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ロブ王国へ3

 ユウトは、こめかみをグリグリしているカナンを眺めながら、オーダーしていた紅茶を飲む。カナンから小指立ってるぞと言われるが無視していた。


「そうだ俺、そろそろこの国は出るから」

「そうなのか?技術も発展してるし、色々目を瞑れば過ごしやすそうだけど」

「その目を瞑る所がヤバいんだよ」

「ふーん、例えば?」

「重税もあるけど…王都って違和感無いか?」

「確かに何か引っ掛かる」


 割りと綺麗な街並み、発展した技術。奴隷を除き貧富の差が少ない民衆。


「スラムが無いんだ。いや、無くなったというか」

「あー、そうだそうだ。なきゃおかしいよな。無くなったって?」

「恐らくスラムの住人はほとんど殺された」

「何?軍が皆殺しにしたのか?」

「正確には全員何処かに連れて行かれた。その後戻ってきた者は居ない」

「そう…か。目的は分かるか?」

「いや、噂で聞いただけだから…」


 これもグリーダの仕業か?何したいんだよ…とカナンはため息を付き、そういやユウトと約束していたなーと思い出す。


「ありがとな、充分な情報だ。ほれ、通信の魔導具やるよ。俺に繋がる。明日暇か?」

「うん?これ本物か?暇というか明日は鍛練するから」

「丁度良いな。じゃあ明日は情報のお礼に竜魔法教えてやるよ」

「まじか!やったぜ!」

「竜魔法って直ぐに習得出来るモノじゃないんだ。だから定期的に教えてやるから覚悟しとけ」

「望む所だ!」


 じゃあな。ユウトと別れ一度宿に戻る。ただいまー、と部屋に入りふぅっと一息。リビングにあるバーカウンターに座り、バーテンダー紅羽を眺めながら考えを整理する。


「グリーダは死んではいない。これは間違いないな。大教会へ行って何をするか。恐らくは…移魂の法」

「アキ、お帰りなさい。移魂の法?」

「移魂の法は空っぽの器に魂を移す秘術。グリーダは大教会へ行って聖女になる気かもしれない。聖骸は綺麗な状態だったし」

「その前に殺す?」

「いや、目的が分からないと難しいかな。しかも霊山って厄介な場所だし…とりあえず王城に侵入して痕跡を探るしかないか」


 辿り着かない答えを求めて考えるが、夜に探せば良いかと呟く。ちべたいと言いながらカッカッカッカッとシェーカーを振るバーテンダー紅羽の揺れるシェーカーをウンウンと堪能しながら。


「お待たせ、アキ」

「ありがとな。紅羽」


 紅羽から白っぽい透明なカクテルを受けとる。匂いで分かる、お酒だ。


「お酒は15歳からだけど、ファー王国じゃないからまあ良いか……おっ!美味しいよ紅羽。ホワイトレディに似ている…懐かしいなー」

「ふふっ、喜んで貰えて良かった」

「紅羽がアキを喜ばせたいって言うから教えたの。たまにアキがバーに居る夢を観るんだけど、お酒好きなの?」

「好きというか、親友がバーをやっていたから愚痴を言いに行っていただけだよ」


「アキ、友達居たのね」「意外だな」


「いやいやいや、居たよ、普通に居たよ。10人くらいは居たよ」

「それって多いの?」

「成人した後に付き合いのある友達なんてそんなもんじゃねえか?」

「ふーん、男?」

「ああ、男だよ。転移する前は彼女も居なかったからな、休みの日は妹とよく行っていたんだ。元気かなぁタイチ」


 雑談して、少し寝てから深夜を待つ。外は賑やかな人の声。喧嘩の声など殆んど聞こえず。王都の一時の平和だよなぁ…色々荒れそうだけど…と少し先の未来を見据える。


 深夜。

 ガサゴソと用意をして、姿を隠し王城を目指す。

 今回はファー王国の王城と違って初めて入るので2日に分けて探索する予定。


 宿の窓から飛び立ち、そのまま王城へ。

 先ずは周りを旋回。警備を確認。深夜なので騎士もあまり居らず、結界等も弱いので簡単に入れそうだ。


 王城は掘りの中に城壁があり、その中に宮殿があるスタンダードなタイプ。


「何処に何があるか大体分かりそうだな…難易度はそんなに高く無い。上から行くか、下から行くかだけど…今日は下からだな」


 下働き用のエリアを発見。降り立ち、こそこそ中へ。


(何処も深夜まで働いてるんだな、ご苦労なこって)


 入り組んだ廊下を歩く、途中厨房があり気になったが諦めた。


「んー事務室かな?文官は居ないみたいだ」


 事務関係のエリアに到達したので中へ。中は机が並び、職員数みたいだなーと思いながら最近の資料を探す。文字が沢山。カナンは主だった資料を高速で見ていく。中々これといった資料は無い。国が違うと勝手が違うので時間が掛かってしまった。


「んー、よく分からないなー。あっ大きな机、文官長の机かな?」


 机の前に立ち、引き出しを開ける。綺麗に整頓されていて、性格が伺えそうだ。


「んー魔導具関係の資料が多いな。やっぱり特産は魔導具か。重要な魔導具は工業の街にある王家直属の工房のみで生産してるっぽいな。魔装鎧は黒金貨二枚が卸値。高いのか安いのか分からないけど…ん?」


 最近の魔導具関係の売れ行きが急上昇している。


「半年前くらいから魔法玉の生産が急激に伸びてるな、売れてはいないのに何でだ?…後は領収書みたいな奴があるだけか…ちょっと長居しちゃったな。他に行こう」


 収穫無しかーと呟きながら事務室を出る。行っていない通路を進む。


「ありゃ、ここは騎士団関係か、引き返そう…ん?人か」


 通路の陰になっている場所で二人の騎士が話をしていた。カナンは何となく近付き様子を見る。


「なあ、俺、騎士辞めたいんだ」

「あー、お前もか、やっぱりあれか?」

「ああ、声が耳にこびりついて離れないんだ…もう限界だよ」

「そうだよな、でも指揮していた指南役はもう居ないんだ。忘れろよ」

「はぁ、辞めても宛がある訳じゃないし…仕方ないけど、あんな方法で人を殺すのは初めてでさ」

「はははっ、確かに、俺も寝込んだわ。でもスラムの屑共だから良いじゃねえか」

「お前は気楽で良いよな…」


(やっぱり軍が粛清したのか、グリーダの目的が分かれば良いけど…やばいな、朝が近いのか人が増えてきた…事務室で長居し過ぎたか)


 素早く廊下を進む。そのまま騎士関係のエリアを進んでしまったので、出口を探し、奥へ奥へと進む。やがて寂れた雰囲気の誰も立ち寄らない様な場所に出た。


「帰るかなー。おっ、地下の階段。何かありそうだ」


 気が変わり見つけた地下へ。そろりそろりと階段を降りる。湿った空気にお化け出そうだなーと思いながらも降りていく。やがて一番下まで降りた先には、鉄で出来た重厚な扉。


「なんだろ、ここ。封印されているな…警報は無いし、面白そうだから解除するか。リリース」


 解放の魔法を唱え、封印を解除。数年は開いて居ないのだろう。手で押すとギギギと音を立てて少しずつ開いていく。


「開いたなー。中は何があるのかなっと…うわ…すげー邪気…普通の人間は気が狂うから入れないなこりゃ」


 中には20メートル四方の正方形の部屋。床には魔方陣が刻まれている。他には何も見当たらない様子。


「なんだこの魔方陣。古代式か……遠隔で行える……呪い……」


 古代の翻訳ノートを取り出して式を読み込む。


「呪いの行く先はマーキングした人間が対象。マーキングさえすれば遠隔で呪いを送れるタイプかなー。対象の魂を喰らい、空っぽの器にするって、魔王の呪いか?……ん?対象の人間の名前が書いてあるな…消した痕跡があるが、俺掛かれば読めるのさ!レストレーション!……_っ!まじかよ!」


 呪いの名前は、魔王の呪い。数年前、カナンが治した呪い。


「クリスティーナ・ファー・アデライト」


 ファー王国、第三王女の名が刻まれていた。


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