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勇者

「勝ったよー」


 南側の選手席に戻ったカナン。観客は興奮冷め止まぬ様子今の試合を語り、ざわざわガヤガヤしている。


「カナン…お前無茶苦茶強いな…俺勝てる気がしねえ」

「カナン君強すぎ…自信無くしてきたー」

「ははっ、こう見えて強いだろ」


 予想通りの反応だなーと思っていると、周りの面々もうんうんと頷いている。次の対戦相手のハワードも顔が引きつっている。


「次はおっちゃんだろ?頑張れよ。多分ユウトって奴もそこそこやると思うし」

「はっはっは、心配してくれんのか。…そうだ、俺、傭兵団やってるんだけど、カナン…出来たら入ってくれないか?」


 お前が必要だ。真剣な表情で、駄目元なのは分かる。それでもカナンは自分をちゃんと見てくれたゴイームに好感を持った。


「ごめんな、おっちゃん。もう将来は決めてんだ。誘ってくれてありがとう。ファー王国に寄る事あったら飯でもご馳走するよ」

「ファー王国かあ、落ち着いたら行こうかと思ってたんだ」

「ファーって山脈2つ越える所?遠いね」


『次の選手は闘技台までお越しくださーい!』


「よし、行ってくるわ」

「がんばれー」

「行ってらっしゃーい」


 ゴイームが闘技台へ向かって行った。




「ねえ、アヴァネさん、帝国に住んでるの?」

「私?宿に泊まってるから、何処ってのは無いかなー」

「そうなんだ、大会終わったらどうするの?」

「んー、賞金貰って少しゆっくりしてから、また冒険者しながら過ごすかなー」


 ふぅーとため息を吐きながら、その日暮らしも大変ねーと苦笑している。


「へぇー。じゃあ大会終わったら、一緒にファー王国に来ない?」

「なにー?お姉さんを誘ってるのかしら?」

「そうだね。家の店で働いて欲しいから、アヴァネさんをスカウトかな。給料良いし、アヴァネさんも気に入ると思う。後はまあ、俺の予想だけどアヴァネさんって……」


「な、なに?」

 少し身構えるアヴァネ。


「オード兄さんの好みのタイプだと思うよ」

「へ?」


 徐々にアヴァネの顔が赤くなって来た。それを見てカナンがニヤニヤしている。


「もう!からかわないでよ!」

「本気だよ。なんなら応援するし、それと…まあいいか。大会終わるまでに考えといてね」

「もう!…はぁ…分かった。考えとく」


 ファー王国か…行こうかな…と少しニヤニヤしているアヴァネを見て、従業員ゲットかな?とほくそ笑むカナン。


『アキ、珍しいね。会ったばかりの人を信用するなんて』

(あー、アヴァネさんって特殊なんだよ。それに、兄さん並みに強いよ)

『そういう事。今度紹介してねー』『我もー』

(はいはい)


 闘技台を見る。中心に向かい合う二人を見る。ユウトとゴイーム。




『北からはユウト選手!ロブ王国所属、今大会には自分の強さを確認する為!格好良いですね!軽鎧に長剣とオーソドックスなスタイル!

 南からはゴイーム・ハンサ選手!ハンサ傭兵団を率いる団長!厳つい見た目ですが団員の皆さんは優しいおっちゃんと口を揃えて言ってました!青い服に素手、拳で語るってヤツですねー!』


「ちっ、あいつら後で覚えてろよ」

「おっさん、すぐ終わらせてやるからな」

「俺はまだ20代だ!」


 ユウトは半身になり剣先をゴイームに向け、ゴイームは拳を前に構える。


『開始!』


 ゴイームが攻める

「重撃!」振り下ろす拳

「流し斬り」

 ユウトは拳をすり抜け斬りつける

「やるなぁ!」

 ゴイームは半身になり躱しながら

「戦吼!」

 両手での掌低

 ドンッ!「ぐっ…」ユウトは10メートル程吹き飛んだ


『素早い攻防!先制したのはゴイーム選手!ユウト選手早くも足にきているか!?』


『『『おおおおお!』』』『キャー、ユウトくーん』『がんばってー!』『おっさんがんばれー』


「流石本戦、強いね。でも勝つのは俺だ!」

 ユウトは魔力を練る

「俺も一回は勝ちたいからな!重連脚!」

 ゴイームは素早く近付き重い蹴りを連続で放つ

 何とか躱すユウト

 ブオオン!ブオオン!と空振る蹴りの音が観客席まで届く


「はぁ、はぁ、出来た!聖光!」

 光がユウトを包む


 軽鎧が聖なる光に溢れ輝く


 ―――


「あれは、魔装…ブレイブか?」

「カナン君、ブレイブの魔装って?」

「光の魔装。鎧でサポートはしているが、ユウトは…勇者だな」

「勇者?にしては弱くない?」

「ははっ、そうだな。多分力を手に入れて1年くらい。自分に自信が付いたから大会に参加したんだろうさ(あれを弱いって言うのか…想像以上か?)」


 ―――


『ユウト選手!光の鎧を身に纏った!まるで勇者様の様だ!…え?本物?本物です!本物の勇者様です!』

『キャー格好良い!』『ユウト様ー!』『勇者様ー!』



「眩しくなりやがって!重戦吼!」

 渾身の力を込めた両手の掌低

 ドオオ!直撃

 しかしユウトは動かない

「何?効いてないだと」


「俺は勇者なんだ、こんな所で負けるかよ!」

 ドッと吹き荒れる光の奔流

「まじかよ!」

 ゴイームも魔力を練り力を溜める


「聖光破斬!」「岩槌重撃!」

 会場を明るく照らす光の斬撃と

 5メートルは越えるであろう巨大な岩の拳がぶつかり合う


 カッ!と光が溢れ会場が白一色に染まった



 やがて収まる光


 そこには剣を構えるユウトと


 倒れ付したゴイームの姿があった


『勝者!ユウト!』


『見事な勝利だー!お伽噺話の様に光の斬撃を繰り出したぞ!私も後7年若ければ!いや、でも今の私が良いっていうなら…』


 ゴイームは運ばれ、ユウトは北側に戻っていった。会場は勇者コールが吹き荒れる。それほどまでに勇者は絶対的な存在。強さの象徴。眼に焼き付けた観客は更に興奮する。


 ―――


「懐かしいなーあの技…なんか思い出すとイライラしてきたな」

「ねえカナン君、勇者って今は平和だけど何するの?」

「光の魔装が使えるから、力を示して政治にでも使うじゃないかな?ロブ王国って何処にあるの?」

「ロブ王国は帝国の南だよ。あそこに行ったことあるけど好きじゃないかなー」

「南って言えば…なんか問題あったのか?」

「奴隷制度があるんだよねー。それが嫌で直ぐに国を出たよ」


 それで帝国に来たんだけどお金少なくなったからこの大会出たんだー、と顔を顰めながら思い出すアヴァネ。カナンはキナ臭い国だなと思い、グリーダ姫が嫁いだ国だと分かりため息を吐く。


『次の選手は闘技台までお越しくださーい!』


「おっ、次は兄さんだなー」

「オード君。頑張って」



 オードは席を立ち闘技台へ向かう。第1皇女と聞いてげんなりしながらも…


 闘技台の中心まで来たがオードのみでニーナ・エルム・グラウドの姿は無い。


 ざわざわとざわめく場内。場を静めようとアナウンスが流れる。

『ニーナ選手はもうすぐ到着されるそうです』

「はあ、どんな人かな…」

 普通の人でありますようにと願う。



 やがて東側の貴族席から人がやってきた。


 15歳程、身長は160センチくらい。綺麗な金髪のクリッとした眼の可愛い美少女。軽鎧を身に付け、手にはレイピアを持っている。闘技台の中心までやってきた。


「ふーん、貴方が対戦相手ね。ま、肩慣らしには丁度良いか」

 オードを見下す様な視線で嗤う。


「よろしく(ちょっと苦手かも)」

 ため息をこらえて何とか挨拶をするオード。


「貴方、歳は?」

「15だ」

「同じね、私、同世代には負けた事が無いの」

 だから精々私を楽しませてね。心底つまらなさそうなニーナはもう次の対戦を意識している様だ。


「ふーん、そう」

 オードも面倒なニーナに対して興味は薄い。



 ―――


『アキ、フラグ立つかな?』

「ん?なんの?」

『お義兄さんが勝ったらよ。皇女はお義兄さんに興味持っちゃうでしょ?』

「それは薄々感じてるけど、そう上手く話は進まないだろ」

『分からないわよ。お義兄さん主人公っぽいし』

「そうだよなー、アヴァネさんにライバル出現か?」

「ん?呼んだ?」

「あー、何でも無いよ。皇女が兄さんに惚れたらどうなるかなーって思っただけだよ」

「そんなのある訳無いでしょ、皇族よ?」


 そんなの無い、嫌ー。とキャーキャーしているアヴァネを見て思う。


(話した事無いのに、もう惚れてんじゃねえか)


 女心ってわかんねえなー、と対峙している二人を眺めながら呟いた。

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