1話
ここからは主人公視点です。
「とりあえず村を目指すか」
この世界の地形がアナザーと同じならば、この平原には、初期スポーンエリアである「コット村」という小さな農村がある筈だ。
色々と確認をしたいし、そこに向かって歩を進めた。
しばらく歩いたところで、まばらに木が生えた森に着いた。
「ここで最初の戦闘があるんだよなー」
アナザーでは薬草を取りに来たこの森で一体のゴブリンと戦うことになる。
一応、チュートリアルということらしいのだがそのゴブリンの攻撃を3発程受けただけでHPは0になってしまう。
初心者は必ずと言っていいほど舐めてかかり、初めての死を経験するというのが、通例だった。
そんなふうにアナザーとこの世界を照らし合わせ、若干の興奮をしながら歩いていた時、自分の進んでいる方向から人の怒声のようなものと、金属同士がぶつかりあったような高い音が聞こえた。
もしやという思いからその音の方に向かってみると、馬車を取り囲むように20人程の戦士のような者達と10人に満たない数の騎士達が争っていた。
俺は少し離れた木の陰から様子を伺う。
「くそっ!盗賊風情がっ!!」
「げへへ、その盗賊風情にやられてるんだけどなあ!」
なるほどな。
状況は掴めた。
騎士の方が練度は高そうだが、多勢に無勢。
このまま戦っても勝敗は見えている。
「わっかりやすいイベントだなあ」
俺はそんなことを呟いた。
アナザーではもっと複雑かつ絶望的なイベントが多数あった。
こんないかにもなイベントは希だろう。
俺は念のため装備を確認しようと腰の剣と背中の弓に触れ、言葉を発した。
「ステータス」
ゲームではTPSの視点からカーソルを装備に合わせることでメニューが浮かび、そこからステータスを選択するのだが、この世界では音声によってそういったシステムが選択できるようだ。
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名工のブロードソード
攻撃力︰3500
特性︰不壊
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竜骨の弓
攻撃力︰2000
特性︰龍の息吹
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剣に関しては、普段使いの汎用性の高いもので特性も『どんな事でも破壊されない』というなかなかの優れもの。
弓も、威力こそ高くはないがこれまた『弓に宿る竜の魔力を矢として使用する』という特性でコストがかからないため優秀な武器であると言えるだろう。
この装備なら中盤のボスくらいなら十数秒で倒せるため、眼前の盗賊相手でも十分だと言える。
「それじゃあ行きますか」
そう言って俺は、盗賊3人を相手にして段々と追い詰められている若い騎士の前に躍り出た。
「!?あんたどこから!!?」
「誰だテメェ!?」
俺は盗賊に向かって剣を向け口を開いた。
「スキル、剣王の眼光」
そう言葉を放った時、目の前の盗賊たちの動きが止まった。
『剣王の眼光』は視界内の敵を一瞬怯ませるというスキルなのだが...盗賊たちは歯をガチガチと鳴らしながら震え、中には腰を抜かして地面に尻を落とすものまでいた。
あれ?こんなに効果高かったかな?
まだ周りで戦っている盗賊たちもこちらの様子に気を取られ、その隙を突かれて騎士達に切り伏せられて言った。
「た、頼む命だけはっ!」
「死にたくない!死にたくない!」
「ああ、ああぁ」
そして、俺の前で命乞いをしだした盗賊たちも騎士達に捕縛された。
・・・これはもしやイージーモード転移なのでは?