カナン対アベル
朝になり、オードと共に茜の泊まる宿へ行き、3人で帝都を目指す。一応認識阻害のメガネを二人に渡し、帝都に降り立った後は、そそくさと闘技場へ入る。カナンの控え室に3人で時間までゆっくりする事にした。
「試合って準決勝と決勝だから、直ぐに終わりそうだね。終わったら直ぐ帰る?」
「そうだなー、帰ったら王都を案内したいから」
「あ、デートね。了解。俺は送ったら森にでも行くかな」
「森?何かあるの?」
「王国から西の国に精霊の森があってな、週末は大体そこに居るんだよ」
「へえー今度連れてってね」
「ああ、良いぞ。仕事慣れたらな」
そうだよねー。と言う茜は一応家族と顔合わせは終わった様だ。カタリナとはあまり話せなかったそうだが、エレンが茜を気に入り、教育係を立候補したのでなんとかなりそうだ。エレンは面倒見が良いので早く仕事は慣れるだろう。
『皆さーん!おはようございまーす!みんなお待ちかねラリーちゃんだよー!試合?まだですよー!昨日闘技台壊れたから急ピッチで作業してるんです!なので待ってる間ラリーちゃんのスペシャルライブをやりたいと思います!嬉しいでしょ!泣いて喜ぶでしょ!私も嬉しいよー!泣きそうだよー!1曲目!題名は!【ロマンチストなメスゴブリン!】いっくよー!』
「まだ始まらないのか。茜ちゃん、そういえば剣聖と何か話した?」
「んー少しだけ、かな。オード君に見てもらいたいから闘ってるって言ったら、羨ましいなって。あんなに美人なのに変だなーとは思ったけど」
「ふーん、恋人はもう居ないのかな?エルフって一途だからな。もし恋人が死んだかなんかでもう居ないなら、これから先は恋なんて出来ないんだよ」
「そうなんだ。なんか素敵だけど、少し悲しいね」
私も一途なの。オードを見ながら呟くが、ラリーの歌声にかき消された。カナンは歌上手いなー、歌詞よくわかんねえけど…とぼーっと聞いている。オードは誰かと通信している様だ。恐らくニーナ姫だろうがラリーの歌声のせいで上手く通信が聞こえない様子。
『みんなー!ありがとー!私も皆の事大好きだよー!2曲目!題名は!【カップル見ると殺意が浮かぶ!】いっくよー!…何?もう終わり?闘技台出来た?ちっ、仕方ねえな。みんなー!始まるってよー!』
「あー、俺次の歌聴きたかったなー」
「え?なんか闇を抱えてそうな歌だよね」
「一応帝都のアイドルらしいぞ」
「兄さん詳しいねー」
「ユウトが教えてくれたんだよ」
「ふーん」
控え室を出て、通路を通り南側の選手席へ。選手席には誰も居らず、3人で中央に座る。オードと茜が並び、カナンは少し離れて座る。なんで離れるの?という問いにもう1人来そうだからと答えると、茜の顔が引きつった。
『大会最終日!準決勝と決勝戦ですねー!みんなーもうちょい待ってねー!終わったら今度こそスペシャルライブやりますよー!…何?表彰式終わったら解散?嫌よ!この仕事受けたのはスペシャルライブの為なのよー!』
「やあ姫さん。ここ空いてるよ」
「ふふっ、ごきげんよう。流石気が利くのね。オード、隣良いかしら?」
「ん?おお、良いぞ」「むぅ…」
ニーナ姫がオードの隣に座る。オードとの距離が近いのは気のせいだ。カナンはそういえば兄さんに説明してなかったなー。まあ良いかで済ませ、一番遠い距離の茜の睨みを受けながら、ジリジリとケツを動かし、少しずつ3人から離れる。
『まもなく準決勝第1試合が始まりまーす!。カナン選手とアベル選手は来てますかー?来てますね!では闘技台までお越し下さい!』
「じゃ」
「がんばれよー」「行ってらっしゃーい」「頑張ってね」
カナンは3人に手を振りトボトボと闘技台へ。貴族席からもアベルがやってきた。
「なんだこの寒気は、アベル?アベル…んー…」
「やあカナン君だね。お手柔らかにお願いするよ」
「よろしくー…キモい笑顔だな…あっ思い出した」
『第1試合!カナン選手対アベル選手!カナン選手は皆さんご存知、黒い笑顔のヤバい奴!あっ睨まないでー!カナン選手ー!お兄さん紹介してくださーい!え?自分で頑張れって?弟さん公認ですよー!オードくーん!3番目の女で良いから貰ってくださーい!対するアベル選手!帝国騎士団副団長!なんと!かの200年前に魔王を倒した勇者の子孫だそうです!サティエル様に伺った所、非常に良く似ているそうですよー!甘いマスクで笑いかけられると耳汁噴き出すくらい興奮しますね!』
「ラリーさんの方がヤバい奴じゃねえか…あれ?そういえばモリーが、お姉さんは帝国に居るって聞いたことあるな…いや、考えすぎか」
『カナン選手は黒い服にメガネスタイル!手にはナイフ?包丁みたいですね。カナン選手ーそれ何ですかー?やっぱり包丁でしたか!アベル選手は長剣に銀色のキラキラした鎧ですねー。勇者が使っていた鎧?へえー凄いですね!売ったらいくらになるんですかね!え?開始の時間?はいー!それでは開始!』
「ふふ、何処からでも掛かっておいで」
「…くっくっく、やっぱりあの馬鹿の子孫か…お前に恨みは無いが…先祖には世話になったんだよ…だから」
叩き潰しても良いよな。勇者
「ホーリーレイ」
キュィィィン!「うああああ!」大きな光の柱が立ち昇り
闘技台を白く染めた
『う、わ、上位魔法を詠唱破棄…え?アベル選手生きてる?い、生きてます!』
「ぐ、何、だと」
「流石勇者の子孫、その鎧と合わせて光属性には強い耐性があるよな。だから」
思う存分打ち込める。カナンの口元が弧を描いた
「シャイニングアローレイン」
ニーナが使った上位魔法、その光の矢よりも大きく、太く、無数の矢
ドドドド!「ぐっ、なん、て、数」全てをコントロールし直撃させる
「くっくっく、1ダメージキル、縛りプレイだ」
『カナン選手!エグい!光属性だけで攻めている!もうこれは虐めだぞー!』
「な、めるなー!」
剣を振り怒りをカナンに向ける
「ああ、舐めている。忘れてねえぞ、俺を魔の森に転移させた共犯者。と言ってもお前じゃねえがな。ソーラーレイ・ガトリング」
バシュン!バシュン!ババババ!光の豪雨が降り注ぐ
人々は目にする。黒い笑いを浮かべ、光属性を操る悪魔の姿を
「前世でやりたかった事リスト7位、公衆の面前で勇者をボコる」
―――
「「……」」
「ああ、カナン。なんて楽しそうなんだ…」
「あの子何なの?強いなんてもんじゃない…次元が違う」
ウンウンと頷き合う茜とニーナ。
「オードさん、あれは異常ですよ。何なんですか?」
「ああ、ユウト。来てたのか。カナンは、俺の師匠だ。まあ…そうだな。俺の知る限り…」
最強の男だ。くくくと笑いながら言うその言葉に茜、ニーナ、ユウトは息を飲む。あのオードが誇らしく、自慢するように言う姿に。
―――
「さて、アベル君。どうせ自動回復するんだろ?その鎧で」
「はぁ、はぁ。何なんだ…お前は…」
「剣技を見せておくれよ。勇者の子孫。ライトソード」
ギュインと包丁から伸びる光の刃。丁度アベルの長剣と同じ長さに調節した光輝く刃はまるで、聖剣。
「馬鹿にして!光斬!」
アベルの剣も光輝きカナンに向けて斬撃を繰り出す
バシュンと音を立ててカナンに直撃
「ふーん」
無傷
「なん、だと。くっ…光波連撃!」
バシュン!バシュン!とカナンは更に斬撃を受けるがダメージは無い
「何にしようかなー、よし。光華一閃…」
高速で走り抜け光を纏う刃を振り抜く
遅れて光の刃が多数出現
「ぐっ…」突き刺さる無数の刃
「逆光の太刀」
更に駆け抜け
返す刃で同じ軌跡を生む
「う…がっ…」
更に多方面から光の刃が突き刺さり
光の華の様に輝いている
「咲き乱れろ。閃華!」
ボボボボ!無数の刃が爆発
「ああああぁぁぁ!」
光の華が散っていく
『なんという美しい剣技…もうアベル選手は手も足も出ないですね…これもう勝ち決まってるんじゃないですか?続ける?いいの?』
―――
「あれは…師匠の…でも属性が」
「どうしましたかな?剣聖殿?いやはや圧倒的な闘いですな!素晴らしい逸材!是非とも我が軍に欲しい!」
「…彼は何者なの?」
―――
「…さて、そろそろ終わりにしようか」
カナンは満足した表情で魔法を発動させる
「はぁ、はぁ、…強い…何て奴だ…」
「まあ、お前の先祖には感謝している部分もあるんだよな」
「なんの、事だ」
「くっくっくっ、俺の一人言さ。魔の森に転移したお陰で、世界樹に到達出来た。そこで新たな属性を得たんだ」
白色と銀色の魔方陣が展開された
『な…に?知らない…銀色…』
「星の属性。世界樹の力。単体ではあまり意味が無いが、掛け合わせると」
白色と銀色の魔方陣が重なり、白銀の巨大な魔方陣に変化した
「う、わ…」
「それだけで、超位を軽く超える魔法になるんだ」
白銀の巨大な魔方陣が回転していく
「終わりだ、レイディアント・レクイエム」
一切の音が消え
闘技場が聖なる光に包まれた
それはとても幻想的な光
しかしとても無慈悲な光
『なんて、綺麗な光…涙が…』
光が晴れた中心には
粉々に砕けた鎧を纏い倒れ付したアベルと
無表情で佇むカナン
『…しょ、勝者!カナン選手!』
人々は立ちあがり
盛大な拍手を送った
「やっぱり本人が一番だなー。転生してねえかな、あの馬鹿」
ふっと笑うカナンは闘技台を後にした
レイディアント・レクイエム、星、白色複合超位魔法、聖なる光で焼き付くすと同時に回復もさせる飴と鞭魔法、眩しいので外でしか使えない




