5話
投稿の間が空いてしまい申し訳ありません。
物語の構成を練り直しておりました。
これから更新の頻度を上げていこうと思っています。
俺がこのゴルドの街に来て二ヶ月ほど経った。
俺はこの二ヶ月で街の図書館や酒場等でこの世界についての事をいろいろ調べていた。
そうして情報を得ていくうちに俺はある確信に至った。
それはこの世界はアナザーではなく、アナザー2の世界だということだ。
舞台となる世界こそ同じだが、アナザー2は「アナザーのラスボス討伐の約五十年後の世界」という設定だった。
アナザー2は発売こそされていなかったが、プロローグについては公開されていたのでストーリーの大筋は知っている。
それと照らし合わせたところ、この世界がそうであるということがわかったのだ。
そして、それによって俺の中に疑念と不安が生まれた。
それは、「敵のボスはどうするのか」と「主人公が討伐に失敗したらどうなるのか」だ。
この世界ではゲームの時のように死んでもセーブ地点で生き返るということは無い。
さらに言うと蘇生の方法も無い様だった。
つまりゲームと比べてボスの討伐の難易度がぐっと上がるのだ。
仮に、ゲームのように主人公がボスを倒すことが叶わなかった場合、ボスがこの世界を支配しようと進行してくることは容易く想像出来る。
そこで俺はあることを考えたのだが・・・
「お客さん!朝食ができましたよ!」
「今行きます!」
部屋の前で宿屋のおばちゃんがかなりの声量で声をかけてきた。
俺もそれに返事を返し、軽く身だしなみを整えると部屋を出る。
そう、俺は今借りている宿での朝を迎えたばかりだ。
宿泊用の二階から食堂兼酒場の一階に下りると、パンの香ばしい匂いとベーコンのジュワジュワと焼ける音が聞こえてきた。
厨房を見ると宿屋の優しそうなおじちゃんが忙しなく料理をしていた。
食堂のテーブルは三分の二程がうまっており、俺は厨房に面しているカウンターの席に座った。
「朝のセットを一つお願いします」
「あいよ!」
そう言っておばちゃんがパンとベーコンエッグにサラダと一欠片のオレンジがのったプレートを持ってきた。
「飲み物はどうするんだい?」
「コーヒーにミルクをいれたものを」
「いつものだね」
おばちゃんはニコリと笑いながらそう言うと厨房に戻っていった。
俺がこの宿に来たのはこの街に着いた翌日だ。
そのため、もう「いつもの」と言えるくらいにはおばちゃんと仲良くなっていた。
金に関してはかなりの量の金貨がインベントリーの中に眠っているので、心配はしていない。
それでも、毎日遊んで暮らせるほどかといえば決してそうではないだろう。
それに、俺が考えているある事のためには金が必要なのだ。それ以外にもクリアしなければいけない条件がいくつかある。ここ数日はそれをどうにかする方法を探していた。
「また難しいことを考えてんだね、あんたは」
おばちゃんがいつものコーヒーを持ってきてくれた。
俺はそれを一口啜る。うん、頭が冴えてくる。
「そう言えば近々、傭兵ギルドの入会試験があるらしいね」
「傭兵ギルド、ですか?」
「そ。何でも、軍を持たない貴族のための何でも屋みたいなのをつくるそうだよ。そいつらに仕事を取られるってこの前飲んでた冒険者が愚痴ってたのさ」
なるほど。
冒険者ギルドの入会条件は成人していることと銀貨が一枚必要なだけで、誰にでもなることが出来る。
その為、冒険者は社会から浮浪者というように見られる風潮があるのだ。
最も、冒険者の中でも高ランクの者はその限りではないが。
そういったこともあり、貴族から冒険者に対して何らかの依頼がなされるときは高ランクの者を指名することが常識だ。
しかし、高ランク冒険者はプライドの高い者が多く、冒険者を下に見ている貴族達の依頼を拒否することが多々あるのだ。
教養があり一定以上の実力があるもので、貴族向けの何でも屋を創るというのは悪くない発想だ。
いざと言う時には戦力にもなる。
だが・・・
「騎士団とは違うのですか?」
「確かに貴族には騎士団を要請する権利があるらしいけど、規模が大きいせいで宿泊費や食費が馬鹿にならないからねえ。その点傭兵は少数精鋭、しかも、無駄にプライドの高い貴族上がりの騎士と違って比較的命令には従順ってのをうりにしてるらしいからね」
「確かに、使いやすさで言えば傭兵に軍配が上がりますね」
「それに、傭兵ギルドに入会すると国に身分を保証されるそうだよ。優秀な人間を手放したくないんだろうね」
「面白い話しを聞かせてもらいました。いつもありがとうございます」
そう言って俺は食事代とは別に銀貨を1枚カウンターに置く。
「・・・いつも言ってるはずなんだけどねえ。この程度の情報でこんなに貰えないよ」
「それじゃあ次の情報への投資ということでいいですか?」
「やれやれ、プレッシャーをかけないでおくれよ」
そう言っておばちゃんは困ったように笑うと他の客の注文を取りに行った。
俺が、金があるにもかかわらずこのごく普通の街の宿に泊まっているのはこういった情報を得るためだ。
格式ある高級宿などでは、ウエイターにチップを掴ませればある程度のことは頼めるだろう。
しかし、それでは踏み入った情報は手に入らないし、金だけの繋がりなどきちんとした手続きを取らないと信用できるものではない。
だから俺はあえて小規模な宿で常連になり、時間をかけて互いにある程度信用出来る存在を探したのだ。
しかし傭兵ねえ。
実は俺の考えていることの「乗り越えなければならない条件」の中に「身分を証明できるものの入手」がある。
最悪、例の指輪を使うというのも考えたが恐らくこの世界にも王国騎士団師範役は居るだろう。勿論俺以外の、だ。
それではいつかバレてしまうし、何より毎回師範役として振る舞うのは面倒臭い。
であれば、傭兵になるというのは中々いい手だと思う。
「傭兵についてもう少し情報を集めてみるか」
俺はそう呟くとカップに残ったコーヒーの残りを啜った。