ロブ王国へ5
深夜になり。脳内会話の盛り上がっている声で起床したカナン。どうやらアイ先生による紅羽の勉強会の最中だった様だ。学校を見学してから学びたがっていた紅羽は着々と知識を増やしていっている。今日もテクニックがどうとか言って学んでいたので、カナンは微笑ましく思いながらも起き上がる。
「おはよう皆」
『おはよう、アキ』『おはよー!』『お、おはようアキ。我も頑張るからな』
「ん?とうしたの?何でもない?わかった。よし、準備して行くかー」
窓から飛び出し、再び王城へ。こそこそと向かう。今回は上から攻めるので、王城の真上をゆっくりと回る。と言っても直ぐに見つかりそうた。
「リーリア、悪いが頼むぞー」
『はーい。おえっ、キモイ空気だねー』
リーリアに邪気が濃いところを見付けて貰う。石からぴょんと飛び出した妖精がふよふよと王城の周りを回る。
『んー、ここじゃない。ここでもないなー。あっ、少し離れたあの尖塔かな?』
リーリアが指差す先に宮殿から少し離れた場所にある尖塔があった。高さ50メートル程、上部が膨らんだ構造になっており、窓が1つある。明かりは付いていない。魔導エレベーター式の塔の様だ。
「リーリア、ありがとな。多分あそこだ。明日パフェ作ってあげるからな」
『わーい!約束だよー!』
リーリアは石の中に戻り、再び脳内会話が賑やかに。それをスルーして尖塔に向かう。
「窓から入れるかな?鍵が掛かってるか、いや…これ封印か。なら開けようかな。リリース」
封印を解放してカチャリと窓を開ける。中に入り、窓に暗幕の魔法を発動させてから灯りを付ける。
「ブラックアウトカーテン、ライト。よし、結構物がある。じっくり探すかー。にしてもあの地下より淀んでるな、多分中に入ると発狂するから誰かが封印したのかな?…いや、違うな。床に魔方陣がある。術者以外に邪気を当てる古代式だ…こんなにするなら全部持って行けば良かったのに。持って行けない程切羽詰まっていたのかね」
広さは20メートル四方、塔の上にしては以外と広い。順々に物色していく。高そうな調度品、多数の細身のドレス。アクセサリー類は無かった。
「デブって聞いていたからな、細身のドレス着れないのに持ってるとか、痩せたら着る精神だな。おっ、魔法書だ。闇魔法、呪術、邪術、秘術、古代魔法…やべえ奴だな。古代魔法とか俺の知らない魔法もあるな…全部貰おう。流石にエリクサーは無さそうだけど…ん?研究資料?」
魔法書を根こそぎ貰い、綺麗に整頓された研究資料を見る。タイトルは魔導具、神、古代と様々だ。
「魔導具関連、んー魔装鎧はグリーダが開発したのか。魔石に使用者の魔力を浸透させて作るオーダーメイドなんだなー。後は…昨日見た魔導具のほとんどはグリーダが開発している。そんなに頭良かったのか?まあ200年もあれば勉強も出来るか…」
他のタイトルもパラパラと捲り、流し読みしていく。帰ってから読んでも良いかなー。と最後に古代のタイトルを手に取った。
「古代の研究か。遺跡が近くにあるらしいな。もう堀尽くした感じだけど、やっぱり読む限りは、栄光の民ってのが古代文明を支配していたかな?……栄光の民は世界を手にする為に超巨大魔方陣を構築…か。あの石碑はその一部だな、その遺跡も角だとすると、計算すれば中心が分かるか…今度行ってみよう」
研究資料も頂戴し、写真等も見るが太った写真は1枚も無い。
「痩せてる写真しかねえな。デブーダを見たかったが…とりあえず一通り見たかな。ベッドやトイレにも何も無かったし、隠し部屋とかあるかな?サーチ」
探索の魔法を発動。部屋の構造が分かる様になった。
「んー、ベッドの下と屋根裏があるな。とりあえずベッドの下か」
ベッドを持ち上げ、床を探る。カコッと床が動き外れた。
「んー、日記?」
パラパラと捲る。そこには王城の生活についてや、身体の変化等書かれていた。
「デブーダに成ったのは大体50年前。それから色々試したのか。エリクサーを飲み続けると自然と魔法適性が増えるけど、デブーダは魔法適性が増えなかったみたいだな。そのせいで魔力の偏りが出て身体に変化が起きたって感じか」
更に読み進める。美しさを求めて色々試した奮闘期が主だ。
「大体10年前に移魂の法を習得か…6年前、6年前っと、あったあった。やっぱり1度ファー王国に行ってるな。隠し通路を進んで王女の部屋に行ったのか。うわっ、すげえ嫉妬の文章だな…ふーん。…そこで思い立って王女に成り代わろうとしたんだな」
パラパラと捲る。
「俺が王女を治した頃に、呪い返しにあってる。エリクサーをガバガバ飲んで治ったけど、後遺症で痣が残ったか。更にエリクサーの飲み過ぎで、身体が思うように動かなくなったのか。その後にこの部屋に魔方陣を組んで自分の物を守ったんだな」
最新の日記を読み進める。
「魔王の核については書いていない、研究資料の方か?。…美しい器を探している時に、エリクサーの噂を聞いた大教会の強硬派と接触。聖女の器があると聞き、エリクサーを渡して手を組んだ…か…ん?最後の一文…これで計画が進む。何かするのか?」
そこで日記は終わっていた。
「とりあえず少しは苦労したんだな。ざまぁ。けど分からない事もあるな…目的が意味不明だ。そもそも長く生きるならエリクサーに拘る必要なんて無い。願いの宝珠やダンジョンコアとか方法はいくらでもある…」
考えるのを辞めて次は屋根裏部屋へ。天井に取ってが有ったので引いてみる。ガタンと折り畳み式の階段が出てきたので階段を昇る。
「ここは何があるかなー。邪気が上がったなー……んー?……ダークマターだなこれ」
屋根裏には台座があり、漆黒の玉が乗せられていた。封印が施されており黒い霞みが周囲を回っている。
「やべえ物持ってるじゃねえか。使っていなくて良かったわ、ほんとに。更に封印しとくか…イモータル・シール」
封印の魔方陣を展開し、ダークマターに強固な封印を施す。黒い霞みは消え、ただの黒い玉に見える様になった。そしてストレージの奥底にしまう。
「ほんとにやべえ奴だな。後は、何か色々あるな…後で調べよう」
呪術に使う道具などがあったので回収。空っぽの屋根裏部屋を後にして部屋に戻る。
「流石に聖女に成る為の計画書は無いかー。この部屋の物を回収出来ないくらいに身体が変調を来していた訳か…内容がアレだから他の人間に頼む訳にもいかないよな」
探し残しがないか再度確認していると、床の魔方陣が邪気を吸い込み始めた。
「あっ、時限式の魔方陣も組まれてるか、仕方ない。出るか」
サッと窓から飛び出す。その少し後にドロドロと尖塔が溶けて行くのが見える。やがて水溜まりの様に広がって跡形もなく溶けた。
「危なかったな。ダークマター回収しといて良かった」
このままでは巡回の兵士に見つかるので退散。もう用は無いので宿に戻った。
「なんか情報が多いなー。宿は昼まで居れるからギリギリまで寝てから考えるか」
寝る準備を済ませ、ベッドに倒れ込む。やがてウトウトと眠りに入る時、誰かが後ろから布団に入る。優しく抱き締められる感覚に、カナンはアイかな?とそのまま眠りに入っていった。
「秋ちゃん…来ちゃった」




