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アヴァネ

『次の試合はローウェル選手対スタンリー選手!次はどんな闘いを観せてくれるのでしょうか!』


「アヴァネさんの出番まで別に観なくて良いかな」

「え?どっか行っちゃうの?寂しいんだけど」

「…じゃあ兄さん呼ぼうか」


 えっ?どうしよー、とニヤニヤしているアヴァネを放置し、通信石でオードを呼び出す。


≪おー、カナン≫

「まずは勝ち星おめでとう」

≪ありがとな≫

「ちょっと南側の選手席に来てよ。紹介したい人居るから」

≪ん?分かった。悪い、カナンに呼ばれたから行くわ≫

「待ってるよー」


『開始!』

『『『わあぁぁぁぁぁぁ!』』』


 試合をボーッと観ながらオードを待つ。少し経ってオードがやって来た。


「カナン、お待たせ」

「悪いね、呼び出しちゃって。こちらはアヴァネさんだよ」

「あ、アヴァネです。よろしく」

「オードだ。よろしくな、アヴァネさん」


 握手をして挨拶したオードとアヴァネ。アヴァネはガシッとオードの手を繋ぎ放さない。

「ア、アヴァネさん。どうしたの?」

「えっ?あっ!ごめんなさい」

 無意識に繋いでいた手を放し、顔を赤くしてあたふたしている。


「兄さん、アヴァネさんは家の店で働いてくれるって。信用は俺が保証するからね」

「おー!ありがとなアヴァネさん!最近忙しくてなー」

「後は俺の依頼もアヴァネさんとやってもらう事多くなるから今の内に仲良くしてねー」

「ん?カナン君の依頼って?」

「ちょっとした魔物退治さ。簡単だから気にしないで」

「ん?うん、わかった」


 ストレージから取り出した通信石を出し、アヴァネに渡す。

「何これ?イヤリング?」

「魔力を込めると通信出来るんだ。こっちは俺の。そっちはオード兄さん直通だよ」

「えっ!ほんと!ありがとうカナン君!」

 嬉しそうに身体を揺らしながらえへへ直通…直ぐに耳に付けてニヤニヤしている。


『決まったー!勝者スタンリー選手!ジーク流師範の実力は確かなものですねー!』


「無くすとアレだから、一応俺の通信石も付けといて。そういえばアヴァネさんって魔法使いなのは見て分かるけど武器とかあるの?」

「あるよー。これ」


 黒いローブを着ているアヴァネが見せてきたのは腰に付けていた80センチ程のメイス。先端に重心がある打撃武器だ。


「んー。使いこまれてるね。鋼鉄製かー」

「お金無かった時から使ってるの。たまに錆びるし手が鉄臭くなるから賞金出たら買い換えようかなって」


 あっそういえば。とカナンは青いメイスを取り出す。黒色魔力を込めて真っ黒なダイヤモンドメイスが完成し、アヴァネに渡す。


「ん?何?メイス?くれるって?い、いや…この輝き…宝石でしょ…何でメイスにしたのよ?高いでしょこれ…え?闘技場買ってもお釣りが出るくらい?無理無理無理貰えない勿体ない」


「就職前祝いだよ。まだ沢山あるから大丈夫だし、それが無いと渡り合えない奴がほとんどだから、貰ってくれないと就職出来ないよ?」


「……無茶苦茶ねカナン君って。…分かった。有り難く貰うね…これに見合う仕事って…なんか怖くなってきた」


『次の試合は、オーガスト選手対ネル・クーガ選手!』


『開始!』『行けー!』『ネルさん頑張れー』


「そういえばオード君とカナン君ってどっちが強いの?」

「あーカナンの方が断然強いぞ。魔法無し、武技無しのハンデで1分持てば良い方だし……」

「そんなの強すぎじゃないの…あれ?じゃあ剣聖より強い?」

「さあな、まだ来てないみたいだし、直接見ない事には何とも」


『速攻でネル選手が勝利をもぎ取ったー!』『槍も強いなー!』『ネルさん!良くやった!』


「余裕そうな表情だねー」

「元々こういう顔だし」

「メガネ取ったら?」

「ずっとつけてるから、取ったら違和感が凄いんだよ」


『次は、キーラ選手対ムンバ・ムーア選手!』


『開始!』『キーラ行けー』『ムンバ様ー!』


「あの、今良いかな?」

「ん?ハワードさんどうしたの?」

 カナンの次の対戦相手、ハワードが真剣な表情で話し掛けてきた。


「考えたのだが…私は次の試合、辞退しようと思う。君を見て力不足を感じてしまった。こんな気持ちじゃ闘う資格など無い…」

「…そっか、オータム流師範と闘うのは楽しみにしていたんだけど」

「自信が持てるまで成長出来たら、闘いを申し込んで良いだろうか」

「ああ、いつでも待ってるよ。そうだ、オータム流を広めた人ってどんな人?」

「それは私の祖父だよ、剣聖様に頼み込んで剣術を学んでね。でも剣聖様の妹が病気になって、教えるどころじゃ無くなったんだ。それで奥義までは伝授して貰えなかったけど、それでも祖父は一生懸命流派を広めたよ。10年前に病気になって亡くなったけど満足そうにしていたよ」


 多分祖父は剣聖様に惚れてたんだね。と懐かしむ様に答えるハワード。


「そうか、ありがとうハワードさん」

「ああ、時間がある時に帝都の剣術道場に遊びに来て欲しい。若い門下生の刺激になるし」


 軽く言葉を交わしハワードは去っていった。


『ムンバ選手の勝利!見事な魔法でした!』


「…さあ、そろそろアヴァネさんの出番だよ」

「そうだねー。まっ頑張るよ」



『次の選手は闘技台までお越し下さい!』


「行ってらっしゃーい」

「ええ」

「アヴァネさん、頑張ってな」

「うん!オード君!私頑張るよ!」

「態度ちげえな」



 ふふんと笑ったアヴァネは闘技台へと向かう。軽快な足取り。応援されて嬉しかったのだろう。


「なあ、カナン。アヴァネさんってどのくらい強いの?」

「見た感じ兄さんと互角だよ」

「まじか…魔法使いっぽいのは分かるけど、強い様には見えないなー」

「まあ、観れば分かるよ。そうそう兄さん」

「ん?なんだ?」

「アヴァネさんどう?」


 女として、そう言うカナンにオードは苦笑した。カナンは隠れてオードの耳に魔力を当て通信石を起動させる。


「会ったばかりだからまだ分からないけど、可愛いし雰囲気は好きだぞ。肩を並べて闘える存在なら…」


 惚れるだろうな。その言葉を聞いたカナンは、満足そうにオードの通信石の魔力を切る。


「ん?アヴァネさんどうしたんだ?うずくまって」

「くっくっくっ、きっと嬉しい事があったんだよ」


 両手で顔を隠してうずくまるアヴァネ。オードは心配し、カナンはニヤニヤ笑う。


『あれ?アヴァネ選手大丈夫ですか?』


「だ、大丈夫です…」

 フラフラと立ちあがり中央へ歩いていく。その姿を見た対戦相手のハンナはニヤリと笑う。


「何この子、地味なローブね。体調悪いなら帰って良いわよ?私が勝ってあげるから」


 どうせ私が勝つんだし、というハンナを見て心が少し落ち着いたアヴァネ。


「大丈夫、直ぐに終わるから」

「ふふん。もう弱気なのねえ」

『次は、ハンナ・ドウ選手対アヴァネ・スター選手!ハンナ・ドウ選手は魔法士ギルドSランク!赤色魔法の天才!赤い綺麗なローブに赤い杖!格好良いですね!

 アヴァネ選手は冒険者ランクもCと突出した情報はありませんが、黒いローブにメイス持っています!』


『開始!』


 ハンナはニヤリと笑いながら赤い魔方陣を展開


「クリムゾンアロー!」

 赤い5メートルの大きな炎の矢が出現


『ハンナ選手魔法が早い!もう上位魔法が完成した!』


「焼き尽くせ!」

 ゴオオ!と炎の矢がアヴァネに迫る


 アヴァネは前に歩き出し


 魔力を練り

 一言


「グラビティープレス」


 ズンッッ!


 クリムゾンアローが床に叩きつけられ四散した


「ぐっ…ぎぇ…」


 ハンナは重力に押さえ付けられ動けない


 アヴァネは持っていたダイヤメイスの先端を肩に乗せ、ハンナの前に立つ


 ハンナの脇腹目掛けて


「えいっ!」フルスイング


 ドンッ!バキッ!っと骨が砕けた音がして


 ハンナを闘技台端まで吹っ飛ばした


『……うそ…ハンナ・ドウを一撃…』


 ハンナは白目を剥いてピクピクしている。


『__はっ!勝者!アヴァネ選手!』

『『うおおおおおお!』』 『あのハンナを一撃!?』『つえー!』


 アヴァネはこんなもんかと呟きながら選手席に戻る。


「アヴァネさんお疲れさん」

「ありがと」

「アヴァネさん!凄いな!」

「うん!オード君が応援してくれたから頑張れたよ!」

「やっぱ態度ちげえな」


 急にアヴァネが停止した


「あっ…あ、う」

「ん?アヴァネさんどうしたんだ?」


 アヴァネは先程のオードの言葉を思い出してしまい、口をぱくぱくさせて赤面している。カナンは微笑ましくアヴァネを見詰め。


「くっくっくっ、どうだった?アヴァネさん。俺からのプレゼントは」

「カ、カナン君!ありがとう!凄く嬉しかった!」

「ははっ、どうせ今まで生きるのに精一杯だったんだろ。恋も出来ないくらいに」

「あ、やっぱり分かった?」

「最初からな」


「え?カナン。どういう事?」

「重力なんてマイナーな魔法この世界の人間は使わないんだ。そもそも重力って概念が定着していないし」

「ん?ってことは、アヴァネさんって」

「そっ、転移者。でしょ?星さんかな?」

「ふふふ、やっぱりバレてたか。隠して無いからバレても良いんだけどねー。カナン君も…まあ…大会が終わったら聞こうかな」


「終わったらな。髪は染めてるの?」

「そうだよ。という事で、星茜(ほしあかね)です。宜しくねー」



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