課外授業
今日は合同課外授業の日、日が昇る頃の早朝に登校した。結局貴族の学校と合同になったらしい。視察をした貴族側の教員が、予定していた場所にドラゴンが居た事を確認。急遽別の場所を選択したが、カナンの学校と場所が被った為、交流を兼ねてというヤツだ。
サティはもう必要の無い剣聖の称号を返上する為に、帝都に行った。手続きは平日じゃないと混むらしく、ごねられたら日数も掛かるらしい。因みにカナンは魔の森の方へ逃げたと伝えて貰う予定。
「おはようカナン」「おはよー、モリー」
「いつもより眠そうだねー」「あー夜中に電話…じゃなかった、ちょっと通信しててな」
夜中に王女から連絡が来た。王女も薬草学科だったらしく、合同課外授業に貴族側として参加するらしい。ペア同士で一緒に廻ろうという誘いだ。変なやっかみが無ければ良いよとは伝えてある。そしてメガネの奥にある瞳は閉じようとしていた。
「移動は馬車?」「そうだねー。貴族側は現地で合流だって。良い馬車だから僕らより遅く登校すれば間に合うらしいよ」
「そういえば俺、馬車にちゃんと乗るのは初めてだ」
「カナンは必要無いもんね」
前世の秋は荷台の隅に体育座りをしていた。なのでまともに乗るのは初めて。生徒が続々と集まる。薬草学科は点呼を取り、全員揃ったので馬車に乗り込む。20人~30人が乗れる大きな馬車。軽くなる魔法が付与されており、馬が2頭でも動く重さになる。
ガタゴトと動く馬車。カナンとモリーは景色など楽しまないで普通に寝ていた。カナンは寝不足、モリーもどうせカナンは寝るだろうからと夜更かししていた。
『ヒヒーン!』『到着しましたー!』
「んー?…カナン、着いたっぽいよ」「んあ、…了解」
フラフラと馬車を降りる二人、狭かったなーと、身体をバキバキさせながら伸びをする。まだ昼になっていないので少し採取等をしてから昼食になる。
着いた場所は王都から二時間程馬車に揺られた場所にある森。一般的な薬草が多く分布しているらしい。一応弱い魔物もいる。点呼を取り、注意事項と課題の薬草を教えられて、さあ採取に行こうという所で貴族側が到着した。点呼を取り、注意事項と課題の薬草を教えられている様子が見える。
無用なトラブルを避ける為1、2、3のエリアに分けて活動する。1は貴族のみ、2は貴族と平民が混合、3は平民のみ。
流石に2のエリアは人気が無い様だ。
「貴族さん到着しちゃったねー。僕らはちょっと待つみたい」
「お貴族さんに合わせるのね。あっ忘れてた、モリーちょっと一緒に廻る人が増えた」
「そうなの?もしかして貴族?」
「ああ、一応幼なじみだから軽い対応で良いぞ。あっちも気にしないし」
「まあ、良いけど。カナンの知り合いなら大丈夫か」
貴族側を待つ間雑談していた。他の薬草学科の皆は緊張している様子。やがて説明を終わった貴族側がやって来た。教員同士で話をして、さらっと仲良くやるようにと伝えて終わった。そしてそれぞれのペアは採取に向かって行った。
「カナン君!間に合って良かった!」「おう、王女。王城以外で王女姿を見るとなんか久しぶりな感じがするな」
「ふーん、貴方がティナちゃんの友達のカナンね。わたくし、プルセラ。わたくしと話せる事を光栄に思いなさい!オーッホッホッホ!」
「あー、ブルセラか。よろ」
「扱い酷くありません!?わたくしはプルセラよ!プよ!プ!」
「よ、よろしくお願いします。モリーです…カナン…第三王女とグレーテン公爵の令嬢じゃないか…僕には無理だ」
「んー、適当で良いんじゃない?王と公爵の子供ってだけなんだから」
「僕はカナンの感覚じゃ生きていけないんだよ!まあ、なってしまったものは仕方ないかー。そうだ、空気になろう」
「あっ、ミシルさんこんにちは!今日も素敵ですね!」
「ありがと、カナン君も格好良いね」「むー!」
第三王女とグレーテン公爵家の次女のペア。森の中に入るという事で王女の護衛のミシルも参加している。
身分が違いすぎるのでモリーは現実逃避を始めだした。周りの生徒達も注目している。なにせ妖精王女が目の前にいるのだから。
5人は森の中へと入る。自己紹介を済ませたので少しずつ会話が始まる。王女がカナンの隣をキープ、その反対側にモリー。プルセラは王女の隣だ。ミシルは後ろから四人を微笑ましく眺めている。
「カナン君。アイと紅羽にもっと働く様に言ってよー。予約が凄いの」
「んー、二人は気分屋だからなー。サティちゃんが帰って来たら頼もうかな?」「サティちゃん?」
「あー、帝国の剣聖様だ」「…じー」
「カナン、わたくしと何処かで会った事ないかしら?何か引っ掛かるの」
「ん?ブルセラ、5歳くらいの時に会ってるぞ。ウザかったから覚えてる」
「プルセラ!ブルセラはマニアックっぽい響きが嫌!ウザいなんてあり得ないわ!わたくしは落ち着いた淑女よ!淑女!はぁ、はぁ…あの人みたいな事言って!…5歳?5歳…ん?え?まさか…」
「いや、皆好きだからブルセラはスタンダードだろ。にしても大きくなったなー。そのツインドリルも変わらない」
「カ、カナン君?プルセラちゃんと知り合いだったの?」
「小さい頃に会った事あるんだよ」「ふ、ふーん」
プルセラは金髪ツインドリルで少しつり目の可愛い女の子だ。高飛車な雰囲気を持っているが繊細な女の子。昔カナンがフジと名乗っていた5歳の頃に、誘拐されていた所を助けている。
カナンはもう探し人にフジは載っていないし、どうせ国出るし大した事してないから、シーマがバレなきゃ良いやくらいにしか思っていない。
「フジ、様?」「おう、久しぶりだなー」
「……良かったらそのメガネ、外してくださらない?」
「ん?はい」「…ああ」
「あっモリー、そこの木の影に薬草あるぞ、さっさと採取しよう」
「ん?わかったー」
だらだらと木の影に向かうカナンを眺めるプルセラ。唇を噛みしめ、目には少しずつ涙が溜まっていった。
「プ、プルセラちゃん?大丈夫?」
「…ええ、もしかしてティナちゃんも…カナンに助けてもらったの?」
「え?う、うん…小さい頃に。…それからずっと好きなんだ」
「そっか、ティナちゃんが婚約者を決めない理由が分かったわ。わたくしは5歳の頃に誘拐されて、その時に助けて貰ったの…また会いたいと思っていた、でももう会えないと思ってた。…あーあ、もっと早くまた会えていたら婚約者を決めなかったのになー」
ティナちゃん羨ましいよー。昔の口調に戻ってしまう程に、色褪せない過去を想うプルセラ。王女も、もしカナンが再び部屋に来なければ自分も婚約者も決めていたのだろうか。違う未来を見ている様で、やるせない気持ちが溢れてくる。
「でもティナちゃん、カナンは平民でしょ。どうするの?」
「…勿論、王族辞めるよ」「は?」
「辞めてもファー王国の王族に対して未練は全く無いの」
「で、でも皆納得しない」
「そうだね。でも皆の納得なんていらないよ。カナン君が居なかったら、私はもうこの世に居ないんだもん。彼を想えば何でも出来るの。王族を辞めるなんてただの通過点。だから辞めても友達で居てね」
プルセラは王女が羨ましかった。自分にここまでの気概はあったのかと思い、ずるいよ…と呟く。
「プルセラちゃん。悩んでるなら、良い人を紹介してあげるよ」
「…良い人?」
「私の親友…いやライバルかな。その人と話せば気持ちが楽になると思うよ」
「…ライバル?ティナちゃんと張り合える人なんて居るの?」
「居る、何人も…」
「…モテるのね」「そう、一撃が凄いの」
可愛いのは仕方ない。だけどあのおっぱいは反則。乾いた笑いを浮かべ、疲れきった瞳を見せる王女。カナンとモリーがだらだらと戻って来た。
「おう、待たせたなー。課題は終わったから王女とブルセラの課題に付き合うぞー」
「ありがとうカナン君、じゃあコレとコレが課題だから」
「分かったー」「ねえカナン」
「ん?どうした?」
「あの時はありがとう」
「あー、たまたまだよ。無事で何より」
「あと、これのお陰で何度も助けられたの」
プルセラが見せたのはクリスタルで出来た髪飾り。カナンが昔作った物だが、昔と変わらず輝いている。魔力を込めると防御壁が発生する旧式タイプだ。助けた際にプルセラがしつこかったので渡した物。
「まだ持っていたのか。…ありがとな、大事に使ってくれて」
「くっ、笑顔を向けないでよ…格好良い…あの時と変わっていない…決めた!ティナちゃん、紹介、宜しくね!」
「あー…仕方ないなあ」
「カナン!あの時のお礼にデートして差し上げるわ!オーッホッホッホ!」
「いや、遠慮しとくよ」「なんでよ!」
「ブルセラ、婚約者居るだろ、面倒はごめんだ」
「きぃぃ!じゃあ婚約解消したらデートしてくれるの!?」
「いや…そこまでしなくて良いからそっとしといてくれ」
「…ティナちゃーん!カナンが酷い!」
「カナン君女の子の誘いは適当に断ったら駄目だよ」
「いやいや全うな理由だ。…あっ!課題の薬草あったぞ!早く来いよ!」
「逃げたね」「はぁ…どうしようこの気持ち」
「モリー君、カナン君ってモテるのね」
「かなりモテますよ。ファンクラブもありますし。ミシルさん、僕は課題終わったんで集合場所に行っても良いですかね?」
「駄目よ。ペアは離れたら駄目なの」
「そうですか、僕は色々聞いてはいけない事を聞いていますが大丈夫ですか?」
「今更でしょ?」「あ、はい」
石の中にて
『ねえ、アイ。ブルセラって良く分からないけど、やったらアキは喜ぶんじゃない?』
「そうね、ブルマとセーラー服だったかしら。今度着てみましょ、紅羽」
「喜ぶなら着るけど、どんな服だ?」
「学校の運動着と制服よ。紅羽は鍛練好きだから運動着の方が良いわね」
「ああ、動きやすいなら歓迎だな。そんなのが好きなのかアキは」
「そうね。紅羽の運動着には、ちゃんとひらがなで名前書いといてあげるからね」
「ありがとう、アイ」
「ウフフ、良いのよ」
『アイ、ちょっと悪い顔してるよ』
「気のせいよ」




