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カナンはいつもの黒い笑顔で

 多くの歓声が飛び交う中、救護の係員にユウトを預けたオードは南側の選手席に戻った。


「ただいま」

「兄さんお疲れさん」

「オード君、おかえりなさい。格好…良かったよ」



『アキ、お義兄さん…無理したみたいよ。これ以上は駄目ね』

「ん?まじ?。…兄さん。奥義連発したでしょ」

「いや…うっ、悪い」

「どうしたの?」


 目を合わせないオードを茜が不思議に思いカナンを見る。そこにはやれやれと呆れた表情のカナン。オードの背中に手を当てため息を吐く。


「魔力の通りが悪くなってるな。魔力暴走の手前だね。兄さん、アイ先生がドクターストップだって」

「ああ、やっぱり」

「え?ドクターストップって?アイ先生?オード君大丈夫なの?」

「魔法剣奥義の使いすぎでガタがきてるんだよ。まあ2、3日休めば大丈夫なんだけど、試合の参加はこれ以上は無理だね」

「そんな…」

「カナンと大舞台で闘いたかったんだけどなー」


 なんで奥義なのかわかってんの?とオードを説教するカナン。しょんぼりするオードを見て可愛いなあとクスッと笑う。



「仕方ない…ちょっと大会本部に行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

「私席に居なきゃいけないから、付いていけなくてごめんね」

「ありがとうな、直ぐ戻るよ」


 オードはため息を吐きつつも晴れやかな表情で大会本部へ向かって行った。


『次の選手の方は闘技台までお越し下さい!』


『次の対戦はスタンリー選手対ネル・クーガ選手!』



「ねえ茜ちゃん、超位魔法って使えるの?」

「え?使える訳無いでしょ。確か宮廷魔法士数十人で行使する大魔法でしょ?無理よ」

「あれ?そうなの?…あっそうか、重力魔法だからほとんど独学だもんな」

「そうだね。最初は意味わからなくて苦労したよ」


 ふーんとカナンの口元が弧を描く。茜は闘技台の方を観ている為カナンの表情に気付かない。密かに魔法を発動した黒い笑顔のカナン。


「茜ちゃん、ちょっとこっち向いて」

「んー?何?」

「トランスファー」


 人差し指で茜のおでこに触れ転写の魔法を行使。


「_っひぁ!いきなり何すんの!…へ?何これ…」

「俺も重力魔法使えるから簡単なヤツをお裾分けだよ。流石に禁術は危ないから駄目だけど、上位と超位を何個か入れといたから次の対戦で試してみてねー」


「軽く言わないでよ…凄い…上位の5倍の魔力で超位が使える?何よこれ!私でも使えるよ!」

「後は修行あるのみさ」

「…ありがとう。何で会ったばかりの私にこんなにしてくれるの?」

「理由が必要かい?俺がそうしたかった。それだけ」

「でも…」


 私は何もあげられない。理屈じゃないのは分かってる。でも隣の恩人に何かしてあげられないだろうか。茜は伝え方が分からず黙ってしまう。


「何もいらねえよ。甘えとけ。兄さんの隣に立ってくれるだけで良いんだから」

「…うん」

「俺はこう見えておっさんだからな。おっさんは若い女子には優しいもんだ」


 ほんと見た目詐欺だよね。そう言ってクスクス笑う茜を見て、そういえば俺って諸々入れると何歳なんだっけ?と疑問に思うが、まあ良いかで済ませてしまう。


『ネル選手の槍技が決まったー!両者共に互角の闘い!』


「おまたせー。本部に辞退するって言ってきたぞ」

「おかえりー、止められた?」

「おかえりなさい」

「あー、まあそうだな。来年も是非参加してってよ」

「意外にすんなりだねー。こういう場合は誰か勝たせたい相手が居るのかもね」


『次の選手の方は闘技場までお越し下さい』


「あ、私の番だ」

「茜ちゃんいってらっしゃーい」

「うん」

「ア、あかね、さん。頑張ってな」

「あ、う、うん!頑張る!」


「くっくっくっ、若いねえ」

 カナンは赤い顔の二人をニヤニヤ眺めるが、既に二人の世界なので、リア充めと呟き茜が行くのを見届ける。




『次の対戦は、ムンバ・ムーア選手対アヴァネ・スター選手!ムンバ選手は名門ムーア家の天才!数々の魔法大会で優勝する実力者!アヴァネ・スター選手は1回戦の一撃が記憶に新しいでしょう!』

『キャー!ムンバ様ー!』『がんばってー!』



「ハンナ・ドウを倒したようだね。どうやったか知らないけど僕が勝つから」

「……(カナン君教えてくれたの良いけど…これ全部危ないじゃない!?)」

「ふっ、その様子だとまぐれみたいだね」


『開始!』


 両者魔力を練る


 最初にムンバの魔法陣が展開される

「ファイアーストーム!」


『出ました!ムンバ選手の複合魔法!これで数々の賞を取ってきました!』


 うねりを上げた10メートルの赤い炎の渦が茜へ迫る


「どれが一番弱いかな?…これかな?」

 突如現れた黒い大きな魔法陣


「『__なっ!』」

 黒い魔法陣が回転している

「グラビティストライク」


 黒い歪なサッカーボール程の大きさの球体がファイアーストームへ向かう


『アヴァネ選手!謎の球体を発生させたー!どんな効果があるのでしょうか!』


「ふ、ふん。びっくりさせやがって。こんなもん燃やしてやるよ!」

「ぐっ…何が簡単よ…制御が難しいじゃないのよ…」


 黒い球体とファイアーストームが接触


 ギュュュュ!黒い球体に炎の渦が吸い込まれ


 ポンッ!「なに!」炎が跡形も無く消えた


 まだ存在している黒い球体はムンバへ向かう


 ムンバは直ぐに魔法陣を展開し


 茜は少し理解が進んだ様で

「あ!こうやるのか!」

 ギュン!急に黒い球体が弾丸の様な速さに


 ムンバの右手に接触

「くっ!なんだこれは!吸い込まれる!」

 球体を起点に重力塲が発生


 ゴキッベキッ指先から徐々に押し潰されていく


「ギャアアアアア!」

「あー、そのくらいで叫ぶなんて…これこのまま行ったら死ぬよね?」


 ギャリギャリと押し潰されて次第に肘へ到達


「ああああああ!痛い痛い痛い痛い!降参!降参だー!」

「この魔法…拷問しているみたいで嫌なんだけど」


『アヴァネ選手ー!ムンバ選手は降参しましたー!魔法を解除してくださーい!』


 茜は魔法を解除


『勝者!アヴァネ選手!またも一撃!こんな展開誰が予想したでしょうか!』

『おおおおお!』『怖え!』『うわー…』


 茜は運ばれていくムンバを興味無さそうに見て南側の選手席に向かう。


「カナン君…こんな凶悪な魔法…か弱い女の子に教えやがって…」




「おー見事使いこなしたなー」

「ん?あれカナンが教えたのか?」

「そうそう、重力魔法って難しいからぶっつけ本番で出来るなんて才能あるなあ」

「そ、そうなのか?ちなみにあの拷問みたいな魔法なんなんだ?」

「あー、あれね。そのまんま拷問用に作った魔法だよ?」


 ちなみに重力魔法は上位魔法以上しかないから強いんだよねー。と闇を抱える弟を心配するオード。丁度戻っていた茜が聞いていた様で顔を引きつらせてカナンを睨んでいる。


「…ただいま」

「おかえりー」

「カナン君…覚えてろよ」

「茜さん。おかえりなさい」

「ただいま!オード君が応援してくれたから初めての魔法も使えたよ!」

「おい調子良いな」




『これで2回戦が終了しました!勝ち進んだ選手はお昼休憩を挟み、午後からシード選手との試合になります!尚、オード選手は体調が思わしく無いので棄権致しました!なので3回戦第2試合はシード選手の不戦勝となります!』


『えー!オード君出ないの!?』『来年待ってるよー!』『凄かったよなー』



「さて、休憩だから兄さんの個室に戻ろうか。茜ちゃんもおいで。多目にお昼用意してあるから」

「ほんと?やったー」



 一同は休憩の為席を立ち、個室に戻る為通路へ向かう。それを貴族席から遠目に見ていた皇女がいた。



 そして。



 カナンはそれを知っていた。口元が弧を描く。

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