第一試合
『それでは選手の皆様は移動をお願いします。奇数番号の方は北門の選手席へ、偶数番号の方は南門の選手席へお願いします!』
カナンは4番で南へ。オードは7番なので北へ。
「また後でー。なんかあったら通信してね」
「おー。わかったー」
カナンは通路を進み南側へ。カナンの他にも偶数番号の選手が数人歩く。
「坊主、災難だなー。いきなりワグナスの第2王子に当たるなんて」
「ん?やっぱり王子なんだ。面倒だなー」
「はっはっはっ!カナンだっけか、度胸あるなー!」
「おっちゃんは、ゴイームさんだねー。よろしく」
選手が話し掛けてきた。ユウトと当たるゴイーム・ハンサだ。見た目はスキンヘッドの筋肉ダルマ、タンクトップにズボン、太い腕には無数の傷が見える。お互い緊張した様子もなく話す様子に、他の選手も感心する。
「いや、俺はまだ20代だぞ?おっちゃんには早い」
「俺は12歳だから、俺から見ればゴリゴリマッチョの20代は、おっちゃんだよ」
「ふふふ、カナン君、面白いね」
「どうも。アヴァネさん」
もう一人話に参加。アヴァネ・スター。黒いローブを着た金髪の16歳程の可愛い女性。オードと別ブロックで優勝したという。
予選の枠は、14歳以下は2枠、カナン、ユウト。
15歳~19歳の部門は3枠、オード、ニーナ、アヴァネ。
残り11枠は20歳以上の部門だ。
「オード君と一緒に居たけど友達なの?」
「兄さんだよ」
「へえーそうなんだ!オード君と正直ブロックで当たらなくて良かったなって。話題なの、白炎の魔装を使う天才って」
「その歳で魔装か!カナンの兄ちゃん凄いな!」
「ホントに天才。自慢の兄さんだよ」
「でも第1皇女のニーナもオード君に負けないくらい天才らしいよ」
和やかに会話しながら歩くカナン、ゴイーム、アヴァネ。
やがて南側の選手席へたどり着いた。
「北と南で向かい合う形なんだなー。2回戦はどうなるんだ?」
「そのままだって。初戦は気が立ってるだろうからって配慮らしいけど」
「一々移動するの面倒くせえもんな。」
「闘技台の準備は終わってる様だね」
周りを見ると、東側に実況席。西側に救護エリア。闘技台の周囲に、観客や選手に対応する為だろう、等間隔に並ぶ監視役。
『皆様大変長らくお待たせしました!まずは簡単にルールの説明を、武器、防具は自由。回復魔法士の配置等、充分な配慮はしていますが、万が一殺害してしまった場合は加害者は失格。自身以外の者からのサポート禁止。降参した後の追撃禁止。他の細かい事項は参加者側に説明してあります』
(殺しちゃ駄目ならアイと紅羽は出なくて正解だったな)
『そして、今回優勝賞品は!』
(何かなー)
『約200年前、ある魔法使いが作成に成功した…エリクサー!どんな傷も癒し、万病にも効くと言われるお伽噺話の七色に輝くポーション!それを1本贈呈致します!』
『『『おおおおおおおお!』』』『エリクサー!』『伝説の!』『欲しい!』
「……うわ…持ってるし…」
「エリクサー…売ったら幾らになるかな…」
「本物…だよな…存在していたなんて…」
『それともう1つ!』
「…おっ?」
『迷宮深部で稀に発掘出来る希少鉱石!』
「おー!」『おおおおおおおお!』
『アダマント・クリスタルを贈呈します!』
「アダマント・クリスタルって……確か金剛魔石?」
「昔はそんな名前だったか?あー、あれだろ?魔力を込めれば込めるほど硬くなる鉱石。加工出来る人間はもう居ないって話だけど…良く知ってんな」
「あー…展示会でねー(忘れてたなー…金剛魔石があればアイの武器作れるかも)」
『アキ、アレがあれば武器壊れない?』
(アレだけじゃ駄目かな。ダイヤモンドと組み合わせればいけるかも)
『応援してる!』
(ありがとな)
ルールと賞品紹介が終わり、出場者の点呼の後、第1試合が始まる。
『第1試合!ブロス選手対ハワード選手』
北側からブロス、南側からずっと黙っていたハワードが闘技台の中心に向かう。両者共に最初の試合、観客の期待や重圧に呑まれそうな雰囲気。
「さて、オータム流師範とやらはどんなもんかねー」
「ハワードは強いぞ、修羅場を潜ってきた目付きだ」
「私も緊張してきたー。参加賞金の光金貨貰えるから、あっさり負けようかなー」
「勝ち進めば、光金貨上乗せだって」
「私がんばる!」
調子良いなーと、初めて会った人とすぐ仲良くなれるアヴァネを羨ましく思いつつ、対峙する二人を見る。ブロスは黒い皮鎧に長剣を右手に持ち、上段に構えている。ハワードは銀糸の服に両手剣を持ち、剣先を下にして構えている。
『開始!』『『『ワアアアアァァァァ!!』』』
両者速攻
「剛斬撃!」「剛流斬!」ガンッ!
ブロスの鋭い振り下ろしをハワードが振り上げで受ける
ハワードが手首の力をフッと抜き
「流走り!」
剣を脇に挟む程に密着させ駆け抜ける
ザシュッ「ぐあっ!」
ブロスの脇腹を斬る事に成功
「ぐっ…」
しかしすれ違ったハワードがよろめく
脚が斬られていた
―――
「上手いねー。ブロスさん。暗器かー」
「え?俺全然見えなかったんだけど」
「腰にナイフ隠してるよ。左手で素早く斬る感じ。対人特化の冒険者だねアレは」
「私も見えなかった。カナン君凄いねー」
「良く見る事だねー(前世は暗器持ってるメイドなんて当たり前だったし…何度殺されかけたか…)」
―――
ガンッガンッギンッ
繰り返される斬撃
ブロスが攻める
「クロスラッシュ!」
交差する斬撃を連続で放つ
「風剣!」
ハワードは風の魔法剣を起動
「疾風斬!」
斬撃と共に斬り裂く風が追撃する
ドオオ!
ぶつかり合う斬撃
拮抗
「く…そ…ぐあ!」
脇腹を痛めたブロスが競り負け吹き飛ばされる
ハワードが駆ける
素早く剣を振り下ろしブロスの眼前で剣先を止める。
「…ちっ…参った」
『勝者、ハワード選手!』
『『『ワアアアアァァァァ!!』』』
―――
「ありゃ、早かったな」
「次はカナンだな!頑張れよ!」
「カナン君、骨は拾ってあげるね」
「ははっ、まあ頑張るさ」
『第2試合、レオ・ワグナス選手対カナン選手!』
『『オオオオオオオオ!!』』『ちっこいのがんばれー!』『レオ様ー!』
カナンは軽い調子で二人に挨拶をし、席を立つ。
闘技台に入り、てくてくと中央へ。
対戦相手も出てきた。レオ・ワグナスだ。
身長200センチ、猛獣の様な目付きの鋭いワイルドな印象のイケメン。逆立つ赤い髪、自信の現れた笑み、黒い毛皮の鎧、手には手甲を嵌め、脚にも同じ脚甲、己の身体が武器だと言わんばかりの盛り上がった筋肉。
対するカナンは、150センチ、メガネをかけた眠そうな眼、少し寝癖の付いた肩まで伸びた髪、黒い上下セットアップのジャージ。手には透明なメリケンサック。相手に合わせた格好でやってきた。
「レオさんよろしくー」
「あん?ガキが。一撃で終わらせてやるよ」
「頑張ってねー」
『開始!』
レオが動く、一撃で終わらせる為に
「獅子重撃!」
猛獣の様に駆け、目にも止まらない早さでカナンに腕を振り下ろす
重い一撃、ハンマーパンチ
終わった
誰もがそう思った
パシッ
「はっ?」
『『『…………』』』
しーんと静まり変える場内
「残念、一撃で終わらなかったね」
片手で受け止め
ニヤニヤと嗤うカナンの声が場内に響いた




