もうすぐ夏休み
昼になり、王女、ミシル、プルセラと別れ、学校別、学科毎に集まっての昼食。点呼が終わりモリーとカナンは端の方で食事を取る。王女達と一緒に行動しかなり注目されていたので、人払いの魔導具を設置。カナンとモリーに王女達の事を聞こうとしていた知らない人達は首を傾げ去っていった。
「カナン…僕はもう疲れたよ」
「ごめんな、モリー…俺も…疲れたよ。午後の課題は、学校で出来ない薬品の作成だよな」
「そうだね…臭いの強いやつとかだね」
昼までは散々女子トークに付き合わされ、ぐったりしているカナンとモリー。モリーはカナンのせいで巻き込み事故にあったので、カナンが何か奢るという事で手を打った。
「ん?皆出てきたのか」
「アキ、そこの煮物欲しい。頂戴」「はいよ」
「アキ、今日は卵焼き無いのか?」「ん?出してなかったか、ほれ」
『アキー!今日はゼリーなんだね!』「天草に似た海藻あったから作ったんだよ」
人払いの結界を確認した石の住人が、しれっと出てきた。ピクニックの気分を味わいたいのだろう。カナンは精霊の森はピクニックじゃないのか?と疑問を持つが気分の問題か、と微笑ましく眺める。
「…ねえカナン。ごく自然な食事風景な所悪いんだけどさ。ちょっと理解が追い付かないから説明欲しいな」
「ああ、悪い。嫁と妖精だ」「説明雑だね!もっと詳しく!」
「どうもアイでーす」「紅羽だ」『リーリアだよー』
「最近知ったんだけど、俺結婚してたんだ」「それ最近知ること?…モリーです…宜しく」
「「『よろしく』」」
後でまた説明してね、というモリーはもう精神的に疲れたのだろう。普通に食事をして受け入れている様だ。
「カナンと居ると飽きないよねー。あっ、噂の女神ってアイさんと紅羽さんの事だったんだね。納得したよ」
「好奇心の塊だからなー。まあ迷惑掛けてない以上は自由にさせてるんだよ」
食事を終えてさっさと石に戻っていく住人達。因みに出入りには様々な演出がある。魔方陣から出てきたり、水や火の中から出てきたり、石からニュッと出てきたり。今回はモリーが居たので二人の背後から登場した。空間魔法を使って後ろに転移した様だ。
午後からは薬品作成、薬草学科で固まって行動する。事故など有っては困るので、貴族達と関わる事は無い。騎士科等は貴族と平民で模擬戦をやっている様だかカナン達はもう平和だ。
「そういえば知ってる?教会が聖女を復活させるんだって」
「何それ、復活?聖女を?」
「うん、200年以上聖女が居ない時代が続いているのは知ってるよね」
「ああ、100年前に選ばれた聖女は封印禁術を使えなかったから、結局聖女とは認められ無かったらしいな。200年ぐらい前のイリアス・ヴルー・クロスハートが最後の聖女だろ」
「そうそう、聖女が途切れる事なんて200年前までは無かったんだ。そして居ないなら復活させれば良いって、強硬派の意見が可決されたらしい」
「強硬派が権力あるのか?でも良く分からない発想だな。どうやるんだ?」
人間を生き返らせる魔法って、聖女の居ないこの時代の人間でも出来るのかな?カナンは思考の海に沈みそうになるが、そもそもサティの話ではイリアは生きている。
「どうなんだろうねー。神の奇跡がどうこうで人を集めているから儀式魔法でもするんじゃない?一応聖女の遺体は大教会に保存されているらしいよ」
「へえー。遺体ねえ(違う人の遺体か?そういえば忍び込んだ時に何体かあったな)」
「今月末から夏休みでしょ。その間ぐらいに復活させる予定だってさ」
「その時に行ってみたいなー」
臭い薬品を調合しながら世間話をしていた。大教会がある山に用事があったので、丁度観光がてら復活ショー観れるなら良かったな、と思いながら課題を終えた。モリーが課題を提出しに行っている間ボーッと考える。
(秘術・反魂の法?違う魂が入ったら大変だよなあ…蘇生魔法のベネディクション・フォース・リヴァイヴァルって儀式ごときで出来たっけ?ん?)
「なんかざわざわするな」
「お待たせー。騎士科で決闘騒ぎがあったらしいよ。未遂で終わったらしいけど、変な雰囲気になっちゃてるね」
「こっちは平和で良かったな」
「全くだね。貴族が前に一目惚れした人を見掛けたらしいんだけど、うちの騎士科の男子もその人に一目惚れしていたらしくて、名前も知らない人をどっちが相応しいかなんたらで、色々話がごちゃごちゃになったんだって」
カナンはまたかとため息を1つ、青い人と赤い人が出歩くと、たまに盛り上がった男子達による勝手な喧嘩が開始する現象が起きる。当の本人達は我関せず。そうなの?知らないわよ、とは青い人の定型文の1つだ。
「当の女子は居なかったんだろ?」「そうだねー。心当たりはあるけど」
「…そうか、俺も心当たりはあるな。モリー、いつもの事だから気にしなくて良いぞ」
「はははっ、まあ巻き込み事故が無ければ何でも良いよ。月末は夏休みだねー。僕はいつもの通り親戚の所に行くからね」
「そうだなー。俺は店番は従業員捕まえたから、やらなくて良いし…でもまあ例の通りだらだらするかな」
課外授業は終わり、特にイベントも無く帰路に着く。ガタゴトと揺れる馬車。
(丸一日寝たいなー)
予定を立てないとまた闘いの日々になる。去年は精霊の森に入り浸っていたらずっと魔物と闘う羽目になった。
「あれ?今年は石の中に精霊の仲介役が居る…」
忙しくなりませんように。その願いは、依頼沢山あるよーの脳内返答により打ち砕かれようとしている。




