表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界☆幼女ライフ!  作者: ニノ
2/9

出会い

思いっきり豪遊した。

立ち並ぶ露天を蹂躙するかのように、好きなものを好きなだけ食い漁る。串焼き、ハンバーガー、タコス、フルーツなどなど、味は若干違うものの日本でも見かけるものが多い。美味いかと言われれば、不味くは無いと答えるのが正解か。素材の味が強くて、日本のジャンクフード的なパンチの利いた味ではない。


ちなみに、もちろんカエルの串焼きだけは買っていない。あれは人の食べ物だとは思えないし、冷たい態度を豹変させた店主も気に入らなかった。


考えなしに買い食いしたせいで、あっという間にお腹はいっぱいになってしまった。食べきれないものは、包んでカゴに入れて持ち運んでいる。冷めたものを食べる気はしないが、どうにも捨てるのがもったいないと言う貧乏根性。大金があってもそれは無くならないらしい。


それにしても、お金があると周囲の人が良い人になる。

金払いの良い俺に悪態をつく者は皆無。ニコニコと朗らかに接してくれる。まったく現金なものである。


しかし、これって逆に考えると怖い。誰が良い人で、誰が悪い人なのか分からなくなる。金の切れ目が縁の切れ目って言葉があるけれど、金が無くならないと誰が良い人なのか分からない世界だ。


とまあ、そんな感じで楽しく散策。ついでに情報収集。

色んな人にそれとなく聞いて回ったところ。ここはアルトグレン王国のイルトリスという街で、港のある貿易都市なのだとか。特産品は主に海産物、それに準じた加工品。食べ物が多いけれど、魚の素材を利用した雑貨や衣類もあるのだとか。


それから、冒険者ギルドと言うものが存在するらしい。

ゲームやラノベの基本ともいえる存在のギルドである。冒険者ギルドでは、依頼を出したり受けたりする事ができ、非常に重宝しているのだとか。例えば、露店の店番なんて依頼もあるらしく、ギルドから依頼を受けて派遣されてきた店番の人もいた。


当然、王道ともいえる魔物退治も存在する。剣や魔法で魔物を退治してお金をもらう。そんな事が実際に行われているのかと思うと、胸が躍る。そのまんまゲームじゃん。ちょっとだけ冒険者になってみたい気持ちもあるが、危険な仕事らしいので余裕があるなら好き好んでやる必要は無さそうだ。


ただ、ギルド登録だけはしておこうと思う。

依頼を受けるのは当然として、依頼を出す場合にも冒険者登録が必要との事。今後、依頼を出す可能性はありそうなので登録はしておいた方が良いだろう。それにギルドで発行されるギルドカードは身分証明に使えるのだとか。ほとんどの国で有効らしいので、逆に登録しない理由が無い。


ふと、周囲を見渡してみると随分と寂れたところまで来てしまった。

露店も途切れており、両側には朽ちかけた建物が立ち並ぶだけ。看板が掲げられているが、薄汚れていて読めない。何の店か分からないし、今も営業しているのかも怪しい。


後ろを振り返れば、少し先には露店の賑わいが見える。

まるで何かの境界線があるかのように、ぱったりとこちら側にやってくる人はいない。少し不気味な感じがする。


「おい!」


怒声が聞こえた。

自分が呼ばれたのかと思って、周囲をきょろきょろと見回すが近くに人は見当たらない。更に注意深く探すと、メインストリートの脇にある小道から走ってくる人影が見える。少女と大人の男が二人。痩せた男と太った男のあべこべな組み合わせ。


あまり穏やかな雰囲気には見えない。

必死の形相で逃げて走る少女を、追いかける凶悪そうな男たち。少女は、ボロボロの貧しい服をまとい、息も絶え絶えに走っている。埃っぽいような銀色の髪はクシャクシャで、お世辞にも綺麗とは言えない。大して、男たちは普通の身なりをしている。


危険な香りがする。これは絶対に関わらずに逃げたほうが良い。

奴隷商人とか、人さらいとか、そういう真っ当ではないジャンルの人間たちなのは間違いないだろう。そう言えば、この街にはスラム街なんてものがあるとも聞いた。もしかしたら、もうその一角に足を踏み入れてしまっているのかもしれない。早急に露店のあたりまで引き返した方が良いだろう。


―――が、遅かった。

逃げようと決めた時には既に少女は目の前まで来ていた。しかも、俺の前で派手に転び、あろう事か俺の足を掴みやがった。溺れる者は藁をもつかむとかって言葉があるが、俺の足を掴むのはやめて欲しい。マジで。


「クハハハ、おら、つかまえたぜ!」


ワンテンポ遅れて、細い方の男が少女を地面に押し付けるようにして取り押さえた。それに少し遅れて太った男が追い付いた。少女は俺の足を掴んだままである。


「くそっ、このガキが! 走らせやがって。」

「うっ…………」


太った男は息を切らしながら、少女の腹に蹴りを入れた。

少女は悶絶し、地面をのたうち、呼吸困難にあえぐ。大の大人が、小学生の低学年くらいの子供を思いっきり蹴る姿は衝撃だった。見れば少女は体中にたくさんの痣や傷があった。銀髪に白い肌、きっと普通に育てられていれば綺麗なものだと感心しただろう。だが、今は少女の白さが痣や傷を生々しく見せている。


「兄貴は運動が嫌いっすからね。」

「ああ、疲れちまったぜ、こいつのせいでよ。ったく……。」


太った男はそう言うと、また少女を蹴りつけた。少女が更に苦悶する。男は薄ら笑いを浮かべながら、なおも蹴ろうとする。このままでは少女は殺されてしまうんじゃないだろうか……。


「あ、あの……。」


男の足が、地面へスッと降りて、二人の男の視線が俺へと注がれる。正面から目を合わせると背筋がひやりと汗をかく。


「なんだぁ、おまえは?」


「いや、あの、それ以上やったら、死んじゃいそうですが……。」


「だから、なんだ?」


「え、だからって言われちゃうと困るんですが、弱い物いじめは良く無いなーって……。」


男は目を丸くして固まった。

俺は何を言ってるんだ……。どう考えたって、そんな話が通じるような相手ではないし、そういう世界でもないような気がする。正直、今すぐ逃げ出したい……。


「ウハハハハハハッ!!」

「ヒーヒヒヒヒッヒッ!」


「……ははは。」


盛大に笑われて、俺も乾いた笑いが漏れたが―――


パシッ!


「ぐはっ!」


男の拳が、頬にめり込んで尻もちをつく。

頬がヒリヒリと痛み、口の中からは血の味がする。現実感の無い状況で、痛みだけが確かさを伝えてくる。


「おい、兄ちゃんよー。寝言は寝て言えよ。さっさと帰ってクソして寝な。」

「そっすよ、兄貴をマジで怒らせない方が身の為だぜ。」


どうやら、見逃してくれるらしい……。

だが、足元の少女の手は絡みついたまま、今も悶えながらも放そうとはしない。何だか執念が感じられて怖かった。振りほどく事ができず、逃げ出せない。


太った男は少女の顔を足で踏みつけた。

もはや俺のことなど眼中にないと言わんばかりの態度で、少女を攻撃する。見ていてあまりに不愉快な光景であるが、痛みが俺を自制する。


「ふん、俺を疲れさせた罰だ。おまえは見せしめにしてやるよ。逃げるとどうなるかって、他の奴らにもよーく思い知らせてやってくれよな。」


薄汚れた革靴の下で、涙を流す少女の顔が見えた。

地面に這いつくばり、踏みつけられ、泥にまみれ、痛みに耐えて、目じりから涙を滲ませる。少女の痛みは俺なんかよりも、ずっと凄まじいに違いない。俺は軽く殴られただけだが、少女は思いっきり蹴られて踏まれている。しかもまだ小さな子供だ。


俺がこのまま何もしなければ……きっと。

男がもう一度蹴ったとき、少女の手が俺から離れた……。コトッと細い腕が、力なく地面に落ちる。


「うああああああああああ―――――-っ!!!」


勢い任せに男の顔面目掛けて、拳を打ち付けた。


「うぐぉあ……。」


不意をついた一撃は綺麗に鼻っ柱を捉えて男を薙ぎ払った。

そのまま顔を抑えて悶える男の腹に蹴りこみ、少女と同じ目に合わせてやる。何かが吹っ切れていた。こうなりゃとことんまでやってやる。


「おまえら、情けないとは思わないのか! こんな小さな子供を寄ってたかって!!」


「て、てめえ、兄貴になんてことを!!」


痩せ男は胸元からナイフを取り出した。光物が出て、一瞬動揺してしまう。何となく予想はしていたけれど、いざそうなるとやはり怖い。しかし、それを隙とみたのか、痩せ男は躊躇なく突進してくる。


「うらああああーーー、あっ!?」


怖がって後ろに飛びのくと、少女は痩せ男の足を掴んだ。いきなり足を掴まれた痩せ男は、目の前で盛大に地面に倒れこんだ。


「ぐべっ!」


今しかない!

蹴って、蹴って、蹴りまくった。ナイフを持っている手も思いっきり蹴って、凶器を遠ざけて、とにかく蹴った。最初だけ呻きを上げた痩せ男も、いまや無言で身体を震わせるのみ。


「くそが……、てめえ見逃してやろうと思ったのによお。」


ペッと血反吐を吐き捨てて、太った男の方が復活してきた。

立ち上がったものの男はよろよろとしており、ダメージの残留が見て取れる。男は、胸元に手を突っ込んでガサゴソと漁る。またナイフが出てくるのかと思って警戒したが、出てきたのはナックルだった。一昔前のヤンキーなんかが持っていそうなメリケンサック。何だか某アニメ漫画に出てくる雑魚キャラのようである。


ただし、ナイフよりは安全とは言え、あれで殴られたらただでは済まない。

ここまでやってしまった以上、降参という選択肢はないだろうし、選ぶつもりはない。千鳥足の男にとどめを刺して、少女を連れて退散するのみ。


「てめえ、絶対にぶっ殺してやるからな……。」


すごむ男を前に、俺は護身術を習った時の事を思い出していた。

正面から襲い来る暴漢を制圧する方法。一応、こう見えても運動はできる方だった。当時、誰よりも上手に倣った事を実践して、先生に褒められたのを覚えている。あれは練習、今回は実戦だが、やる事は一緒のはず。


「しねやあああああっ!!」


拳を振りかぶり突っ込んでくる男。

俺は男の脛を思いっきり蹴りつけてやる。有名な弁慶の泣き所ってやつだ。


男は苦悶の表情を浮かべてバランスを崩す、握られた拳からは力が抜けているが勢いは止まらない。俺は蹴った足を軸にして前に踏み出すと、身体をかがめて下から渾身の肘打ちをお見舞いした。


前のめりになった男の頭は、バットで打たれたボールのように真逆の方向へと猛スピードで飛び上がった。手には重たい衝撃、確かな感触が走る。


ドサッと地面に仰向けに倒れて、男はピクリとも動かない。……が、心配なので一応数発殴って蹴っておく。ちょっとカッコ悪いかもしれないが、この際安全の方が大事だ。殺してしまった方が良いのかもと、少しだけ思ったが、さすがに人殺しは抵抗がある。今は無力化できればそれで十分としよう。


「おい、大丈夫か?」


「……ありがと……ございます。」


俺の問いにコクリと頷くと、少女はお礼の言葉を述べた。

鈴のように凛とした声が、痛みでいくらかかすれて聞こえてくる。とりあえず、この場を早く離れたほうが良い。脅威となる男二人は倒したが、仲間がいないとも限らない。


「立てるか?」


少女はコクリと頷き、俺の手を取って立ち上がる。細くて弱々しい手だが、その弱々しい手で、俺の体を掴み、痩せ男の足止めもしてくれた。勇敢な手だ。


「よし、とりあえず、ここから離れよう。」


またコクリと頷く。少女の手を引いて、賑やかな露店の方へと駆けていく。

喧騒に包まれると、先ほどまでの事が嘘のように思える。振り返ってみると、男二人の姿は消えていた。諦めてくれるといいけれど……そんな優しい世界では無いんだろうな。


何か対策をうたなければ、いけない。

もう他人事ではない、ここまでやってしまった以上、許してはもらえないだろう。自分の身の安全の為にも、少女の為にも、何とかしなくては……。


そんな思いを巡らせながら、俺と少女は無言で雑踏の中を走った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ