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能力 ーダソクー3


 

 間違いなく今年ナンバーワンを飾る衝撃の光景を目撃してから二週間。結羽ちゃんの自作自演は依然続いている。

 この間に分かったことは、結羽ちゃんが作ったカフカは通常の個体と比べると著しくスペックが低いということ、そしてたまにーー二週間前の蛇型みたいなーーヒトツメのようなカフカを作り出すということ。

 三日前に現れた大型カフカはまさにそれだった。立派な角を生やした鹿型カフカ。出現場所が人通りの多い道から一本外れた場所ということもあって、結羽ちゃんが駆け付ける(というか動き出す)までの僅かな間に二十人を越える人が殺された。後から監視カメラで見ると、カフカは角を突き出して大通りを一度走り抜けただけだった。角に突き刺さって死んだ人、足に踏み潰される、あるいは蹴り上げられて死んだ人で大体半々くらい。結羽ちゃんが大通りに行った時、カフカの角には数人の人がクリスマスツリーの飾りみたいに突き刺さっていたらしい。

 そのカフカは結羽ちゃんが一人でやっつけちゃったわけだけど、そこで(多分)予想外の出来事。

 本物のカフカの登場。今度のは中型だったけど、さっきの大型よりも結羽ちゃんは苦戦していて、そこに私と莉乃が駆け付けた。

 まぁ確かに中型にしては強い個体だったけど、結羽ちゃんが苦戦するほどかなー? って感じだった。弱い相手とばっかり戦ってたから腕が鈍っちゃったんだと思う。

 そして、休日の今日も今日とて結羽ちゃんは朝早くからお出掛けらしい。今から六時間くらい前、莉乃が私の部屋に来る際にマンションから出ていく結羽ちゃんを見掛けたとか。

「流華、準備出来た?」

 ドアの向こうから莉乃の声。

「出来たよー」と言いながら寝室のドアを開けた。

 今日は私も莉乃もデートの日。まぁデートって言っても莉乃と健君は相変わらず付き合う気配はないし、私の方も今日の成り行き次第では智幸に別れを切り出そうと思ってるし、あまり浮かれた気分にはならない。

 玄関で靴を履いているとスマホが鳴った。智幸が到着したらしい。ナイスタイミング、とは思えなかった。智幸を待つ間、莉乃と健君と話をしているつもりだったから。

 莉乃と一緒にエレベーターを降りて入り口へ。マンションの前では智幸と健君が向かい合って楽しげに話をしていた。

 健君は成長期真っ最中らしくて、莉乃の身長を一ミリだけ抜いたとかなんとか。まぁそれでも百五十五センチちょいってとこだろう。百七十五センチくらいある智幸と並ぶと差は歴然。

 二人はほぼ同時に私達に気付き、こっちを向いて笑顔を浮かべた。

 健君は相変わらず嬉しさ満点といった感じの笑顔を莉乃に向けている。リードを持った飼い主を見た時の犬みたいだ。犬種は柴かな。

 莉乃達とはその場で別れて私達は駅に向かった。智幸曰く私を連れていきたいところがあるとかで、今日は少し遠出するらしい。こういうサプライズをするタイプじゃないから、多分私の心が冷めつつあることに気付いての行動だろう。今までも何度かこんなパターンあったし。中にはとりあえずエッチしとけば大丈夫だろうみたいな馬鹿もいたけど。

 駅に着いたらちょうど電車が出たところだった。ホームでベンチに座って次の便を待つ間、さっきのことを智幸に訊いてみた。

「健君と何話してたの?」

「んー? 色々。部活のこととか、流華のこととか紋水寺さんのこととか」

「ふぅん」

「俺と流華のことお似合いだってさ。ちょっと声デカイけど良い子じゃん、楠クン」

「そだね」

 後半は同意。

「あと紋水寺さんにホントに興味ないのか訊いてみたんだけど」

「うんうん」

 それは気になる。私も同じ事を訊いたことあるけど、やっぱり異性にはーーそれも莉乃と仲の良い私には言いにくいこともあるだろうし。

「『紋水寺先輩は命の恩人でスゴい強い人だから尊敬というか憧れというかそんな感じっす。恋愛感情とかおこがましいっす』だって」

「へぇー」

 なんだ、私が訊いたときと殆ど同じ答えだ。

「でも俺的には怪しいと思ってるけど」

「え? なんで?」

「だって流華だって同じだろ? 命の恩人だし、すげぇ強い、ってか紋水寺さんより強いし。だけど楠クンは紋水寺さん一直線」

彼氏ともゆきがいるから遠慮してるんじゃない?」

「恋愛感情がないなら別に遠慮する必要ないだろ?」

 そりゃ健君からすればそうかもしれないけど、相手ともゆきがどう思うかなんて分かんないし、それを考えてのことなんじゃないのかな。

「本人は自覚してないかもしれないけど、俺的には脈ありだと思うんだよなぁ。大体、尊敬とか憧れってのも好きの一種だろ? それを異性に向けるってことはもうそういうことじゃん」

「そうなの?」

「そうじゃない?」

 こっちが訊いてんのに。尊敬とか憧れとか、正直よく分かんないし。

「あ、電車来た」

 智幸が立ち上がる。それに続いて腰を上げようとしたらバッグの中で電話の着信音が鳴った。スマホを取り出してから立ち上がる。相手は類家隊長。通話をタッチして耳に当てる。

 会話は十秒もかからず終わった。

「もしもーし。どうかしたの?」

『あぁ、空木が殉職した。今から支部に来れるか?』

「りょーかーい」




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