カナンとサティ2
日が傾き、夕方になろうとする時刻。二人で並んでソファーに座り、昔話に華を咲かせていた。
「秋ちゃん、私、もう少ししたら、一度家に帰らなきゃいけないの」
「おう、俺も帰る時間だからな。平日は学校あるから会えないけど、サティちゃんはどうするんだ?」
「秋ちゃんと一緒に居たい。そういえば何処に住んでるの?」
「ファー王国の王都だぞ」「そう、ファー王国は盲点だった」
秋ちゃん嫌いだったもんね…。懐かしむ様に言うサティは知らないのだろう、国が秋にした事を。知っていたらファー王国は存在していなかったかもしれない。
「秋ちゃんの日記の最後に書いてあったよね。「俺、この闘いが終わったらファー王国を潰すんだ」…秋ちゃん覚えてたんだね」
「忘れる訳ねえだろ。あれを書いたせいで死亡フラグが立った様なもんだ」
「フラグってよく書いてあったね。秋ちゃんの翻訳ノート見て、私も秋ちゃんの世界の言葉を勉強したんだよ」
エッチな言葉も覚えたよ…ささやく様にカナンの耳元で言う姿は妖艶で、カナンはサティの首元から覗くおっぱいを見ながら思う。このエロさは反則だ。副作用が治るまで、理性がもたないかもしれないと。
「それと秋ちゃん、今度二人のお嫁さん紹介してね」
「……うん、紹介、する。なんで…分かったの?」
「エンゲージしたから秋ちゃんと繋がっている存在が分かるの。エルフじゃないよね?」
「ち、違うよ」「そう、なら良いの。エルフだったら殺していたから」
秋ちゃん素敵だからモテるもんねー。そう言ってカナンにもたれ掛かるサティ。エルフの女性にとって許せない関係とは、同族、他のエルフと関係を持った場合だ。他の種族と関係を持つ事には寛容。
「そういえばエルフって同族の恋愛にシビアだったよな」
「そうなの、イリちゃんがエルフだったら殺し合っているもん」
「ん?」「んー?」
「なんでイリア?」
「何当たり前の事聞いているの?秋ちゃん」
「当たり前の事じゃないから聞いているんだよ。サティちゃん」
「「……」」
「……秋ちゃん好き」「会話を無かった事にしたな」
そろそろ行かなきゃ。寂しいなーと言いながら立ち上がるサティ。カナンも立ちあがり二人で家を出る。
「そうだ秋ちゃん。ファナが昔の事を謝りたいって、何をしたか教えてくれなかったけど、どう?会う?」
「んー、正直謝られてもなー。藤島秋はもう死んだから謝る必要なんて無いって言っといて。俺は今カナンだから謝る相手じゃない、うん、そうだ」
「頑張って屁理屈並べたね。まあ秋ちゃんが良いなら良いけど…」
「悪いな。サティちゃんの家族だからその内会うよ。それに病気を治したのが俺だって分かったら、って思うと会いにくい」
「ファナって勘が鋭いからね。私も秋ちゃんが好きなの直ぐバレたし…帰ったら秋ちゃんに会ったのバレそう」
「あー、バレた時は、御詫びの品にお前の鼻くそ貰ったからそれでチャラにしてやるって言っといて」
サティは、カナンがファナの鼻に指を突っ込んでいた事を思い出す。そして鼻をほじった変態な秋ちゃんの行動は1つしかないと確信する。
「……秋ちゃん…食べちゃ駄目だよ」「食べてねえよ」
「でも貰ったんでしょ?」「ああ、貰った。エルフの鼻をほじるなんてもう経験出来ないと思ったんだ。記念品さ」
真面目な顔をして引く発言をするカナンに、サティは変態な秋ちゃん素敵…でもファナのは駄目…私のを貰ってよ。と歪んだ愛を見せる。
「あ、イリちゃんが後3年くらいしたら帰って来るから、その時は皆でお茶しようね」
「……なんて?」「だからお茶しようねって」
「そこじゃなくて、イリアが帰って来るって…」
「うん、3年くらいね」「生きてるの?」
「そうだよ?言ってなかったっけ?」
「聞いて無いけど…寿命伸ばすのにエリクサー飲んでるのか?」
「違うよ。秋ちゃんが遺した時空石を身体に取り込んだの。それで歳を取らなくなったの」
時空石を身体に取り込む事で時空魔法が使える様になる。しかしそれはとても危険な事、最悪使用者の時間が止まる。
「は?あいつバカなの?俺の時空石ってタイムリープを研究していた時の試作品だぞ…」
「そうなの?イリちゃん時間を旅出来る様になって、あちこち飛び回っているの」
「ははっ…そうか、生きていたのか。旅ってイリアは方向音痴だったよな」
「うん、いつも来年会おうねって言って10年後に帰って来るから、今も迷子だと思うよ」
「大丈夫なのか?」「多分、帰って来る度に傷が増えているけど大丈夫だよ」
「それ大丈夫って言わないよな…傷って、あー…イリアって自分を治すのは下手くそだったな」
「そうなの、イリちゃん一応自分の事治せるけど傷痕が残るから嫌って言ってた」
「じゃあ再開したら傷痕治さなきゃな」「よろしくね」
「そろそろ帰るか。また今までの事、聞かせてくれ」「うん、秋ちゃんもね」
家の前で挨拶をして、それぞれの家に向かう。カナンは考える事が増えて疲れきっている。その時、脳内会話が開始され、こめかみをグリグリしながら帰宅。部屋に戻る所でリビングからカタリナがザザッと出てきた。
「ただいま、リナ」
「……兄ちゃん…この距離からでも分かるよ…駄目だ、駄目だよ。エロフは駄目だ!」
「あ、リナ(え?分かるのか?)ちょっとあってな」
「ちょっとどころじゃないよ兄ちゃん!兄ちゃん昔からエロフ好きじゃん!大好きじゃん!大好物じゃん!」
「確かに大好物だな…」
ポコポコとカナンを叩くカタリナ。その目は血走り今は居ないエロフを睨んでいる様だ。
ふがふが
「ひぃぐぅ……あれ?ただのエロフじゃない?…なんだこれは!エロい!エロ過ぎる!これじゃまるで究極完全進化体じゃないか!」
「大丈夫か、リナ…当たってるのが凄いな」
「うぅ…」
ダダッと自分の部屋に走るカタリナ。アイさーん!と叫んでいるがアイはまともに答えたのだろうか。カナンはアイに任せようと呟きながら部屋に入る。
「リーリア、聞きたいんだけどさ」
『なにー?』
「白色の精霊石って無いの?あったら欲しいんだけど」
『んー?あるんじゃない?白色魔力が多い地域なら白色の精霊が居る筈だし』
「白色魔力が多い地域ねえ、大教会がある霊山かな?」
『おっきい教会?』
「そう、各国、各街にある教会の総本山。禁術欲しくて1度だけ忍び込んだんだよ。頑張れば日帰り出来るかな?行ってみるかな」
『白色の精霊石なんて何に使うの?』
「ん?魔法の媒体にな。無かったら無かったで別に良いんだけど行く価値はあるんだよ」
『ふーん』「あれ?二人は?」
『アイはリナと話してるよ。紅羽は鍛練中』
「そうか。どうだ?リーリア。外の世界は」
『もちろん楽しいよ。あんまり出れないけど色々観れるし、アイと紅羽とずっと一緒だし、あ、矢印もね!』
「ははっ、良かったよ」
リーリアに王都の話や家族の話をした。弾むような声を聞きながら、賑やかになってきたよなー、と今後を思う。サティちゃん押し掛けて来ないよな?大丈夫だよな?と心配しながら。




