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ゲームの話


 これは太古の記憶。戦いの記録。

 かつて世界を救った英雄達が魔神へと挑んだ、果てしなき戦いの記憶。



 天は黒く、地は白く、果てしなく続くかにみえる黒と白の空間。

 辺り一面にうっすらと霧が広がり、現世か常世か分からぬような場所に、耳をつんざくようなひどく不釣り合いな咆哮が響く。

 

 咆哮の主は、巨大な化け物、人の十倍近くはある身の丈を持ち、両の腕は人を簡単に握りつぶせるであろうほど大きく、爪は鋭い。二足で立ち、強靭にみえる足は動く度に地面を震わす。その化け物の顔は骸骨のごとく角ばっており、落ち窪んだ目の彫も深い。その眼光は闇の奥底から赤い光を放つ。頭部には三つの巨大な角を持ち、口から生えた牙はいかなるものをも噛み千切らんとするほどに鋭い。背中から生える翼は、鋭利的で巨大であり、既に巨体である化け物の大きさを、さらに倍近くにも大きく見せるものであった。


 その化け物を前に、六人の男女がそれぞれの武器を構えて立ちはだかっている。



「第三形態だ! 来るぞ!」

【ナイト】の男が叫んでいる。白い鎧を着込んだ男は、左手に全身が隠れる程の大盾を持ち、右手には宝石を散りばめたように光り輝く絢爛豪華な剣を持っている。


「【プロテクション】と【マジックウォール】の再展開よろしく!」

 蒼い鎧を着込み、背には真紅のマントを着けている青年が叫ぶ。彼もまた右手に絢爛豪華な剣を持ち、左手には【ナイト】の男よりは小ぶりだが宝玉がいくつか埋まった丸盾を持っている。


「まかせて!」

「最速で張り直しますね!」

 答えたのは、【ナイト】の男性と青年の少し後ろで二人並んでいる少女だ。

 一人は白いドレスを着込み、手には【魔導士】が使うであろう人の背丈はありそうな大きなロッドを構え、頭には王族が身に着けるようなティアラをつけており、そして長い耳が横に伸びている。

 もう一人は、頭に大きな巨大な帽子を被り、全身黒ずくめの衣装を着込み、背には黒いマントがなびく。両手で大きな宝玉のついた杖を構えているが、年は十二歳にも届かないような少女である。


「先に潰すのは右と左、どっちからだ?」

 弓を構えた、背丈や風貌は高齢に見える男性が声を上げる。背負っている矢筒から矢を抜き取り、弓につがえる。頭髪と整えた髭が白く光る。狩人に近い身なりであり、厳つい装飾のついた弓と、およそ矢とは思えない形状のものをその弓につがえている。弓につがえるまでの流れるような一連の動きは、手早く見事であった。


「まずは右腕からやりましょう!」

 蒼い鎧の青年が答える。


「了解でござる」

 いつからそこにいたのであろうか、赤いマフラーをなびかせた、正に【ニンジャ】という男性が、蒼い鎧の青年の後ろに突如として現れた。右手には苦無のような武器を持ち、顔は覆面と鉢金で覆われているが、目出しの隙間から垣間見える眼光は鋭く光っている。


「きたぞ! 【フルガードディフェンス】!」

 化け物の切り裂くような咆哮の後、両腕から漆黒の球がいくつも放たれた。【ナイト】の男性が正面に飛び出し、化け物の攻撃を受ける。その漆黒の球は大盾にぶつかると、球状を維持できずに左右上下に激しく飛び散った。


「うおおお!?」

「ちょっと飛んできてるんですけど!?」

 後ろの少女達が飛び散った攻撃に少し驚いていた。


「うるせぇ! 少しくらい我慢しとけ!」

「【リカバリィ】と【グロースボディ】もっかいかけておきますね!」

「右腕に【ホーリーレイン】いきまーす!」


 大きな帽子を被った少女が宝玉の杖を天にかざし、即座に呪文を唱える。化け物の天井に光の雲が現れ、凄まじい数の光の矢が、化け物の右腕に突き刺さる。その光の矢が打ち終わると同時に、先ほどまで青年の後ろにいた覆面鉢金の男が苦無一閃で化け物の腕を切りつける。さらに続けざまに白髭の男性が放った矢が化け物の右腕を抉りこむように刺さり、突き刺さった矢が爆発を起こす。


「【重破連斬】!」

「【虚無連斬】!」

 爆発と同時に蒼い鎧の青年と覆面鉢金の男が化け物の右腕と胴体にスキルを叩き込む。そして、化け物の攻撃が届く前に、【ナイト】の男性と入れ替わるように後方へと下がり、攻撃をかわす。


 化け物の攻撃は、休むこともなく行われており、【ナイト】の男性はそれを防ぐために前に出続けている。攻撃のほとんどをその大盾で受け、後ろへの被害を最小限に抑えこんでいる。後方からは二人の少女が回復や補助呪文を続けざまに詠唱している。蒼い鎧と覆面鉢金の二人は、化け物の攻撃の隙間を縫って斬りかかり、白髭の男性は弓矢にて攻撃を繰り返す。

 戦いは熾烈を極めているように見えるが、化け物に向かっていく六人は明らかに手練れであった。常に全体の状況を見て、スキル・呪文・立ち位置の入れ替えや攻撃防御のスイッチなど流れるように手際よくこなす。それは、呪文詠唱やスキルの展開を行いながらも、仲間と小さな軽口を言い合えるほどに。



「前から気になってたけどさ。ストロング☆次郎さんの尻になんか変なのついてるね」

「ああ。あれね。なんか課金アイテムらしいよ」

「えっ!? あんなダサいのが課金……」

「かっこいいと思ってるんだからいっちゃダメだよ!」


「聞こえてんぞネカマ共! 真面目にやれや!」

「いやーん。怖いー」

「女キャラ使っているだけでネカマとは言わないんですけどー」

「うるせぇ! 似たようなもんだろ!」

「分かった。見本を見せてやる。ネカマっていうのはだなぁ……ゴホン……がんばってぇ♡ 次郎おにいたまぁ♡」

「……」

「次郎おにいたまぁ♡ 怒っちゃった?」

「……」


「……キモッ」

「それはないわ」

「二度と口を開くなでござる」


「……ちょっとこのパーティメンバー辛辣過ぎない?」

「皆にょにょにょさんの中身知ってるからね……あとちょい助はネカマにトラウマがあるから……」

「その話はやめるでござる」


「……騙されたんだな」

「……騙されて貢いだんだね」

「やめて!」


「ちょい助おにいたまぁ♡ 私ぃ、竜神の逆鱗とサイコウォンドが欲しいなぁ♡」

「やめろっつってんだろ!」


~~


 戦いは熾烈を極める。六人は化け物を一気呵成に攻めたかと思えば、一斉に下がって守りを固めたりと、その攻防は幾たびも続く。


「そろそろかな。ちょい助準備よろしく」

「わかったでござる」

 ちょい助と呼ばれた覆面鉢金の男性は鞄から取り出した薬のようなものを飲んだ後に、その姿が霞のように掻き消えた。


「トーマスさん。ちょっとダメージ抑えて調整しましょう」

「了解」

「セルビィさんとにょにょにょさんは【クイックリィ】と【アタックアップ】の重ね掛けよろしく。カウントはこっちでやるから」

「おっけー」

「ほーい」

「ストロング☆次郎さんは継続防御で。【フルガードディフェンス】も続行でね」


「ちょい助でホントに大丈夫かぁ?」

「さんざん言われてるなそれ。可哀そうに……」

「大船に乗った気でまかせるでござる」

 どこからか聞こえる、姿が見えない覆面鉢金の男性の声が響く。


 白髭の男性が放った矢が、化け物の頭部や左腕に突き刺さり、爆発を起こす。

 その痛みに呼応するかのように化け物が咆哮する。


「カウント……6、5、4、そろそろきます!」

 化け物の雄たけびと共に、頭部の口が大きく開口する。開いた口の奥底からどす黒い光が見える。


「タイミングミスるなよ!」

「応!」


 化け物の口の奥底からおぞましい光が見える。それは、すべてを飲み込むような暗黒。しかし、暗黒でありながらもキラキラと輝いて見える不思議な光だ。


 今にも口から放とうとする寸前の化け物の頭部の後ろに、先ほど隠れた覆面鉢金の男性が突如として姿を現す。それは、音もなく、静かに、一瞬で。そして、その手に持った苦無で、頭部目掛けて一閃を放つ。


「ジ・エンドでござる!」


 化け物にとっては後頭部、しかも技の発動中の不意打ちである。その一閃は、本来の斬撃の何倍もの威力を発揮する、いわゆる必殺の一撃である。化け物の後頭部を砕き、その巨体の背や腰まで切り裂く。


 化け物は叫び声を上げる。肉体の激しい損傷である。しかしその化け物は、一瞬姿勢を崩したようにみえたが、すぐに体勢を持ち直した。そして、その赤く五人を眼光鋭く見つめ直す。


「……やりやがった!」


「……あちゃー」

「あいええええ!?」

「やってしまいましたなぁ」

「期待を裏切らないね……」


「……すまんでござる」

 いつの間にか蒼い鎧の青年の後ろに戻ってきた、覆面鉢金の男性がしょんぼりしながら現れた。


「セルビィさん。【フルリカバリィ】準備お願い」

「はい」

「発射後、即でよろしく」

「くるぞ!」

 化け物から放たれる薄気味悪い暗黒が、六人のいる地点に向けて放たれ、一瞬にして空間を暗黒へと包んだ。【ナイト】の男性は大盾を構えているが、まるで意味を持たず、その攻撃は後ろにいた全員を蝕む。


「ぐうう!」

 化け物の暗黒を吐き出すゴオオといった音と、皆の小さな悲鳴だけがその空間に響く。


 化け物の攻撃が終わり、暗闇が少しずつ晴れ、周りが見渡せるようなってくると【ナイト】の男性が呟いた。

「生きてるかぁ? 皆……」


「……今ので死んだ人はいないみたい」

「女神の首飾り付けててよかったよ……」

「ギリ耐えたね。状態異常にはなってるけど……」


「おい! ちょい助だけピンピンしてるぞ!」

「スキル【空蝉】でござるよニンニン」

「……殴っていいかな」

「……後にしよう」


「OK! いけます! 【フルリカバリィ】!」

 白いドレスの少女がロッドを高く掲げて呪文を唱える。

 化け物の次の攻撃よりも早く呪文を唱え、ちょい助以外の五人の受けたダメージと状態異常を即座に回復する。


 蒼い鎧の青年が、片膝をついた状態から立ち上がり、静かに、それでいて落ち着いたように皆に話した。

「……まあ、あとは怖い攻撃もないし、いつも通りタコ殴りにして早く終わろっか……」


~~

~~~


 化け物との激闘も終わり、先ほどの六人が、金銀財宝の前で話をしている。他愛もない話だ。


「十分切れた?」

「無理。やっぱちょい助が外したのがタイムロスだね」


「……」

「リーダー怒ってるね。まあ……そりゃそうだな」

「リーダーだけ今日はまだレアドロップアイテム出てないって話だし。しょうがないよ」

「全部ちょい助が悪い」

「何故でござる!? レアドロップアイテムは関係ないでござろう!?」

「……さっきのでちょい助に出たでしょ。レアドロップアイテム。止めを外したくせによ!」

「……何故それを!? 他人のドロップ品は見れないはずでござろう!? ……はっ!?」

「……出たなこいつ」

「……せこいやつめ」


「……ちょい助は次から全裸ニンジャでよろしく」

「えっ!? それはマジで勘弁でござる! 攻撃がかすっただけで死ぬでござる!」

「いけるって。やろっか」

「……リーダーは本気だ」

「ご愁傷様」



 これは太古の記憶。戦いの記録。

 かつて世界を救った英雄達のパーティ、和風☆胡麻ドレッシングの会が、当日九度目の魔神マガラツォの討伐において、十分三十二秒かかった、戦いの記録。


【ニンジャ】が止めに失敗し、

【ニンジャ】だけが即死状態異常攻撃をスキルによって無傷で回避し、

【ニンジャ】にだけレアドロップアイテムが落ちた、とある戦いの記憶。



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