おじさんのお節介
『2回戦開始します!次の選手の方は闘技台までお越し下さい!』
「ん?とりあえず行った方が良いのか?」
「そうだな。行かないとカナンも不戦敗になるぞ」
「はいよ」
2回戦、第1試合はカナン対ハワード。しかしハワードは棄権したのでカナンだけが闘技台へ向かう。てくてくと歩き中央にたどり着いた。
『2回戦第1試合、ハワード選手対カナン選手ですが、ハワード選手の棄権によりカナン選手の不戦勝となります!』
ざわざわ
『えー!』『楽しみにしてたのに!』
ざわざわ
『棄権だってよ』『怖じ気付いたな!』
ざわざわざわざわ
『皆さん!落ち着いて下さい!まだ試合はあります!』
「まっ、こうなるわなー」
『腰抜けが!』『ああ!腰抜けだな!』
「はぁ…アイ、威圧頼む」
『ウフフ、りょーかい』
『皆さん!__うっ……あ…あ』
ズンッ!とアイの威圧が放たれる
………
………
会場内から声が消えた
恐怖に支配され、観客に喋る余裕など無い
「おい、ハワードさんを悪く言った奴は俺の前に出てこい」
会場にカナンの声だけが響く。
………
「お前か?」フルフル
「じゃあお前か?」『……』
誰もカナンと目を合わせようとしない
「…ハワードさんは申し訳なさそうにしながらも、しっかりと俺を真っ直ぐ見てくれた。そんなハワードさんの気概を汚す奴は、俺が相手になる」
早く出てこい!アイが動揺を感知し、特定した暴言を吐いた輩に威圧を上乗せする。
『_ひっ!』『_あ…が…』
「腰抜けが」
バタッバタッバタッバタッ
アイが止めの威圧を放ち、輩達を気絶させ、会場内の威圧を解除する。
「アイ、ありがとな」
『どーいたしまして。ん?』
「どした?」
『ユウトって人も気絶してるね』
「アイツも言ったのか…あんまり失望させんなよな…」
死んでないならまあ良いか、と心底興味の無い目を北側に向ける。直ぐに視線を外しメガネを指でクイッとして選手席に向かって歩く。
『はぁ、はぁ。物凄い威圧感…カナン選手、強さの底が見えません……皆さん暴言、誹謗中傷はやめて下さい。あれはもう恐すぎて勘弁です』
『『……』』
全ての観客がうんうんと頷き気持ちが1つとなる。アレはもう嫌だと。
カナンは戻る途中でふと立ち止まった。南側の選手席を見るとオードと茜が楽しそうに話している。アイは二人に気遣い威圧は当てなかった様だ。
カナンの口元が弧を描き、振り返ると再び中央へと戻る為歩き出す。
『あれ?カナン選手?どうしたんですか?あ…黒い笑顔で…何をするんですかぁぁ!』
泣きそうなラリーの声が響く。
「アヴァネさん…いや、茜ちゃん。おじさんからもう1つ、プレゼントだ」
カナンは魔力を解放し、魔法を発動する。
闘技台、直径100メートル程。全てを埋め尽くす無数の魔方陣を展開。
赤、青、黄、緑、紫、橙、白、黒、等様々な色の、50センチ程の魔方陣で埋め尽くす。
『う…そ…こんな…』
闘技場全ての人々が釘付けになる。異常な光景。闘技場は極彩色の絨毯が敷かれた様に輝いている。
最初に黒色の魔方陣が輝き出す。
「ナイト・フィールド」
闘技場を薄く闇が覆い、薄暗い夜の景色に変わる。
『_ひっ!なに…こんな魔法…見たこと』
そして魔方陣が次々と輝き出した。
「星空に咲く」
魔方陣から色取り取りの魔法がポンポンポンと上空に発射。
「大輪の華」
ヒューー
「千紫万紅の花火!」
ドーン!ドーン!ドーン!
夜空に咲いた大きな花火。
ドーン!ドーン!ドーン!
極彩色に咲き乱れ。
儚く消え行く大輪の華。
『『『……』』』
人々はその圧倒的なスケール。圧倒的な美しさに魅了され。
『ああ、綺麗』
心を奪われる。
綺麗な花火が打ち上がる中、カナンはもう1つ魔法を発動。
「スピーカー」
拡声の魔法を自身に掛ける。
≪あー、あー。マイクテスト、マイクテスト。よし≫
人々は花火に夢中になりながらもカナンに意識を向ける。
≪皆!さっきは悪かったな!詫びと言ってはなんだが俺からのプレゼントだ!≫
人々は、はっと気付く。この美しい光景を生み出した少年。何者なのだ、いや、そんな事はどうでも良いとばかりに人々は次々と立ちあがった。
≪皆!もうアホな奴らはいない!純粋に…楽しもうぜ!≫
『『『『おおおおおおおおおお!!!』』』』
人々の歓声に闘技場が揺れた。観戦していた男女、小さな子供、審判、警備員、果ては貴族までもが熱狂し、大声で叫ぶ。
カナンはふぅ、と一息。拡声の魔法を解除して、チラリとオードと茜を見る。二人は寄り添い、泣きじゃくる茜をオロオロしつつもそっと手を繋ぐオードの姿。
くっくっくっと笑い、カナンは北側の選手席に向かう。
通信石に魔力を通し、オードに連絡。
≪カナン?あの、アヴァネさんが…俺どうしたら…≫
「くっくっくっ、兄さん。アヴァネさんに付いててあげな。地球では、花火は好きな人と観るのが憧れだって誰かが言ってたし」
≪え?いや、でも≫
「あー、俺うんこしてから戻るんでまた後でねー」
≪あっ、ちょ≫
プチッと通信を切る。
「茜ちゃん、これからは楽しもうぜ。異世界を」
カナンは腕を真上に、人差し指を上に向ける。
「これで最後」
ヒューー
ドーン!
七色の大きな花火が咲き誇った。
そしてカナンは北側の通路から遠回りして南側の選手席に向かう。
『アキ。優しいのね』
「ん?ただのお節介だよ」
『茜ちゃん苦労してたのかな』
「そりゃそうだろ。茜ちゃんの手見たか?あんなにボロボロになってんのにニコニコ笑って。あんなの見せられたらおじさん頑張るしかないだろ」
『ウフフ、そうね。今度は私達の為に花火打ち上げてよ?』
「ははっ、分かったよ」
『次の試合は…すみません…少し休憩を下さい…感動して涙が止まりません…』
「あ、次は兄さんの試合かー。茜ちゃんをからかうのに兄さんが闘技台に出たら戻るかな」
ナイト・フィールド、黒色超位魔法。主人公オリジナル、朝でも昼でも指定した範囲を一定時間夜の明るさにする。
千紫万紅の花火、七色複合禁術、主人公オリジナル花火魔法。あまりの美しさに良い雰囲気になり、リア充が次々と生まれる為、主人公が禁術指定した禁断の魔法。




