09
朝の光が窓から差し込む。結局あまり眠れなかった……。眠い目を擦りながら、食堂へ向かい、出された朝食を食べていると、なんとナナリからギルドに依頼された仕事を一緒にやらないかと持ち掛けてきた。なんでも、この辺りの洞窟に、ギルドから依頼された鉱石を採掘しに行くのだという。おお。初クエスト! 今日は宿代確保の為に、フィールドモンスター狩りをする予定だったのだ! クエストをこなしてゴールドを入手できるのであれば、そのほうがいいに決まっている! 断る理由もないね!
「よかった。断られたらどうしようかと思ったよ。後で街の入口に集合だからね! 絶対来てよね!」
手早く食事を済ませ、部屋に戻って荷物を鞄に詰める。荷物を詰めてパンパンになった鞄を肩にかけ、外へ出る。今日は朝からいい日になりそうだ。
~
街の入口近くの広場に行ってみると、既に、ナナリを含めた三人が待っていた。
「おっ! 来たか! 貧乏少女!」
蒼いプレートアーマーを着て、大きな盾を持ったガドラーが、こちらに向かって手を挙げた。その後ろには、羽帽子を被ったフッドが、自分のものであろう弓と矢の手入れをしている。
「ナナリがよ、あんたと一緒じゃないと、今日は行かないって泣きじゃくるもんでな。急な依頼ですまないな」
「泣いてないし、行かないなんていってないです! 嘘広めないでください!」
白い帽子と神官服を着ている少女、ナナリは焦っている。馬子にも衣裳。昨日とは雰囲気が全然違う。
「というわけだ。すまないがナナリの相手を頼むぜ。いちいちうるさくて、仕事に集中できない」フッドが笑いながら俺の肩をポンと叩いた。
「今回の洞窟は、モンスターもそれほど脅威じゃない。楽に対処できる場所だ。俺たちにとっちゃ、まあ息抜きみたいなもんだな。適当につるはし使って鉱石掘って、それを道具屋にでも売れば、宿代くらいすぐ溜まるさ」
「ギルドが必要としているのは、洞窟最深部周辺にあるとされる【黒曜石】だ。入手できるかは運だな。数があればなおいい。それ以外の鉱石は好きにしていいとさ」そう言いながら、ガドラーが皆につるはしを渡して回る。ゲーム内であったなこんなクエスト。報酬はそこそこよかったはずだ。
「コドリの街からはちょっと遠いのが難点だが、帰りはラムドラの街のほうが近い。採掘後は、そのままそこに向かう。ギルドには話がいっているから、ラムドラのギルドで【黒曜石】を渡せば、報酬が貰えるようになっている。この街には戻れないが、そこは了承してくれ」
ラムドラの街はここよりもっと大きく、色々な施設がある。宿代が上がる気がするが、そこはどうしようもなさそうだ。鉱石たくさん集めれば、宿代くらいチャラにできるはずだ! ビバ炭鉱夫!
皆の準備が整った頃、コドリの街を出発する。幾たびかのモンスターとの戦闘もあったが、特に苦戦もせず、手慣れたものだった。日が昇りきった頃、採掘を行う洞窟に到着した。
「一応、気合い入れていくかな! おう!」
ガドラーが腕を上に挙げ、声を上げる。他の二人は、掛け声に合わせて気合を入れたりはしないようだ。俺の途中まで挙げた腕も、そそくさと下げる。ガドラーが先行するようだ。その次にフッド、ナナリが続き、俺が最後だ。
一番後ろでこのパーティを見ていたが、なるほどバランスの良いパーティだ。【ナイト】のガドラーが敵を引き付け、【アーチャー】のフッドが狙い撃つ。ダメージを受けた場合は、さらに後ろの【僧侶】ナナリが適時魔法によって回復する。この洞窟のモンスターが、ハイペースでどんどん倒されていく。俺の出番はない。息抜きとは言っていたが、このパーティは、かなり場慣れをしている。ゲーム内のレベルで表すならば、二人は30代中盤から後半のレベルくらいだろうか。ナナリは使用している魔法から20代後半くらいだろう。ゲームの定石で行けば、ちょっと火力が足りないかな。という程度しか欠点が思いつかない。それほどまでにパーティとしての立ち回りも申し分なかった。それだけのレベル帯、パーティでありながら、何故、こんな序盤の採掘クエストを受けているのかが、よくわからないが。
時々、ナナリがこちらの様子を伺ってくる。モンスターに襲われて、ダメージを受けていないか、気になるのだろう。左手で鞄の中の薬草を掴んで、見えるように出し、右手の親指を立ててみせる。大丈夫。薬草で回復できますよ。という意思表示なのだが、彼女には意味が分からなかったようだ。キョトンとしている。
洞窟最深部手前まで来たようだ。この辺りの岩壁を掘っても、【黒曜石】や他の鉱石は出る。試しにつるはしでカンカンやってみるか。
「おっ!【黒曜石】が出たな! 幸先がいいぜ」
「【鉄鉱石】はこっちの袋にまとめておくか? まだ出るだろ?」
「つるはしを使っての採掘って大変ですね。手がしびれます……」
鉱石は、ゲームのごとく結構簡単に出る。なかなかに大量のようだ。惜しむらくは、俺の鞄は、物がいっぱい入り過ぎて、鉱石を大量に運べる余裕がないことだな。マジかよ……
「やはり【黒曜石】があまり出ないな。最深部まで行くしかないか」
「奥に強力なモンスターとかいませんよね?」
「ここにそんな奴はいないさ。それだったら、ギルド経由で色々と話題になっている」
最深部までの道を皆で歩く。そして、道が開けたところで、最深部の中央に何者かが立っているのが見て取れた。
「なんだ? 奥に黒い……」
全員に緊張が走る。そこにいてはいけない存在。