ウォルター
「あの少女を譲っていただきたい。」
ジャラジャラと嫌らしい音を立てて、ドンッと置かれた布袋。夜更けのホールは静まり返り、薄暗く、俺とウォルターの二人だけ。布袋を置く音は、とても大きく重苦しく響き渡った。
「え……あの?」
「金貨で100枚入っております。」
金貨で100枚と言えば、日本円にして1億円相当。決して安い金額ではない。
「いやいやいや、ちょっと、ちょっと待ってくださいよ。どういう事ですか!?」
「ふむ、足りませんかな?」
ドンッと新しい布袋が置かれる。先ほどのものよりもでかい。
「金貨400枚が入っております。合わせて500枚。いかがか?」
500枚……5億円。俺の手持ちよりも多い金額である。
これはおかしい、明らかにおかしい。アリスの価値なんて、世間的に言えばただの奴隷である。絶対になにかがおかしい。いや、そもそも金額の問題なんかじゃない。俺がさっきあの少女に言ったことを思い出せ。あの笑顔を思い出せば譲れるはずもない。
「いや、金額の多寡がどうという事じゃないでしょう。これはいったいどういうつもりですか!?」
「ふむ……。」
ドンッと更なる布袋が置かれた。先ほどのものよりも大幅にでかい……。
「追加で金貨1500枚、合わせて2000枚でございます。」
20億円相当!? 冷汗が噴き出す。目の前で起きていることが分からない。それこそ悪い夢なんじゃないかと思う程に。金貨100枚があっという間に2000枚!? どんな交渉だよ。怖い、怖すぎる!
受け取らなかったら、殺されちゃうのだろうか。いやいや、逆に受け取っても殺されちゃうんじゃないだろうか?
いや、そうじゃない!
どっちを選べば生き残れるという問題じゃない。コイツは、「アリスを売れ」と言っているのだ。考えてみれば、とても失礼な事を言われている。ならば、俺の返答は考えるまでもない。
「ふざけないでください! そういう問題じゃないでしょう!! こんな事、彼女に対して失礼だと思わないんですか? いったいぜんたい何のまねですか!」
ドンッと机を叩いて怒鳴る。金貨の革袋なんかよりも、一層強く派手に鳴り響いた。ウォルターは、少し驚いた様子で静かに目を細めた。いったいなんだというのか。
「……彼女をどうなさるおつもりか?」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。」
「貴方には関係の無い事です。彼女を渡すつもりはありません。」
「ふむ……」
パンッ!!
視界が飛んだ。
ガラガラガッシャーーーン!!
激痛が駆け巡り、物が壊れる音が響く。
「あっ、うぐっ、はあっ…………!?」
視界がちかちかする。
見れば、俺の身体は先ほど座っていた場所から、遠く離れた場所にあり、ウォルターは座ったたまま。手を振りぬいた状態が見えた事で殴られたのだと自覚する。ウォルターはゆっくりと起き上がり、こちらへと向き直った。
コツコツと、革靴が乾いた音を立てて近づいてくる。黒い装束に身を包む白髪の男。死神みたいなやつだ。モノクロで色が無いようでいて、赤く燃えるような瞳だけが色をともす。俺はよろよろと立ち上がり、身構える。
「お分かりいただけたと思いますが、手段を選ぶつもりはありません。私としては金貨を受け取って引き下がる事をお勧めします。2000枚の金貨があれば、好きな様に生きて行けましょう。」
思わず苦笑が漏れる。
守ると言ったその日に、最強の魔王みたいなやつと相対するなんて、めちゃくちゃだ。荒唐無稽すぎて、笑いがこみあげてくる。相手は伝説、レベル1の勇者が魔王に挑むようなものだ。もしレベル1の勇者がいるならば聞いてやりたい。お前はレベル1でも魔王に挑むのかって。
いや、その前に俺だな……俺は、挑むのか……。俺は……
「バカにするな―――――――-!!?」
グンッと身体が宙を飛んだ。ウォルターが眼下にいて、広いホールを真上から見下ろしている。それがある一点から急激に地面に引き寄せられて――――-
「ぐはっ―――。」
痛い! 息が吸えない! 視界が赤い!!
激しい嘔吐感に見舞われて、ぐるぐると地面を転げまわる。内臓がひっくり返るような地獄の様な痛みが全身を支配する。口からは血とか胃液とか、もうなんだかよく分からないものが溢れていた。
「痛いでしょう。言葉はいりません、首を縦に振ってください。それで終わります。さあ。」
淡々とした口調が頭上からふりそそぐ。
首を縦に振ればいいのか……いや、振ったらどうなるんだ。痛いのが終わるのか。
いや、そうじゃない、そうじゃないだろう。今痛いのはなんでだ、どうして痛いんだ!? どうして痛いのに、首を縦に振らないんだ!?
「がああああああああああああーーーっ!!」
ウォルターに掴みかかった。左手でウォルターの顔を抑え付け、右手に拳を握り、力の限りに殴りつける。拳は寸分たがわずにウォルターの顔面を捉えた。だが……手に残るのは、硬い鉄でも殴ったかのような感触。それは俺の拳を受けても微動だにする事は無かった。
「理解できませんな。知り合ったばかりの少女でしょうに。どのような義理があるというのですか。」
「はぁ……はぁ……うっ、うおえっ……、やくそく……したから、守るって……。」
「……ふむ。」
胸倉をつかまれ、投げ飛ばされた。
身体はすんなりと重力に反して、空を飛び、再び重力につかまって地に落ちる。客室に繋がる階段の上に叩きつけられて、痛みと血が噴き出す。圧倒的な痛みに飲まれて、意識が段々と遠くなる。
俺はもはや潰れたカエルのごとく、階段でぐったりと仰向けになっていた。もう反撃どころじゃない、意識を手放さないようにするだけで精いっぱいだ。うつろな意識でウォルターの姿を追っていた。
まっすぐこちらに向かってくるかと思ったが、ウォルターはカウンターへと向かっていく。正面からカウンターの奥に手を伸ばし、一振りの剣をとりだした。たぶん、逸話に出てきた銀の剣ってやつだろうか。それをそのまま抜き放ち、鞘をカウンターに置いた。ウォルターは、俺へと向き直り、抜身の剣を片手に俺へとゆっくり歩きだす。
……響く革靴の音、確かな死神の足音。
くっそ……だせえ。身体張って、命張って、こんなものなのかと思うと悔しくて涙が出る。これじゃあ、ただの犬死だ。守りたいものを守れずにただ死ぬだけ。
そもそも、なんだって剣なんて持ち出すのか。
あれだけの馬鹿力なんだ。素手でちょいと首の骨を折ったら良いじゃないか。金なんか積まずに、問答無用で殴って殺して、奪えば良いじゃないか。ああ、何だってこんな回りくどい……くそくそくそっ!!
「これが最後ですな。少女を譲るのであれば、何か意思表示を。」
目の前で高く掲げられた剣。そのまま前に倒すだけで、俺を両断するだろう。これが、これが本当に最後か……。
きっと、少女はこんな感じの日々を繰り返してきたのだろう。そう思うと熱い。痛みじゃない何かが熱くこみあげてくる。せめて、最後までこいつを睨みつけてやる。少女の不幸を想って、せいぜい呪ってやる! ついでに、ままならぬ俺の人生を、世の不条理に対する怒りも込めてやろう。俺の分は八つ当たりだ、くそったれ!
「ああああああああああああああああああああっ!!!」
背後で張り裂けるような叫び声がした。振り返る力も残っていなかったが、すぐに分かった。アリスだ。俺の真上を通り越して、華奢な身体が空を駆けた。その細い足の先が、ウォルターの顔面を捉えて吹き飛ばした―――――-と、思ったが、実際にはウォルターは数歩後ずさりした程度だった。
「わああああっ――-!」
そのまま、アリスは俺にしがみついた。ウォルターからかばう様にしがみついて泣いた。せっかく、泣き止んだと言うのに……。
不甲斐なくて、悲しくて、悔しい。俺はままならない身体に精一杯の力を込めて、アリスを抱きしめた。もうこんな程度の事しかしてやれない。
ウォルターはその場に立ち尽くしていた。手に持った剣はだらりと下げられて、先端が地面を這う。それ以上、攻撃を加えるような素振りは見せない。どうにもこの男が何を考えているのか、分からない。ただ、今、この男の顔に広がっているのは、困惑の表情だった。
「参りましたな……。カイト様、私の負けでございます。」
ウォルターは静かにそう言うと、剣を手放した。カランッと軽い音を立てて、剣の柄も地面に落ちる。いきなり殺そうとしてきて、いきなりの敗北宣言。もう全く意味が分からない。あまりにもあっけない幕引き。茶番劇。激しい痛みとアリスの涙だけが、現実感を伴っていた。
「アリス様、カイト様を治療いたしますので。」
「いやああっ! 触らないで!!」
「いや、しかしですな……。」
「触るなっ! 触るな――――-っ!!」
何度もパシンッと手を弾かれるウォルター。滑稽な姿だが、治療しないとたぶん俺は死ぬ。正直、そろそろ天に召されそうな実感すらある。
「アリス……、だいじょ……ぶだから。」
俺の言葉で、アリスは不承不承ながらもと言った感じで、ウォルターが俺に触れる事を了承。傷と痛みは瞬く間に消えていった。心の痛みとボロボロの服は残ったが……。
「兄さま、死んじゃうかと思った……よかった、よかったよぉ。」
アリスは本当に傷が治ったのか、服を剥いで確認しようとしてくる。お婿に行けなくなっちゃうんでやめていただきたい。傷が無いのを一通り確認すると、「よかった、よかった。」とまた泣いた。
「さて、理由を聞かせてもらえますね?」
「……兄さまですと……。」
「聞かせてもらえますね!!」
「あ、いや……これは失礼。申し訳ない事をしてしまいました。もちろんでございます。」
『兄さま』の単語に反応されると恥ずかしい。ともかく、事情は聞かせてもらわなければ納得できない。死ぬほど怖かったし、痛かった。それにアリスにも要らぬ心配をかけて、泣かせてしまった。それから、服も絶対弁償させよう。
散らかったホールはそのままに、奥のVIP用のソファに座りなおした。奥に俺とアリス、その対面にウォルター。アリスは俺の膝の上に座っている。一応言っておくが、このポジションはアリスの希望である。
「皇魔族というものは、御存じでしょうか?」
ウォルターは、「本当に申し訳ありませんでした。」と口火を切ると、続けてそう問いかけてきた。
「こうまぞく……?」
「ご存じありませんか。皇魔族というのは、魔族の上位に位置する種族です。様々な種類の魔族の中でも、とりわけ身体能力、魔力ともに高い。皇と言うのは王という意味で、要約すると魔族の王という意味でございます。」
「なるほど、それで?」
「アリス様は皇魔族です。」
「……え?」
「わたし……?」
「そして、私の母も皇魔族でございます。」
「「ええええええ!?」」
いきなりのカミングアウトに度肝を抜かれ、ウォルターの話は続く。
長い重苦しい話、それらを頭の中で反芻しながら受け止める。アリスも静かに話を聞いた。どれくらいの事を理解しているかは分からないが、真剣なまなざしで聞いていた。
話を要約する。
皇魔族は非常に珍しい種族である。
高い身体能力、膨大な魔力量をほこり。とりわけ、魔力は重宝され、様々な軍需産業に利用されている。国家規模の大掛かりの魔道兵器には皇魔族の魔力が利用されていることが多い。こうした経緯から、皇魔族は狙われ、捕らえられて、自由に生きる事ができない。
「皇魔族に親はいない。」この発言にも驚かされた。
ウォルターの話によると、皇魔族は魔力の歪みから生まれるという。魔力濃度の濃い場所に、まるで自然現象のように現出するというのだ。
魔力濃度の濃い場所というのは、人里離れた山奥だったりダンジョンだったりと非常に危険な場所が多く、その中でも皇魔族が生まれる程の場所には危険な魔物が集う。そこに幼年の姿で放り出される。生まれたての皇魔族は人族とさして違いは無く、多くの皇魔族は生まれると同時に死んでいく。
ちなみに、ウォルターの見立てではアリスは生まれたてに近く。まだ最初の誕生日すら迎えていない可能性があるとの事だ。全く……立て続けに驚かされる。
そして、誕生の難を逃れた皇魔族は、今度は人間に追い回される運命が待っている。捕まえられて、売られて、実験に消費されて……と地獄の様な人生。「貴重な種族なら大事にされるのでは?」という俺の疑問にウォルターは、青筋を浮かべて「皇魔族の魔力を効率的に運用するのは、心臓を取り出す事です。」と述べた。
皇魔族の心臓は死後、結晶化し際限なく魔力を生み出し続ける宝石になるのだという。……返す言葉が無かった。歯切れ悪く渋るウォルターに強引に聞き出したのは、失敗だった。アリスに聞かせて良い話ではない。
「……ここまでが、皇魔族についての説明でございます。
次は、母のお話しをいたしましょう。」
ウォルターの母は皇魔族。
ウォルターは皇魔族と龍人族のハーフだという。魔力から生まれた皇魔族でも人らしく、人としての一生を全うすることが出来ると話すウォルターの表情は先ほどまでとは打って変わって優しげだ。
皇魔族の母は名をリエスタという。
良心的な龍人族のランドルフに偶然拾われて、生き永らえた。このランドルフこそがウォルターの父である。厳格で正義感の強い人物のランドルフ。その人格に当てられてリエスタも呼応していく。ランドルフとリエスタは次第に惹かれあい、結婚した。
二人が心血を注いだのは、皇魔族の保護。
生まれては死んでいく皇魔族。捕らわれては死んでいく皇魔族。それらを保護して、大人になるまで面倒を見てやることにしたのだ。
だが、二人の保護活動は難航した。
理由は大きく二つ。一つは、皇魔族が非常に珍しい種族であり、見つけ出すことが難しい事。まず、魔力溜まりを見つける事から始まるが、それがまた難しいのだという。
魔力が恒常的に濃い場所は存在するが、そうした場所では皇魔族が生まれてくる事は無い。一時的に突風のように発生した魔力の渦にこそ、皇魔族が生まれてくるという。これが、難易度を引き上げる。
そして、皇魔族は自ら名乗り出てはこないという事。生まれ落ちる皇魔族にとって、世の中は敵そのもの。相手に姿をさらすという事は、死を意味することになる。
もう一つは、皇魔族を欲する者は多く、敵が多いという事。敵は冒険者、ハンター、研究者、貴族、果ては国と言った広範囲に及ぶ。金の為に皇魔族を追い求める者。探求心の為に、国力の為に、自己顕示欲の為に、理由は違えどこぞって皇魔族を追い回す。皇魔族を保護するという事は、これらの人種と争う事を意味する。
結果として、保護できた皇魔族は独りもいないと言う残酷な事実が出来上がった。
皇魔族を見つける機会は何度かあったが、皮肉な事に全て殺された後のものだったという。魔力濃度の高い場所には凶暴な魔物が生息する……そういう事である。
そして、更に皮肉な事に、全てを皇魔族保護に費やしていた為に、深刻な資金不足に陥っており、あろう事か見つけた皇魔族の魔石を売却し、活動を続けたという。つまりは……心臓を売却したということ。もちろん、苦渋の決断である。死んだ者の命を、生きている者のために使おうという決断。
最終的に二人は、活動の最中に命を落とした。
保護活動の快く思わない者たちによって、総攻撃を受けて志半ばに倒れた。龍人族と皇魔族のコンビは相当に強力で敵なしとまで思われるほどの強さを誇ったが、敵対勢力を増やし過ぎた事、幼かったウォルターを人質にとられた事でついには敗北したのだ。
命からがらに逃げ出したウォルターは親の財産で『金竜の都亭』を開業。
それからは知られている逸話の通りに、助けを求める人々を守りながら今日まで生きてきた。ウォルターにとって守るという事は、贖罪なのだという。両親を死なせてしまった事への、両親が生きていれば助けられるはずだった皇魔族への。
「そうして今日まで生き永らえてまいりました。父と母の無念を晴らしたくも、力及ばぬ己を不甲斐なく思いながら……。」
ウォルターの無念は深い。言葉と表情からにじみ出るそれは迫真だった。落とした視線をゆっくりとあげてこちらを見る。視線が少し低い、俺ではなくアリスを見ているのだろう。
「何の因果でしょうか……私の代で、皇魔族の少女と出会うことが出来ました。まさに……、まさに、運命だと思いました。」
そう言って、ウォルターは黙った。
俺にやらかした事の理由も、何となくは分かった。俺からアリスを買い取って、保護しようとした。方法は乱暴だが、心根は誠実そのもの。誠実であり、不器用である事て、現状がある。もっとずるく、あるいは強引にやれば事は成っただろうに。
だが、どうにもやりきれない気持ちが残る。俺は振り上げた拳を、この無念をどうしたら良いのやら。このままじゃ、ただの殴られ損だ。ちょっとくらいは、うさを晴らしたい。
「あーあー……、まあ事情は大体わかりました。けど、あんなにボコボコにする必要あったんですかね?」
「え、あ、いや……申し訳ありません。ち、誓って言いますが、殺すつもりは無かったのです!」
アリスの目がきらりと光って、鋭くなる。先ほどの情景を思い出したのか、ウォルターへの敵意がわっと立ち昇った。
「でしょうね。だからこそですよ。一歩間違えたら、死んでいたんじゃないですかね?」
ウォルターは殺そうと思えば、簡単に殺せたのは事実だ。たぶん、最初の一撃で即死させられるくらいの力は容易に持ち合わせている。にもかかわらず、俺は何度も殴られて、最後には剣まで持ち出してきた。
「正直、簡単に済むと思っておりました。
あまり裕福には見えませんでしたので、お金を支払えばと……ですが、カイト様は一向に首を縦に振らず、勢いで手を挙げてしまいました。そこから先は、どうして良いのか分からず……困り果てておりました。」
「困ったから、とりあえず殴り続けたと……。」
「……強情でございました故。」
「はあ!?」
「申し訳ない!!」
こいつ、本当に反省しているのだろうか。なんだか本当に腹立ってきた。
「見てくださいよ、この服。ボロボロッのビリビリッですよ。いやー、痛かったな! 本当に死ぬかと思いましたよ。あー? なんでしたっけ、俺が強情だから悪いんでしたっけー!?」
「本当に、本当に申し訳ない!!」
「口でばっかり謝ってもらってもねー? 誠意ってやつを見せてもらわんとね。ほら、服。ほら見てよ、ボッロボロ!!」
「も、もちろん弁償させていただきます。」
「それで終わり? あれだけボコボコの半殺しにしておいて?」
ドンッ!!
目の前で机が爆ぜるような凄まじい音がした。
「兄さま! こいつ殺す!!」
ものすごい形相のアリスが机に片足を叩きつけて、身を乗り出していた。あまりの勢いにウォルターでさえ怯えた顔で固まっている。正直、俺も怖かった。
「…………あ、いや、そ、そこまでじゃないかな……ハハハハ。」
この話はここまでにしておこう。アリスの教育上よろしくない。何より、これ以上続けるとアリスが本当にウォルターを殺そうとしかねない。
こうして、長い一日がようやく終わった。
俺とアリスは、散らかったホールをそのままにして寝室に戻った。ウォルターはへなへなと力なく座ったまま、動く気配は無かった。色々と打ちのめされたような様子だったが、とどめを刺したのは間違いなくアリスの鬼の形相だろう。
明日は冒険者ギルドに行こう。
冒険者ギルドに行って、冒険者登録をする。これからこの世界で生きて行く為に必要な事。ファンタンジーの中枢ともいえる冒険者ギルド……楽しみだ。
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