邪神と共に消えた魔法使いは夢を見る
よろしくお願いします
光が見える。
ゆらゆら、ゆらゆらと。
ああ、俺は死んだのか。
思い残すことばっかりだな…
声が聞こえる。
なんだ?
身体が思うように動かない。
大きな…人?
みんな大きい。
自分の手を見る。
小さい。
赤ん坊になっているのか?
来世なんて本当にあったんだな。
あれから…どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
知りたいことが沢山だ。
みんな…元気かな。
ああ…今はすごく…眠いや。
_______
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これは…夢か……俺が邪神と戦って死んだ夢。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前には、蠢く百メートルを超す異形の存在。
手、足、身体、頭が別の生物の様に質が違う。
漆黒のローブから覗く、無数の蛇が絡まった様な腕、蹄のある剥き出しの黒い筋繊維の足、胴体に肉は無く肋骨の中心に漆黒の核が見え、深淵覗き込む様な恐怖を孕んだ瞳を持つ骸骨の顔。
邪神…
≪ハカイ…スベテヲ…ムノセカイ……ソシテ…ワレモ……キエヨウ≫
『……邪神』
横に居るおっさんが呟く。
それを聞いていた男は言葉を返す。
「こりゃ勇者達じゃ無理だなー。理から外れてやがる」
「秋、行くのか?」
おっさんの不安そうな声に、男…秋はニカッと笑う。
心配するなという様に、大きく伸びをしながら落ち着いた声色。
「ああ、仕方ないさ。なんかあったらアイツを宜しくな。おっさん」
メガネをかけた黒髪で冴えない顔だが、その顔は自信に満ち溢れている。
勇者達が居る集団から、一人飛び出て走り出した。
『__えっ?アキ?何やってんの!?』
後ろの声を無視し、邪神の元へ到着。
見上げる程の大きな身体。
秋は呑気に怪獣映画の気分に浸る。
「はあー…でけえなぁー」
ため息と共に秋は魔法を発動。
紫色の魔方陣を展開した。
「__絶界」
秋と邪神を覆う透明で巨大な結界が出現。
絶界…それは秋が展開できる最高の結界。
これで秋と邪神の二人だけの空間が出来上がった。
邪魔は入らない。いや、誰も巻き込まなくて済むと言った方が良いのかもしれない。
大魔法を行使したにも関わらず、心底けだるそうな顔で秋は呟く。
「そいじゃ、ラスボス戦やってみますかー」
『アキ!入れない!どうして!勇者!なんとかしてよ!』
女性が何か叫んでいる。
絶界をダンダン叩き、勇者に向かって叫んでいるが、勇者は動かない。
強固過ぎる結界に、手から血を流しながらも叩き続けている。
秋はそれをチラリと見ながら魔法を発動。
巨大な魔方陣を複数展開する。
赤、青、黄、緑色の魔方陣。
最初に赤色の魔方陣が輝いた。
「__ブレイジング・サン!」
巨大な蒼い小太陽の魔法が出来上がる。
ジリジリと周りの温度を上げながら邪神へ放つ。
ボオォォォ!__
直撃し、邪神が蒼い炎に包まれる。
大地が熔けグツグツとマグマの様に沸騰している。
しかし、そんな規模の魔法でも、邪神の身体を少し焦がした程度だった。
「効かないかー」
秋は、ははっと笑い、青色の魔方陣を輝かせる。
「__ブリザード・ストライク!」
ヒョォォォ!__
凍てつく吹雪を邪神に叩き付ける。
気温が急激に下がり、全てが凍っていく。
辺り一面が白銀に染まり、
邪神も所々凍っているが…動きは鈍っていない
「これも効かないかー」
これならどうだと、黄色の魔方陣が輝かせ…
「__ガトリング・メテオ!」
巨大な隕石群が出現。
回転を加えながら邪神を貫いていく。
穴が空きダメージを与えたように見えたが…次々と再生、修復していく。
「再生能力…まじかー。効いたと思ったんだけど…ん?」
『くそっ…壊せない…どうして一人で……』
キラキラとした装飾を施した鎧を纏う青年が、絶界に攻撃を加えるが、ビクともしていなかった。
絶界は、秋が自画自賛する最高傑作。
秋の足元にも及ばない強さの勇者が、壊せる筈も無かった。
「そうだよなぁ、勇者の言う通り。なーに1人で頑張ってんだよ俺ってば……逃げれば良かったのに」
秋は邪神に視線を移し、ははっと苦笑する。
攻撃の手を緩める訳にはいかないと、緑色の魔方陣を輝かせた。
「__ハイ・プレッシャー!」
空気の圧が変化。
気圧で圧殺を試みる。
魔力を込めて邪神を押し潰そうとするが…
やはりびくともしない。
「やっぱり駄目かぁー…こうなりゃ…あっ!…絶界使ってるから時空魔法使えねーじゃん」
【どうして戦う? 魔法があるから? ちがう】
≪ムダ…ダ…ヒトゴトキガ≫
邪神の邪気が増大。
闘えば闘う程に、力を増している。
少し遠い目の秋は、こりゃまた面倒な能力をお持ちで…と一人ぼやく。
「流石だなー、邪神……あー…また強くなったし」
【平和のため? ちがう】
【守りたかった? …そうだな】
【何を?何処を? …いや、理由なんてどうでもいい】
【美人の前じゃ格好付けたくなる…それでいいじゃないか】
【正直世界なんて…どうでもいい】
【邪神を見た瞬間…自分にしか倒せないと悟ってしまった】
「最高に格好付けるなら…お前を倒してやるしかねえよな!」
【本当にバカだよな…一番の美人さんは勇者と結ばれるってのに】
「まだ死にたくなかったんだけどなー」
秋が懐から取り出すドーピング薬。
世界樹の根と精霊樹の根を混ぜた粉末。
それを口に含み、デットリーポーションで流し込んだ。
『__っだめだ!だめだよ!アキ!それは人間が飲んではいけない!』
≪ヒトヲ…コエルカ≫
「ははっ、知っているさ…精霊水で安定させる前の濃縮された英雄の薬は劇薬だ…だから飲むんだよ」
秋の理論上では、濃縮された英雄の薬は…三十秒だけ力が得られる。
それを越えると、人の身体を保てない…
秋の実力だと三十秒では神位魔方陣は描けないから、この方法が秋の最善だった。
「でも、見つけちまったんだよなー。その三十秒を引き延ばす魔法を」
秋は白銀の巨大な魔方陣を展開。
魔力を流し込んで行くが、英雄の薬が効いてきた。
時間が無い。
「…くっ……こ…れは…きつい…な」
血が沸騰しそうな程に、熱い身体。
秋の表情に焦りが見える。
(…やばっ)
魔方陣が回転していく。
「お…れは!まだ!死ねない!___っ!」
パァン!__
左手が弾け飛んだ。
ドバドバと血が流れる。
『__アキ!』
パァン!__
左肩までも弾け飛んだ。
秋の意識が朦朧としてくる。
(あと…少し…)
薬の副作用で身体が耐えきれない。
死が目の前に来ていた。
(もう…後戻りは出来ない……き…た…)
魔方陣が白銀に染まり、強い輝きを放つ。
魔法が完成した。
「…エターナル…リヴァイブ」
白銀に輝く光に包まれ、
秋の身体が逆再生されるように元に戻る。
右足が消し飛んだが、直ぐに再生。
元に戻る。
腹に穴が開くが、直ぐに再生。
元に戻る。
エターナル・リヴァイブ…再生の禁術。
魔力が尽きるまで、死なない魔法。
薬の副作用と再生の禁術…繰り返される身体の崩壊と再生。
「ぐっ…あ……痛みはそのまま…か」
痛みに耐えながら、巨大な球体…立体魔方陣を展開。
「だい…じょうぶだ…これなら…命を…かければ……1分で…完成する」
巨大な立体魔方陣が回転していく。
秋の最後の力を込めた魔法は、徐々に色が変化していく。
『どうして…アキを止めてよ…お願いだよ……なんでみんなそこで立ってるだけなんだよ!』
「この戦いが終わったら、したい事…沢山あったのにな…」
ダンダン!と絶界を叩く音は響き続けていた。
秋は思い出す様に空を見上げ、後ろに顔を向ける。
「聖女、聖騎士、おっさん、護衛の姉ちゃん……あと勇者」
笑いながら、秋は両手を上に向け…魔力を解放。
「ははっ、みんな悪いな…格好良いところ独り占めして」
魔方陣から淡い光が漏れだしていく。
その時、漆黒の立体魔方陣が出現した。
邪神が魔法を発動していた。
≪アガキハオワリダ…
__ダークネス・フォース・ジ・アビス≫
深淵からの闇が襲ってくる。
黒く…そして力強く禍禍しい力。
超範囲に渡る闇の攻撃。
絶界がギシギシと揺れている。
「うわっ…これやばっ__来たぁ!」
秋の立体魔方陣の光が点滅…
「_間に合え!」
立体魔方陣が七色に輝き出した。
とても大きな暖かな光が溢れ出す。
七色に光輝く巨大な立体魔方陣。
全ての魔力、体力、命までも使う未完の神位魔法。
「はっはっはー!道連れだ、邪神!」
こんな格好良い最期…中々経験出来ない。
秋は心の底から笑っていた。
「__ジ・エンド!」
七色の暖かい光は、秋と邪神を呑み込んだ。
≪ウガアアアァァァァァアア≫
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あーあ…
もう1度見たかったな…
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