救護室へ
『これにて本日の試合は終了いたしましたー!明日は午前に準決勝、決勝をやる予定なのでチケットを忘れずにお持ち下さいねー!出場する選手も寝坊しちゃ駄目だぞー!これからの時間はわたくしラリーのスペシャルライブを開催しまーす!…え?もう撤収?嘘!?私楽しみにしてたのに!』
「さて、兄さん帰るよ。その前に茜ちゃんの所に行こうか」
「…ああ」
「ん?どしたの?」
「いや、その、茜さん格好良かったなって」
「ふーん、兄さんが格好良いって言うの珍しいね。惚れた?」
「う、多分…いや。まだ分からない」
「まあ、茜ちゃんが誰かに取られる前に答え出しなよ」
あんなに強くて可愛い子は中々居ないからモテるよー。とオードを煽るカナン。そうだよなーと悩むオード。通路を歩き救護エリアへ到着。ノックをして中に入った。
「茜ちゃんいるかー?あれ?」
中に入ると治療を終えて目が覚めた茜が座っていたが、誰かに話し掛けられている。前回闘ったムンバ・ムーアの様だ。
「アヴァネさん!貴女と剣聖との闘い、感動しました。貴女の剣聖に屈しない心。素敵です。是非僕とお付き合いして頂けませんか?」
「え?いや、あの」
カナンはメガネをクイッと上げ。困っている茜を眺める。そして茜と目が合い、助けを求める視線を笑顔で返す。
「さて兄さん。出番だよ」
「…ああ、行ってくる」
「くっくっく、いってらっしゃい」
茜の元へ向かうオードを見送り近くの椅子にどっかり座る。
「なあ、兄さんは強いだろ?」
「ああ、強い。全力でも敵わなかった」
世界は広いな。隣に座るユウトはそう言って、カナンとは目を合わせず、前方の3人を眺める。
「アヴァネさんって何者なんだ?重力魔法なんて初めて見たぞ」
「ん?アヴァネさんは…」
前方の3人の1人がうなだれ、残りの2人の顔が真っ赤になっているのを眺め、くっくっと笑い。
「兄さんの彼女さ。兄さんの隣に立てる人。だから重力くらい操れる」
「…そうか、なら納得だ」
そんな理由で納得すんの?カナンはそう思ったが、俺が転移者だってばらす訳にもいかんから良いかと流す。
「…悪かったな…」
「んあ?何が?」
「いや、卑怯者って言って」
「ははっ、随分素直になったじゃねえか。気にしてねえよ。まっ、頑張れや、勇者様」
「はははっ、正直自信無くてな。俺に魔王が倒せるのかって」
「魔王?」
「ああ、帝国の西に封印されていた紅の魔王が復活し、その後消息を絶ったらしい」
「…」
世界が炎に包まれる前に倒さないと。使命感に燃えるユウト。カナンは遠い目で、肩を落として目の前を通り救護室を出るムンバを眺める。
「紅の魔王はもう居ないぞ(魔皇は居るが)」
「は?いやでもグリーダ様が生きてるって…」
「…あ?グリーダ?誰だそいつ…」
「え?なんだよ怖い顔して…ロブ王国の元大后様だよ。今は指南役として政治に関わっているんだよ」
「…なんで、生きてる」
「え?なんか長生きする薬を飲んでるらしいよ。最初はファンタジーだなって思ったけど、あ、言っても分からないか」
「俺の…エリクサーか…(前世のストレージの在庫は1000本ぐらいあった…王国にエリクサーが無いのはおかしいと思っていたんだ…グリーダが独占していたのか)」
「くっくっく、そうかそうか。なあユウト」
「なんだよ(変な奴だな)」
「魔王はそいつが倒せって言ったのか?」
「あ、ああ、魔王の核があれば元の世界に帰れるって…あ、俺転移者なんだ」
「そうか(嘘、だな。それを今のユウトに言うのは酷か)…これやるよ。良い話を聞かせてくれた礼だ」
黒い鞘に納まった白いダイヤモンドソードを渡す。
「な、なんだよ…剣?…すげえ。良いのか?今まで見た剣で最高の剣だ」
「ああ、俺が作ったから元手はほとんどタダだからな。ありがたく貰っとけ」
「…お前すげえんだな…ありがとう。_っともう行かなきゃ!皆待ってる」
「ああ、気を付けてな。時間があったらロブ王国に行くからそん時はよろしく」
「ああ、歓迎するよ!じゃあな。オードさんもまた!」
手を振り救護室を出るユウトを見送り。見詰め合っているオードと茜を眺めながら、カナンはどうするかなーと呟き考える。
「グリーダは魔王の核を使って何をする?強さを得る?人を超える?大魔法の媒体、いや、それよりも…」
カナンの口元が弧を描き
「この手で殺せるじゃないか」
200年越しの復讐だ。そう呟き、くっくっくっと嗤う。




