ人間の探究心とは恐ろしいもんだ」
ため息を付くカナンは幾つの国と聖女が犠牲になったのかと、記録を見る限りでは10例程あったのを思い出す。
「まあ、デブーダが生きている事が分かった事が大きな収穫だからなー。当初の目的に移りますか。リーリア、白色の精霊居た?」
『うん。あの双子山と山脈の入り口に居るかなー。精霊石は持っているらしいよー』
「おっ!やった!じゃあ山脈の入り口に行くか」
善は急げとばかりに来た道を戻る。しばらくすると山脈の入り口に到着し、地上に降り立った。
街道から外れ、白色魔力の濃い場所に進む。リーリアが石から出てきてカナンの肩に座った。
「リーリア、ここら辺?」
『そうだねー。あっ!こっちこっちー!』
ふよふよと白い珠が飛んできた。こんにちはと言うように光が点滅している。何体か出てきてカナンの周りをゆらゆら回っていて、カナンが手の平を上に向けるとふわりと精霊が手の平に乗った。
『ほんとー?分かったよー。アキ、ここの魔力のお陰で白色精霊石は沢山あるんだって。まあただじゃ悪いから依頼受ける?』
「ありがとな。そうだなー。霊山から少し離れる依頼なら大歓迎だぞ」
『うん、うん。アレならあるよー。アキ、精霊水飲みたいって』
「え?そんなんで良いの?ほれ」
ストレージから、大きなたらいに精霊水を入れて地面に置くと、わらわらと精霊が寄ってきた。
「凄いなー。100体以上居る。っとこれじゃ足りないか」
更にたらいを複数置き、精霊水を入れておく。白色がわらわらしている光景をボーッと眺めていると、美味しかったという様に点滅し、飲み終わった精霊から次々とカナンの前に2~3センチの精霊石を置いていく。やがて積み上がっていく精霊石。
「いや、こんなに悪いって…」
『一応他にも何かあるのか聞いてみるねー』
「よろしく」
40センチ程積み上がった精霊石から一つ取り、じーっと眺める。形は様々で、白い宝石の原石に見えるが、多くの白色魔力が内包しており、一個いくらになるんだろう…最低黒金貨20枚かな…と貰いすぎて顔をひきつらせる。
『アキの活躍は、矢印が自慢気に広めてるから精霊達は皆知っているんだ!有名人だね!アキ!』
「あー、そういう事ね。いや、他に頼み事でも良いからしないと、罪悪感が凄いぞ」
『そう言われてもねー、霊山には魔物は来ないし。え?遊び場の廃墟におじさんが住み着いたから追い出して?だってアキ』
「おー、任せろ。何かやっておかないとな」
『南西の森の中だってー。森を歩いて2時間くらいの距離で、頼んだ精霊が案内してくれるって』
一体の精霊がふよふよとやってきた。依頼をした精霊だろう。白色の精霊石をストレージにしまい、精霊達にお礼を言ってから、のんびり行くかと歩いて精霊に付いていく。
「おじさんって言っても、多分魔物の類いだな」
『おじさんだから私はパスね』『我もここら辺には出たくない』
「分かったよ。サクッと終わらすから。終わる頃には昼かな?まあ、のんびり帰ろう」
『『はーい』』
沢山の精霊石を手にした、ご機嫌なカナンの足取りは軽い。
「もう加速空間の研究所でも作ってじっくり研究するか!」
『出来たら教えてね』
「おう、分かったよ」
『サティさんに教えてあげなきゃね』『そうだな、忙しいサティちゃんにはピッタリな部屋だ』




