レオ戦
「……舐めやがって」
静まる場内。あり得ないと誰もが思う、大きな拳を片手で受け止める少年。
そこに実況席へ走る人影。青い髪のスレンダーな女性。
『皆さんお待たせしましたー!実況のラリーです!資料が集まらず第1試合に間に合わず申し訳ありません!第2試合レオ・ワグナス選手対カナン選手!……え?どういう状況?ん?何?武技を片手で受け止めた!?あり得ないでしょ!』
「実況居ないと思ったら遅刻してたんかー。くっくっくっ、じゃあ観客を楽しませようかー…レオ君?」
ビキビキ。レオの額に青筋が浮かぶ。
「殺されてえ様だな!ガキが!轟脚!」
ゴオオ!強烈な蹴り
「おっ、危ないなー。どっちがガキだよ」
難なくかわすカナンはバックステップ、少し距離を取り自然体で立つ。
レオは殺気を放ちながらカナンを睨む。
『カナン選手!鋭い蹴りを難なくかわす!なんという反応速度!レオ選手は怖い顔で睨んでいるぞ!私もイケメンに睨まれたい!』
「さて、俺も攻めるか」
カナンは構えずレオを見据え立つ。
「獣殺壊撃!」
レオはカナンを殺す勢いで殺気を込めた胸を狙う正拳
カナンの右手が青く光る
「氷爆鉄拳」
レオの拳を狙い氷を纏った正拳突き
ドオオオン!
ゴキッという音と共にレオが闘技台端まで50メートル程、直線に吹っ飛ばされる
『凄まじい一撃だー!!レオ選手を端まで吹っ飛ばしたー!なんという力!とても12歳とは思えません!』
カナンはアピールする様に手を振っている。
―――
「あー、カナンの奴自重してねえなー」
オードはカナンの闘いを観て遠い目で呟く。
隣に座っていたユウトが呟きを聞き、オードに話しかける。
「あの、オードさん。あいつは何なんですか?あんな力が有るようには見えません」
「ん?ユウト君、アイツに常識は通じないよ。天才って言葉じゃ収まらない」
「でもオードさんの方が強いですよね?」
お兄さんなんですよね?とあんな奴が強い訳無いと聞こえる様に。
「んな訳無いだろ、あんなパンチ片手で受けたら死ぬわ」
「何か卑怯な事をしてるんじゃないんですか?」
「はははっ、そりゃねえよ。まあ観てれば分かる」
―――
「ガキが!もうダメだ。殺さなきゃ気が済まねえ!」
ひん曲がった腕を抑えながらレオが立ち上がり、魔力を練りながらカナンを睨む。
「ふーん、お前今まで何人殺した?」
「へっ、気に入らねえ奴は全員ぶっ殺した!ガキだろうと容赦はしねえ!」
「そうか…これで心置きなく潰せるな」
レオが魔力を解放する。
「獣化!」
筋肉が盛り上がり体毛が濃くなる、爪が伸び、ライオンの顔、赤い髪は拡がり鬣の様に。隠れていた耳が見えた。
二足歩行のライオンがカナンの前に現れた。
『レオ選手!獣化だー!上位の獣人しか出来ない変身能力!獣化をすれば身体能力は5倍まで跳ね上がるといわれている!カナン選手ピンチか!?』
レオが疾風の様に駆ける
「おー、すげーな」
低空で跳び「獅子爪殺法!」
連続の爪撃
シュシュシュと躱すカナン
「ふっふっふ、届かんよ」
「くそがぁ!」
『カナン選手速い速い!もうほとんど何も見えません!これが達人同士の闘いなのか!』
カナンが嗤う
「いくぞー、迅雷」
雷の如く
ドッ!鳩尾に高速の掌低「ぐっ…」
レオの体勢が崩れる
「千烈」
烈風の如く
ガガガガ!顔、胸、肩、腹、脇腹と連続打撃「うっごっがっ!」
全てを受けまるで踊っているように跳ねる身体
「砕岩」
岩を砕く程の
ゴンッ!フルスイング「ぐはぁ!」
地面に叩き付けられバウンド
宙へ投げ出される
下に潜り込んだカナン
「天まで届け…崩天」
ボオオオ!全身のバネを使ったアッパーカット
凄まじい音を立て真上に飛んでいくレオ
100メートル程飛んでいるのは見える
「おー!飛んだなー!まあ、獣化してるから死なんだろ」
『……今…何が起きたのでしょうか…気付いたらレオ選手が上に飛んで…』
レオが重力に従い落ちてくる
カナンはボーっと見ている
『え?落ちてきますよ?え?ヤバくない?カナン選手?もしかして放置?』
ドオオオン!
レオが墜落
ピクピクと痙攣しているのが見える
歩み寄るカナン
「おー、生きてた!良かった良かった」
失格にならずに済んだなーと、つんつんしながら生存確認。
『『『………』』』
会場中ドン引きだ。
「審判さーん!俺の勝ちだよねー」
『__はっはい!勝者!カナン選手!』
『『『ウオオオオオオオ!』』』『すげえ!』『強すぎだろ!』『獣王族が手も足も出ないなんて!』
会場が熱狂に包まれる。
『カナン選手!見事な勝利です!あの黒い笑顔!慈悲の無い攻撃!恐いです!敵に回したくありません!』
「ラリーさん無茶苦茶だなー」
担架に運ばれるレオをチラ見し、メガネをクイッと上げ、南側の選手席を目指す。
「レオのあの眼は、あのクソ姫と同じ眼だ…本当なら殺したかったが仕方ない。またの機会かな…」
無事カナンは勝ち進んだ。