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現実 ーリソウー1


 

『学年末試験で五科目合計四百五十点だったよ』

 ふむ。

『全然勉強しなかったからまぁこんなものかなって感じ』

 ふぅん。

『担任には夕交ゆうこう大学も狙えるって言われてるんだけどどうしようかなぁ。俺としては無理に大学なんか行くより、まずはやりたいことを見つけてその道に適した場所(大学だろうが専門学校だろうがそれ以外だろうが)に進みたいっていう考えがあってね』

 へぇー。いいと思います。

『とりあえず高校を卒業したら日本一周、それからヨーロッパの方を回ってみたいな。あぁ、向こうの大学に通うのもありかもしれない』

 え? やりたいことを見つけてその道に適した場所に行くんじゃないの?

 っていうか。

「これで終わりぃー?」

「どうしたの、流華」

 隣を歩いている莉乃が小首を傾げる。

「ちょっと返事に困るメールが届いただけ」

「前に言ってたおじさんの取引先の社長の息子さん?」

「うん。デカデブ」

「そんな風に言ったら駄目」

 さて、なんて返そう。っていうかどこから反応すればいいんだろう。せめて最後に質問をしてくれればそれに反応するのに、自分が言いたいことだけ書いちゃってるから困る。ブログじゃないんだからさ。

 うーん。まずはテストの点数を誉めるべき? でもこれ多分嘘だしなぁ。デカデブと同じ学校に通ってる知り合いの話じゃあ補習の常連って話だし。しかも私が通ってる高校よりランクが低いうえにーーーー

「莉乃ってテスト五教科合計何点だったっけ」

「私? 四百六十五点」

 ちなみに私は四百八十点。莉乃に言われてテスト勉強はキッチリやらされたけど。

 ここで褒めても後で私の点数を知ったりしたら実力に見合わないプライドを傷付けちゃいそうだしスルーがいいかな。とりあえず深く考えずにいいところだけ褒めよう。なんか学力にコンプレックスがあるっぽいし、遠回しに大学を貶す感じで。

 えぇと『やりたいことを見つけてその道に適した場所に進むってスゴく立派な考え方だと思います!』。なんか実際書いてみるとフワフワしてる感が否めないけど。

『最近じゃあ特別やりたいことがないから何となく大学に進むって人が多いですもんね。

 日本一周、それにヨーロッパ旅行ですか! それは得るものが多い旅になりそうですね!』なんか他人事っぽいかな。まぁいいか。実際全然興味ないから、これが精一杯の反応だ。最後に『今は何かやりたいと思ってることとかあるんですか?』と書いて送信っと。

 スマホを鞄にしまってから両腕を上げて身体を伸ばす。あー、めんどくさ。でもお父さんの仕事上大事な相手らしいし無下には出来ない。

 三分くらい無言のまま歩いたところでスマホが鳴った。鞄から取り出してメールを開く。

『もちろんやりたいことは山程あるし、大学に行けば大抵のことはやれるようになるとは思う。でもやりたいことをただやるだけの人生に俺は魅力を感じないな』

 うぉい。どこからツッコめばいいのコレ。ツッコミ待ちだよね? え? ガチなの?

『やりたいことをやるっていうのは簡単なんだ。誰にだって出来る。自分の好きなようにやればいいだけだから』

 そっかな。そんなにちょろくないと思うけど。徒花にはまず無理だし。

『俺は俺にしかやれないことを見つけて、それにチャレンジしたい。そのくらいやらないとこの世界に生きてる意味がないと思うんだよね。普通のサラリーマンとか、公務員とか。あんな生き方は俺には出来ない』

 一言でサラリーマンって言っても色々あると思うけどね。

『ところで流華は学年末試験何点だった?』

 やーめーろーよー。いらないとこツッコんでくんなよー。せっかくこっちがスルーしてやったのによー。

 あと名前呼び捨てはマジでキモいからやめてほしい。

 返事を考えているとまた別のメールが届いた。隊長からだ。件名は『連絡』。

『前に話した空木そらき結羽ゆうは三月二十五日にこっちへ来るらしい。予定通り四月から扇野支部所属となり、戸舞班の活動も再開される。また忙しくなるだろうから覚悟しておけ』

「莉乃、鬼踊ちゃん二十五日に来るってさ。それで四月からお仕事再開」

「ん。了解」

「それにしても凄いよね、この班。双花三人組ってだけで珍しいのに、その全員が異名持ち。しかも戦闘のトップスリーが集結してるって。ドリームチームじゃん」

「私はちょっと心配。空木さん、単独行動が多いらしいし」

「んー、まぁ確かにね」

 空木結羽。異名『鬼踊』。歳は十四。去年の五月に開花、入校。一月後に蛍山ほたるやま支部に入隊。その高い戦闘能力が話題となって入隊から一月後には異名が付けられる。でもその頃から莉乃が言ったような単独行動、命令違反が増加。徒花のイメージダウンを避けるためマスコミもあまり取り扱わなくなり(上が圧力かけたんだろうけど)、今では地元では有名くらいの知名度。まぁそれでも変人には一定の需要があるもので、徒花マニアにはファンが多いとかなんとか。

 単独行動や命令違反っていうのは簡単に言えば『好き勝手カフカを殺してる』だけで、私としては別にいいんじゃない? って感じ。実際、ちょっと前までは毎回結果を残してたらしいし。転勤になったのは大型カフカとのタイマンに負けたからって噂を聞いたけど、普通一人で勝てるもんじゃないからね。女王と鉄壁の二人でも勝てないんだからさ。平均的な能力しかない徒花なら五、六人いてようやく余裕をもって戦えるくらいじゃないの? もちろん敵の強さにもよるけど。

 ま、本来ならそこまでキツイお咎めはないんだろうけど、私の班にいれたいがために無理矢理引っ張ってきたって感じかな。

 大将のおじさんもなかなかの適任者を見つけてきてくれた。鬼踊は言ってしまえば度を越えた真面目ちゃんだから、美織なんかと違って我先に現場へ向かってくれるだろうし。なんか殺人を犯してないカフカまで殺しちゃうらしいけど、私的にはどうでもいいことだし。

 隊長に『了解!』と返してからデカデブのメールを再度開く。

 やりたいことをやる。それを鬼踊ちゃんは実践しているように思える。デカデブが口先だけで言ったみたいに簡単だなんて思えないけど。

「あのぉ!!」

 うお。何?

 後ろから聞こえてきた馬鹿デカい声に振り返ると、そこには学ラン姿の男の子が立っていた。身長低いし中学生かな。坊主頭で、体育会系? やんちゃ系? って感じ。オラオラ系っていうにはちょっと幼い感じだし。

「なに?」と莉乃が問う。

 告白かな。私フリーになったばっかりだし、噂を聞き付けて? でも身長ほとんど変わらないのは嫌だなぁ。せめて莉乃よりは大きくあってほしい。

 男の子はぎこちない動きで私達の前まできてからガバッと頭を下げた。

「こっ! この前は危ないところを助けてもらってありがとうございますっ!!」

 声デカいって。距離近づいた分ボリューム下げてよ。

 っていうか。

 目だけ動かして莉乃と視線を合わせる。無表情だけど莉乃も見覚えがないらしい。美織が死んで以来任務はやってないからそれ以前の話なんだろうけど、それにしたって一般人なんて腐るほど助けてるからなぁ。

「どういたしまして」と莉乃が言った。覚えてる体で通すつもりらしい。私も「どういたしましてー」と言っておく。

 頭を上げた男の子は満足げな表情で「それでは失礼しまっす!!」と言って走り去っていった。

 なんだ。本当にお礼言いにきただけなんだ。それに託つけてご飯に誘って口説こうとする人も少なくないのに。

 莉乃と軽く顔を合わせてから再び歩き出し、手に持ちっぱなしだったスマホを眺める。

 目下の悩みは変わることなくデカデブへの返信だ。



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