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03

 

 熊。


 目の前に熊である。

 

 洞窟へ入ろうとしている熊がいる。

 熊もこちらに気づいて顔を向ける。

 おや?

 その洞窟は、先ほど私が颯爽と飛び出した洞窟では? 

 奇遇ですな熊さん。あなたもこちらに御用がおありですかな?

 HAHAHA



 いやあわかりますよ熊さん。バトルですよね。やってやるぜって顔してますもんね。色んなゲームの序盤に出てくる熊って、舐めた態度で狩場を広げた初心者を容赦なく屠る定番モンスターだもんね。いてもおかしくないよね。

 名立たるファンタジー系モンスターを差し置いて、高いパワー・スピード・スタミナ、そして、時にはすさまじい残虐性を持った、現実世界のレジェンド級モンスターだからね。

 これはツキノワグマかな? ヒグマかな? 

 そしてここは日本の山奥かな?

 だったらいいなぁ……



 いや、まだすべてを諦めてはいけない。熊と相撲を取って仲良くなるあの物語があるじゃないか。熊と仲良くなったあとに、その力量を認められて偉い人に召し抱えられるかもしれないじゃないか。


 や、やるしかねぇ


 大丈夫。この世界はゲームがベースであり、俺がかつてゲームで育てた『セルビィ』というキャラクターになっていること、先ほどの山賊とのやり取りを考えれば、きっと大丈夫。大丈夫じゃないかな。たぶん大丈夫だと思いたい。


 自分の左肩に手を掛け、着ていたローブを斜め後ろに投げ飛ばす。熊と真正面に向かい合い、つかの間の静寂が訪れる。そして、どちらが先ともなく目には見えないリングへ飛び出す。そう、一人と一匹だけに聞こえる、戦いのゴングが鳴り響いたのだ!


~~

~~~


 熊との激闘を制し、熊が人里に来ないようこんこんと説得した上で、きちんと山へ送り返した後に、自分の仮説が正しかったことに安堵する。そして、今の状態に色々と考えを巡らす。


 そう、BCO内で育てた、ゲームキャラクターである『セルビィ』はレベル最大、つまりカウンターストップしており、エルフの基本種族値ステータスや、現在の職業である魔導士の職業ステータスもすべて最大値、レベルアップによって成長できる上限値に到達していたのだ。


 つまり、強くてニューゲーム状態であるといったほうが早いのだろうのか。 


 この弱肉強食、盛者必衰の荒んだゲーム世界において、唯一の、というか、これがなかったらとっくに死んでいるレベルのありがたい能力引継ぎである! 山賊の剣が折れたのも、防御のステータスポイントがカンストしていたからである。熊との戦いを制することができたのも、非力な魔導士ながらもステータスポイントがカンストしていたからである。

 よかった! 異世界の神様ありがとう! そして、かつて頑張ってカンストまで育てた当時の俺よ! 本当にありがとう!


 異世界を生き抜くための強靭な肉体? はとりあえず理解できた。当分はこのステータス状態で敵モンスター等に負けるということはないだろう。

 

 もう一つの疑問点、会話の問題だ。言行不一致ならぬ、言言不一致? とでもいうのであろうか。とにかく、出てくる台詞が違う。違うだけならまだいいのだが、妙に棘のあるというか、要するに罵倒語ばかりなのだ。頭では、こんにちは、といっているのに、口から出る言葉は、糞虫、ごみ屑とか、そういう言葉が飛び出てくる。


 これは、言語系の参照データベース間違えてんじゃないかなと推察する。いや、罵倒語ばかり集めた言語データベースってなんだって話になるけども。

 そして、召喚されたときに『王女エメラダ』が話していた言葉を思い出す。『不完全な状態での召喚』ってこういうことなのか!? このままだと村の人々との会話がほぼ不可能じゃないか。


 たとえ異世界だろうと、ゲームだろうと

 コミュニケーションは大事

 コミュニケーションは大事

 大事なことなので二回言いました。


 そこではたと気が付く。この世界の魔法についてだ。いや、ゲーム内設定では、正しい呪文詠唱によって魔法が発動するとかそんな感じの……いやまさかね……そこで、近くの木に向かって、火の初級魔法【ファイア】を唱えようとする。


【ファイア】!

「燃え散れ雑兵!」


 ……でない! 正しい呪文詠唱ができない! 

 これはさすがに耐えられずに膝から崩れ落ち、跪き頭を垂れた。

『セルビィ』のメイン職業は魔導士なのだ……

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