4話
「それでは師範殿、王宮の方々によろしくお伝えください!」
「勿論です。ポーツマン殿にはお世話になりましたから」
「私は当然のことをしたまでですよ!またお会いしましょう!」
そう言って馬車に乗ったままポーツマンは挨拶を済ませると御者に声をかけ馬車を走らせた。
俺は馬車の中で武勇伝などを催促されたので、“ 王国騎士団師範役”っぽい感じで適当なことを話したが、怪しまれることはなかった。
あの指輪は装備品として中々強力なものなので装備していたが、まさかここまで価値のあるものだとは思わなかった。
ポーツマンは俺が王都に向かっているものだと思っているだろう。
恐らくポーツマンは“ 王国騎士団師範役”である俺にどうにか恩を売っておこうと考えていたのだろうが。
俺はこのゴルドの街に暫くの間滞在するつもりだ。
「調べたいことがいくつもあるしな」
本当はポーツマンにこの世界のことを色々聞きたかったのだが、流石に怪しまれそうだったので辞めておいた。
まあ、情報の前に一番重要なことを確かめなければならないんだが。
それは、貨幣についてだ。
ゲーム内ではGという単位で表されていただけで数値でしかなかったが、昨晩確かめるとステータスと同じように出現させられるアイテムインベントリーの中に、ゲーム内で所持していたGと同じだけの『金貨』というアイテムが存在しているのを確認済みである。
俺はそれを10枚ほど取り出し鎧の下の服のポケットに入れておく。
そうして俺は街の門の付近で肉の串焼きを売っている屋台へと歩いていった。
「よう、そこの兄ちゃん!一本どうだい?」
「そうですね、これは使えますか?」
そう言ってポケットから金貨を一枚取り出すと、屋台のオヤジは眉を下げて困ったように言った。
「おいおい、こんな屋台で金貨なんて使わないでくれよ!釣が出せねえよ!」
「なるほど、ならこれで買えるだけお願いします」
「あいよ!焼き上がるのにしばらくかかるから、焼けたのから取っていきな!」
そのオヤジの言葉を聞いて屋台の前の小さなベンチに座り、謎の肉の串焼きを頬張った。
謎の肉は歯ごたえがあり、噛むたびにジューシーな肉汁が溢れてきて、絶品と言えるものだった。
「オヤジさん、これなんの肉ですか?」
「なんだ、一角猪食ったことねえのか?」
「ええ、ここから遠い生まれでして」
やはりおかしい。
一角猪自体はアナザーにもいた。
だが、奴らの素材はどの部位でも最低50Gで売れたのだ。
貨幣の価値が違うのか、それとも素材の価値が違うのかはわからないが、それでもこの世界がアナザーと全く同一のものではないということはわかる。
そういったことを考えながらも、俺は次々と焼き上がる串焼きを堪能した。