6話
朝食を終えた俺は傭兵ギルドに関する情報を集めるために、街へ繰り出した。
具体的に知りたいのは、
・試験はどこで行われるのか
・参加条件は何か
・大まかな試験内容
の三つだ。
ならば行くべきところはあそこだろう。
俺はある場所を思い浮かべ、そこへと向かった。
しばらく街を歩くと俺は剣と盾が描かれた吊り下げ看板の掛かった一軒の店に辿り着いた。
店の前には『ウォーバット武具店』と、乱雑な字で書かれた立て看板が突き刺されている。
木製の重厚な扉を開けると中には剣や槍、盾などの物騒な物が所狭しと並んでいる。
そして視線を店の奥へと向けると、カウンターの反対側の椅子に座った一人の老人がちょうどこちらに気づいた。
「よう、小僧。今日は何のようじゃ?」
「武器を売ってくれますか?それと傭兵ギルドの情報もあるだけ頼みます」
俺がそう言うと老人は少しだけ眉間にシワを寄せて少し唸った。
「武器は問題ないが・・・いくらワシでも、新設ギルドの情報は大したもんをもっとらん」
「あなたがそこまで言うとは・・・そこまで情報統制がしっかりしているのですか?」
「ワシの専門外ということもあるがな。何分、国の起こす事業だからのう。それよりも、あれは見せてくれるんだろうな?」
「ええ、勿論ですよ。武器に対しては代金を支払わせていただきますが」
「ああ、それが妥当じゃろう。さて、何から話すかのう」
そう言って顎髭を触りながら少し思案する様に目を閉じたかと思うと、老人は口を開いた。
「お主のことじゃからある程度は知っているのじゃろう。傭兵ギルドが国家が運営に関わる半公的組織だと言うのはいいな?そのため、その入会試験もかなりの難易度になるそうじゃ。一つ目が教養。貴族を相手にする以上、ある程度の教養が無いとやっていけんからのう。まあこの時点で一般階級の人間では入会が難しくなってくる。そして二つ目が武力。少数精鋭を掲げている以上、かなりの実力が無いと選ばれることはないじゃろう。複数の敵を相手にする必要が出てくるじゃろうからの。最後にフィールドスキルかの。野営や貴族の要求に対しての対応能力。様々な状況での判断能力などが問われるじゃろうな。」
「要するに強くて頭が良くて要領がいい人間が受かる、ということですね」
「まあ、そうじゃの。冒険者ギルドとの差別化をするためにも必要なことなのじゃろう」
確かに今挙げられたことが出来ないと口煩い貴族達の要求に答えることは難しいだろう。
「試験の会場と日時は分かりますか?」
「ああ、日時は明日じゃよ。本来は今日から1ヶ月前を予定していたそうじゃが二ヶ月前にドラゴンのブレスの目撃情報が多数入ったそうじゃ」
「ん?それと今回の試験になんの関係が?」
「なんでも、この街の西にある平原と森が試験の会場になるようでの。ドラゴンの調査が終わるまで、安全の為試験を延期しておったのじゃ」
・・・ドラゴン、か。
アナザーにはドラゴンはいなかった。
いや、ドラゴン”もどき”はいたがブレスを吐くことは無かった。
一応警戒しておく必要があるかもな。
「お主は試験を受けるのじゃろう?」
「ええ。そう言うということは受験者の出自は問わないのでしょう?」
「その通りじゃが、受験するものの殆どが貴族や名のある商家の子弟や代々騎士の家系の者の筈じゃ。そこにお前が混ざれば面倒なことになるじゃろうな」
俺は小さく笑って言った。
「仕方がありませんからね。そういった輩が不正で合格、なんてのが無いことを祈ります」
「その点に関しては大丈夫じゃろうな。不正をして無能を入会させてもギルド側には損しかないじゃろう。試験官もそれなりにちゃんとした者を用意しておるじゃろう」
確かにそんな事をしてしまっては本末転倒だろう。
多少の贔屓はあるかもしれないが、不出来な者を合格させるとは考えにくい。
「そういったことが無いなら余裕ですね」
「ほう、えらく自信があるのじゃな?お主の実力は予想がつくが、学もあるというのは驚きじゃのう」
そうなのだ。
俺がここまで自信があるのは、この世界の学問の発達度がとても低いからだ。
そのため、この二ヶ月の内純粋な学問については1週間も経たないうちにマスターしてしまった。
まあそれは、学問のレベルが低いということと地球の学問との共通点が多かったからだ。
そのおかげでかなりの時間を現状把握や情報収集に当てることが出来たのだ。
「それじゃあそろそろあれを出してもらおうかの」
「わかりました。ああ、武器ですが鉄製のショートソードを何本かお願いします」
「鉄製で良いのか?というか新たな武器など必要無いのではないのかのう」
「そんなことないですよ」
そう言って俺はインベントリーから鈍く光る幅広の剣を取り出した。
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名工のブロードソード
攻撃力︰3500
特性︰不壊
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これは初めてこの店に来た時に装備していたものだ。
これを見た店主のウォーバットがこの剣を見せてほしいと言ったところから度々情報の代わりに剣を貸している。
やはり見る人が見れば剣の価値がわかるようで、街を歩いていたときもこの剣を狙った者に何度か襲われたのだ。それからはインベントリーに仕舞っておく様にしているのだ。
そして、今回鉄製のショートソードを頼んだのは、俺があまり弱い武器を持っていないからだ。試験でも下手に目立ちたくない。
「おお、美しい・・・何度見ても飽きのこない完全な一振りじゃ・・・」
剣の背を撫でながら恍惚とした表情を浮かべる老人を見まいと、俺は店内を物色し始めた。