昼休憩
「そういえば明日は兄さんどうする?」
「選手席使えるらしいからそこで観てるよ」
選手控え室の個室に戻ってきた。椅子が2つしかないのでカナンが椅子を増やす。全部で6つの椅子を置く。茜は疑問に思う。椅子多くない?と。
「アイー。紅羽ー。お昼だよー」
「「はーい」」
「へっ?」
フッと出てきた藍色の少女と深紅の少女。いつもの色違いワンピースにサンダル。茜に一礼してトコトコと歩き椅子に座った。
「茜ちゃん。アイと紅羽。俺の嫁さん達だ」
「アイです。宜しくね茜ちゃん」
「紅羽だ。宜しく茜」
「……」
「手洗った?」
「うん洗った」「洗ったぞ」
「じゃあちょっと待ってな」
放心している茜を放置しお昼の準備。準備が終わり食べるところで茜が復活した。
「……はっ!ごめんなさい。星茜です…可愛いなー」
「「よろしくー」」
いそいそとオードの隣に座る茜。あれ?もう1つ椅子あるけど?の問いにカナンは作りすぎたかなーと。そのままオードの隣に置いておいた。
「お義兄さん格好良かったよ」
「ははは、ありがとう。でもこのざまじゃあ格好悪いよなー」
「全力を出し切ってこそだろう。全力で闘えば通じるモノもあるし」
我らの様にな。目を合わせて笑い合うアイと紅羽。カナンはそれを見て、俺も含めて殺し合った仲なのに仲良くなったなーと感慨深い気持ちになる。
「あ、あの嫁って、カナン君って結婚してるの?」
「まあな」「ラブラブなのー」「ら…らぶらぶなのぉ…」
「紅羽、無理すんな」
「へえ、羨ましいなー」
「あれ?彼女じゃ無かったのかー」
「あー。最近知ったんだけど、アイと紅羽の契約に結婚も含まれてるんだよ」
「へえ、良かったな。アイちゃん、紅羽ちゃん。おめでとう」
「えへへ」「ありがとうお義兄さん」
「いいなー。カナン君と何処で知り合ったの?」
アキとは森の中?神殿?カナン君って前世はアキって言うんだねー。うわ…美味しい…誰が作ったの?と女子3人は直ぐに打ち解けキャイキャイ会話に華を咲かせている。それを微笑ましく眺めるカナンとオード。
「アイ、紅羽。食べたら戻りなよ。そろそろだから」
「え?もう?まだ途中なのに。紅羽、後は中で食べよ。またねー茜ちゃん」
「またな、茜」
「うん?またお話しようねー」
アイと紅羽はお弁当を持って石の中に戻って行った。カナンは椅子を2つストレージにしまい、オードと茜が並んでいる向かいに座った。オードの向こう側にある扉を見ながら話し出す。
「さて兄さん」
「ん?」
「どうするんだい?」
「何が?」
コンコン
「ん?はいー?」
「オ、オード?私、ニーナだけど、入っていいかな?」
「え?あ、どうぞ?」
オードはどうしたんだ?と首を傾げ、茜は頭を抱え、カナンは無表情で待つ。
ガチャと開いた扉から第1皇女のニーナが入ってきた。恐る恐る入ってきたニーナは部屋の中を確認。最初に目に入ったカナンを見て弟さんかな?と首を傾げ、振り向いたオードを見つけ、少しにやけながら頬を染める。
「どうしたんだ?皇女様」
「オードの体調が悪いって聞いて…大丈夫…なの?」
「おう、2、3日休めば大丈夫だよ。わざわざ悪いな」
「うん、心配で…」
ほっとしたような表情で微笑んだ後、チラリと茜を見るニーナ。少しビクビクしている茜と目が合い、ふふっと微笑む。
「やあ姫さん。俺は弟のカナンだ。宜しく。そこの席空いてるから座りなよ」
「ふふふ、ニーナよ。君凄いね。あんな綺麗な魔法初めて観た!」
「くっくっくっ、姫さんに言って貰えるなんて光栄だねえ」
茜は思う。こいつ皇女が来るの知ってやがったなと。カナンを睨むがカナンは視線を無視してニーナと話す。
「オード、次の試合観れないのは残念だけど、格好良かったよ」
「ありがとな。こういう場所でカナンと闘いたかったけど、また今度だ」
「…うん」
「あ、姫さん。明日の試合観たら俺たち国に帰るんだけど…どうする?」
「え?…国って帝国じゃないの?」
「ああ、2つ山脈を越えた先の国だ。因みに茜ちゃんも一緒に行く」
ニーナはガタッと立ちあがりオードに詰め寄る。
「…嫌。嫌だよオード!…帝都に残る気は、無いの?」
「い、いや、国に帰るよ」
「……嫌」
「まあ兄さんが帰るのは変わらないよ。さて、姫さんはどうしたい?」
このまま何もしないんじゃこの恋は終わるよ。そう言いたげなカナンを見詰めニーナは唇を噛み俯く。オードはこの状況が分かっていない様子だが、話は進んでいく。茜は話に入れず3人をキョロキョロ見ている。
「私は第1皇女…皇族を捨てる事は出来ない」
「ふーん、中には捨てるヤツも居るぞ?」
「それでも、皇族に誇りを持っている」
「へえ、じゃあこんな良い男、諦めるかい?」
「…くっ…」
「ま、意地悪だったかな。ほれ」
ニーナに通信石を渡す。
「これは?」
「これで兄さんと簡単に話が出来る。話ながらゆっくり考えな。まだ若いんだし」
「……ありがとう」
チャンスをくれて。目を閉じて感謝を表すニーナにカナンは頑張れよと一言。
「という事で兄さん。姫さんと話してやって」
「あ、ああ」
ニーナは立ったまま茜に向き合う。え?何?と茜はビクビクしている。目の前に皇族が居るのだ、無理もない。
「私、ニーナ。よろしく」「あ、茜です…どうも」
「貴女、強いのね」「あ、ありがとうございます…」
「私、この勝負は負けたくないの」「わ、私も…負けません」
ニーナは勝負ね、と握手をしようと手を差し出す。茜は恐る恐る手を伸ばした。
「ん?貴女…その手」「あっ」
茜はニーナの綺麗な手を見て、手を引っ込めてしまった。笑われる。劣等感。皇女とただの迷い人。その差を見せつけられた様に。
「…駄目じゃない」「……」
「こんなになって…」「…え?」
ニーナは茜の手を両手でそっと包み込む。その表情には純粋に茜を心配している様な悲しげな表情。茜は困惑した。
「苦労…したのね」「あ、いや」
「治すから、じっとしてなさい」
「…いえ、このままで良いんです」
「どうして?」
「私がこの世界を生き抜いた証ですから。もう少しこのままで良いんです」
「…そう、強いのね」
「そんな事ないですよ」
泣いてばかりですから。ふふっと笑い合うニーナと茜。それを眺めるカナンとオード。
「なあ、カナン」
「なんだい兄さん」
「後でこの状況を説明してくれないか」
「え?まじ?気付かんの?」
「いや、今聞いたら駄目な気がして」
「ははは、仕方ないねえ」
「じゃあ私は行くわ。オード、また会える?」
「ああ、時間が合えばな」
「ふふっ、ありがとう。カナン君これありがとうね」
「はいよー」
「茜、負けないからね。でも茜さえ良かったら…一緒に…。いや、何でもない。またね」
「うん?うん。また」
そう言ってニーナは扉へ向かう。そして振り返りオードを見詰め、少し考えた後、スタスタとオードの前に立った。
「ん?どうした?」
「…ふふっ」
微笑みながらオードに素早く近付き、オードの唇にキスをした。
「へ?」
「なっ!」
「くっくっくっ」
助けてくれたお礼よ。そう言って凛とした表情で去っていくニーナ。廊下でキャーキャー聞こえているのをスルーして、カナンは満足げな表情でにこやかに告げる。
「さっ、お二人さん。休憩終わるから戻ろうか!」
「「……」」
「あれ?」
「カナン君…なんで皇女の応援してるのよ」
「なんでって、姫さんの気概は嫌いじゃないし。フェアじゃないからねー」
「うぅ…でも、ライバル増やす事無いでしょ…」
あのまま行けば独り占め出来たのに…そう思うが言葉に出来ない茜。しかしニーナの事を好きになっている自分もいるのでもどかしい気持ちになっていた。
「何言ってんだ?兄さんモテるから王国に帰ったらライバルだらけだぞ?」
「え?モテるのは分かるけど…」
「だって兄さん。ファンクラブあるもんな」
「ファン…クラブ」
「夜道には気を付けなよ。茜ちゃん」
くっくっくっと笑うカナンを見て、茜は何処まで人をからかえば済むんだコイツは…とため息しか出なかった。