仕方ないから治そう
帝都から逃げ出したカナンとサティは、西にあるというクヴァルの町に向かった。道中はカナンが話し掛けてもサティは何かを考える様に生返事をするばかり。フライで飛んで行ったので直ぐに町に着いたのだが、カナンはこんなに無口だったっけ?と首を傾げていた。
「ここ」
「宿?帝都には泊まらなかったのか?」
「ええ、ファナは魔法が使えないから帝都に居たら…さらわれちゃうの」
「なるほどね(エルフは奴隷として高く売れるからな)」
宿に入り泊まっている部屋へ行く。姉妹の実家は精霊の森がある国、エルメスにある。妹を置いては行けなかったサティは、各地を回り、妹の治療方法を探していた。龍王の居る魔の森に行きたかったが妹を連れて行けない。そう困っている時に、妹が合併症に掛かった。そして今回、闘技大会に出てエリクサーを得ようとした訳だ。
「ちょっと待ってて」
「はいよ。女子の部屋だもんな」
部屋の前に立つ。話したくねえなー…ボソッと呟く。少ししてサティが出てきて手招きする。どうやら願いが通じたのか寝ているそうだ。そろりと中に入った。
「起こす?」「いや、いい」
「…そう」
寝ているファナをチラ見して、カナンは魔法を発動。黙ってれば美人なのになーと思いながらも黒色の魔方陣を展開。
「ディープスリープ」
ファナを深い眠りの状態にする。これで簡単には起きない。よし、と呟き額に手を当て状態を診る。
「ふーん、確かに不死病だな」
「治る?」「ああ」
「…良かった…これで私も…」
「ん?あーそうだ。妹治ったらどうするんだ?1ヶ月くらいリハビリしたら元に戻る筈だけど」
「とりあえずエルメスまで送るけど、リハビリはファナの事だから1人でやるってきかないと思う。そうなったら、もちろんカナンに付いて行くけど?」
「え?」「…え?」「「…あれ?」」
見詰め合い首を傾げるカナンとサティ。何当たり前の事言ってるのよ。どこら辺が当たり前なんだよ。と目で会話してみたがサティが折れる様子は無い。
「…とりあえず、もうすぐ昼になっちまうから治すか…俺の存在は妹に言わないで欲しいんだけど」
「良いけどファナは納得しないよ」
「それでもさ。賞品が完璧なエリクサーだったとかなんとか誤魔化しといて。何ならそれがお礼でも良いから」
「…分かった。でもお礼はちゃんとする」
「じゃあ期待しとくな…まずはあの魔法眩しいから暗くしないと」
王女の時は失敗したが…王城で使った時を思い出しながら魔法を発動。
「ブラックアウトカーテン」
サーッと部屋が黒い幕に覆われた。真っ暗な部屋の中で魔法を発動する。
白、銀色の魔方陣を展開。
やがて魔法が完成。「ベネディクション・フェアリィソング」
部屋の中が白銀の光に照らされた。その間カナンはファナが起きないか心配になっていた。
「眩しい…あれ?状態異常治すなら睡眠も入る?逃げる準備しとくか…その前に魔力吸いとっておかないと。マジックアブソーブ」
ファナの魔力を半分以上吸いとる。こうすると魔力が回復しながら元に戻る為、治りが早い。そしてストレージから出した通信石をサティに渡す。
「空間魔法の石?」
「ああ、通信石。それで俺と話せるから後で話そう。なんかこいつ起きそうだから」
ファナを指差す。勢い余って鼻の穴に指が入ってしまったが、カナンは落ち着いて指を回転させた。
「…分かった。逃げないでね」
「逃げるなら通信石なんて渡さないよ。昼過ぎに兄さん達を国に送ったらエルメスにある精霊の森に行く予定だから、暇だったらおいで」
「精霊の森?ああ、あそこね。分かったわ」
「んん…ぅん?」
「じゃあ起きそうだから行くな。あっ、これ誤魔化す用のエリクサー。飲ませといて」「カナン、ありがとう。本当に」
エリクサーを受け取り、頭を下げるサティに良いんだよと告げ、ファナが起きる前に鼻の穴から指を抜き取り、素早く部屋から退避。危なかったー、と呟きながらふぅーっと一息。
「さっ、兄さん迎えに行くかなー」
『アキ、普通に治したけど、妹には何もしないの?』
「いや?充分苦しんだんだろ?それに、嫌がらせは俺にだけ向けられたものだからな」
『ふーん、アキが良いなら私も良いんだけどねー』
他の皆には割りと優しかったし、誰かを殺した訳でも無いから良いんだよ。もう会う事も無いし。そう言ってのんびりと町を出るカナン。
―――
カナンが去り、光が収まる。サティは椅子に座り、鼻が赤くなったファナの顔を眺めていた。
「ん……。お姉ちゃん?お帰りなさい。大会はどうだったの?」
「ふふふ、おはよう、ファナ。ちゃんと優勝してエリクサー貰って来たわよ」
「…ありがとう。いつもごめんね。私のせいで…」
「良いのよ。それに、今回は凄いエリクサーだったみたいよ。飲んでみて?」
「うん…。ん?あれ?魔力が…」
ファナがエリクサーを飲み干す。すると魔力が以前の様に元に戻った感覚。数十年振りの感覚に心が追い付かない様で、え?嘘?と困惑していた。
「どう?戻ったでしょ?」
「…戻った。戻ったよお姉ちゃん!…ありがとう…うぅ…」
「ふふふ、帰ろう。エルメスへ。これから完全に元に戻る為に、リハビリが待ってるんだからね」
「うん…うん。帰ろう。でもリハビリまで迷惑かけられない…私は頑張るから。お姉ちゃんは私に構わずあの人を探しに行ってよ」
「大丈夫?1人で出来る?」
「うん、私は天才魔法使いなんだから!…あの、もし、もし見付かったら謝りたいって伝えて欲しい」
「ええ、伝えるわ。ふふふ、行きましょ」
「うん!」
サティはファナを連れて直ぐにエルメスにある家に向かう。父親は既に他界しており、母親に治った事を報告。久しぶりに笑顔での帰郷となった。
そしてサティは夕方前に家を出る。精霊の森に行く為だ。
「カナンに会いに行かなきゃ。秋ちゃんの手掛かり」
イリちゃんには負けない、そう呟き森に向かった。




