ロブ王国へ4
「お前…だったのか」
ずっと、探していた。王女に呪いを掛けた犯人を。怒りよりも妙に納得したような、不思議な感覚。遅れて怒りが沸々と沸き起こる。
「……」
落ち着く為にふぅーっと深呼吸。邪気も一緒に吸い込むがカナンには効果が無い。邪気の塊、邪神と対峙し闘った経験があるので、人一人呪う程度の邪気は可愛いものだ。
「とりあえず、この魔方陣は王女に害は無さそうだし、何か分かるかもしれないから切り取って保管しておくか」
魔方陣をくりぬきストレージにしまう。しかし邪気が晴れる様子は無い。あれ?と首を傾げる。
「邪気が消えないな。呪い返しでも起きたか?だとするとユウトが言っていた病気も間違いでは無いか…」
また深夜に調査かな…そう思いながら地下を出る。階段を上がり人が居ないのを確認。こそこそと窓を探しそこから脱出。そのまま宿に帰ってきた。
「ふぅ…ちょっと寝るか。先に考えを纏めないと」
手に入れた情報を紙に書き写し、寝室へ行きベッドにパタリと倒れる。
「明日はグリーダの部屋が目標だな。昼間はユウトと約束あるからちゃちゃっと教えるか」
―――
『なあアイ、リーリアはまだ寝てるのか?』
『ええ、昼間から空気が悪いって石の中でゴロゴロしてるわよ。妖精だから邪気に敏感なのかしら。その後プリンで治すって言って更に具合悪くなってね』
『アホだな』
『アホって言うなー!』『おはよう、リーリア』
『おはよー。慣れたから大分良くなったよー。』
『そういえば、アキが1人で寝ているな』
『そうね。チャンスよ』『チャンスだな』
『いってらっしゃーい!』
―――
太陽が窓から差込み、まどろみの中、カナンは何か暖かいものに包まれる夢を観ていた。
「ん…あ…朝か…少し寝れた…な?」
「おはよう、アキ」
「おはよう、アイ。寝ていないのか?」
「少し寝たわよ。でも後でまた寝るからね。1人で寝るのが寂しそうだったから添い寝していたのよ」
「ありがとな。それと、どうして服着ていないの?」
「アキに襲って貰おうと思って。紅羽は恥ずかしがって石の中に逃げたわ」
「そうか……」
いつになったらあの暴力的な果実を触らせて貰えるのだろうか…ガードの固い紅羽を思う。
「でも私達って好きとか恥ずかしいとかはあるけど、サティさんみたいに性欲は無いのよねー。人間に近付いたらあるのかしら?」
「そうだな。感情は豊かになったけど。緑と黄色を見付けてからだな」
「ウフフ、そうね。それまでお預けね」
「ああ、残念だがな」
唇が触れあう様な近い距離で笑い合うカナンとアイ、そして何かを思い付いたアイはウフフと布団の中に潜り込む。
「ん?アイ?ちょっ、アイさん!?あっ!アイさーん!」
―――
「さてユウト。竜魔法について教えようか」
「ん?どうした?まあ良いか。よろしく」
王都から離れた人気の無い草原にやって来た。カナンとユウトの二人のみ。取り巻きが来るのは話が拗れるので遠慮して貰った。
「とりあえず、竜化しないと竜魔法は使えないの?」
「そうだな。でも竜化してから使うものじゃないのか?」
「このままでも使えるぞ。ユウトは竜化してから竜の身体に、沢山の魔力を注ぎ込んで無理矢理竜魔法を使っていたけど、本来竜魔法は竜気っていう力を使う物だから別に竜化なんてしなくて良い」
「竜気?」
「そう、竜の力の源だな。根本的には俺ら人間が持つ気の力とそうは変わらない……闘気とか覇気とかの仲間だ」
「闘気は分かる。闘っていると自然と身に纏っているやつだな」
「そうだな。まあ追々闘気も使いこなせば戦闘は楽になるぞ。一定のダメージは効かないし、身体能力も上がる」
「もしかして獣王国の王子を倒したのも闘気を使ったのか?」
「まあ、そんなものかな。俺は魔力も使ってるから魔闘気って名前」
「何か強そうだな」
「完全に習得出来たらな。なんせ魔力と気力は水と油だから、混ぜ合わせるのを失敗したら身体が重くなるだけなんだ。まあ前置きはここまでにして、まずは生身の状態で竜気を練る事だな」
カナンはユウトの背中に手を当てて、竜気を送り込む。お手本があれば習得しやすい為だ。
「おっ!この感覚かな?分かる分かる!凄いな!」
「ここまでは直ぐ出来るさ。竜魔法使ってみ?」
わかった、と竜気を練り込んでいく。カナンはそれを見て、流石主人公、理解が早いねー、と感心していた。
「ドラゴンパワー!__くっ!」
ギンッ!とユウトの身体が盛り上がる。苦しそうな表情をしているのは、竜の力を生身の身体に乗せる為、負担があるようだ。
「んー。身体に変化があるって事は制御が甘いんだよ。今日は竜気を使いまくる計画でいこうかー。アビリティディスペル」
カナンは魔法を発動。ユウトの付与した能力を散らす。シュッとユウトの身体が元に戻る。
「うおっ!ドラゴンパワーが無くなったぞ」
「不合格だから無効化したんだよ。もういっちょ」
「まじかよ。_ドラゴンパワー!」
「不合格。アビリティディスペル」
「ちょ、…辛いんだけと…」
カナンは無言でストレージから薬品を取り出す。
「ほら、精霊水とグレーターポーションを調合した気力を回復する薬だ。沢山あるぞ」
「げっ」
100本程並べると、ユウトの顔が引きつる。
「望む所、なんだろ?」
「お前、性格悪いって言われねえか?」
「純白の天使の心を持った慈悲深い性格とは言われるな」
「嘘つけ」
「さあ、次行こうか」
―――――
―――
―
「なあ、ユウト聞きたいんだけど」
「はぁ、はぁ、なん、だよ」
「政治の指南役ってどんな病気だったの?」
「はぁ、はぁ、……ふぅ。んー、包帯で顔半分を覆っていたからよく分からなかったな」
「そうかそうか(呪いの余波で痣でも出来たか?ざまぁ)体型は?」
「体型は、痩せてはいなかったな。うん、重そうだったかな」
「ははっ、なるほどな(くっくっく、エリクサーに適用出来なかったか、飲み過ぎか、変な飲み方したな)」
「一応国民からの支持は高かったぞ。国の財政を持ち上げた功労者ってな」
「ふーん、それでポックリ逝った訳だ」
「噂の話だが、何やら他国の重鎮にそのエリクサーだったよな、それを渡して繋がりを広げていったらしいぞ」
「賄賂かな。それで大教会の強硬派を引き込んだのか…そこまでして生きたいか」
「まぁ俺が集めた情報はこんなもんだ。どうせ何かあるんだろ?」
「ははっ察しが良いね、ありがとな。また教えるよ。明日この国を出る予定だから、次は別の場所かな」
「その時はよろしく頼む。今日で大分強くなれた」
ユウトと別れ、宿に戻る。深夜まで時間があるので寝る事にした。
「さて、何が出るやら」




