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出会い ーキッカケー



『扇野第二中学校グラウンドにカフカ出現。中型、二足歩行タイプ。生徒の殺害が確認されている。戸舞とまい班はただちに現場へ急行しろ。繰り返す』

「ありゃー、ご指名だね」

 両隣に見ながら言うと莉乃りのはコクリと頷き、美織みおりは視線だけ返してきた。うーん、二人ともクール。

「えっと、二中ってどこだっけ?」

「あっち」

 莉乃が指差した方向へ駆け出す。後ろに付いたのは莉乃だけ。美織はいつも通り後からゆっくり来るつもりなのだろう。まぁ仮に全力で走ったところで私達には追い付けないけど。

 夕方の三時半。高校生わたしたちにとっては下校時間だけど、中学の頃ってどうだったっけ。

「ねぇ莉乃。中学生って今下校時間くらい?」

 手に提げていた鞄を背負いながら訊く。

「多分まだ授業中だと思う」

「やっぱりそのくらいかな」卒業から一年以上経ったとはいえ覚えてないものだなぁと考えながら、進行方向に建っていた一軒家を跳んで避ける。周囲から障害物が消えると一気に視界が開けて、遠くに学校らしき建物が見えた。

「二中ってあれ?」

 隣で風に髪を靡かせている莉乃に聞くと「うん」と短い返事があった。

 前に向き直ると校舎に続いて校庭も見えてきた。黒い影が一つ……ん? 校舎から誰か出てきた。その小さな黒い影は真っ直ぐカフカに向かって走っていく。カフカは校舎に背を向けて何かしている(多分死体を食べてる)から今のところ気付いている様子はないけど。

 自殺志願者かな? それとも神眼教の信者?

流華るか、急ごう」

 静かに響く莉乃の声。黒い影ーー学ランの男の子がどんな行動をするのか興味があったけど、相手が莉乃でもそんな本音は口に出せない。頷き、砕けるほどに強く足場を蹴った。

 今のうちに刀を形成。一本でいいか。どうせすぐ終わっちゃうし。

 あ、カフカ、男の子に気付いちゃった。

 ヘドロの身体から複数の棘が射出される。男の子は両腕で顔と頭は守ったものの、腕と身体が穴だらけになってその場に崩れ落ちる。

 死んじゃった。じゃあカフカ討伐最優先でいいよね。

 再度足場を蹴って方向を微調整。

 カフカは私達に気付いている様子はない。ていうかまだ男の子を見てる。そして腕を上げてーーーーってあれ? もしかしてあの子まだ生きてるの? うわ、ちょいマズ。カフカ殺して間に合うかな。

 真下に迫ったカフカに向けて刀を振りかぶる。

 カフカの腕が男の子へ伸びた。その先端は鋭利な刃へと形を変えている。

 全力で刀を振り下ろす。カフカの頭頂部から股下まで両断。勢い余って校庭も少し抉ってしまった。

 さて間に合ったかな。生存者をほったらかしてカフカを倒したなんてちょっと悪い評判流れそうだし。

 顔を上げる。カフカの身体が左右に崩れ落ちた先に莉乃の姿があった。男の子の前に、私と同じように刀を降り下ろした状態で立っている。カフカの腕が男の子に突き刺さる前にぶった切ってくれたらしい。

「ナイス、莉乃!」

 グッと親指を立てる。莉乃も無表情のまま同じようにしてから、クルッと後ろを向いて男の子の容態を確かめるように両膝を曲げた。

 私はカフカに視線を落として一応消滅の確認。ジュウウと音を立てて消えていくヘドロ。カフカは死ねば消えるのに徒花わたしたちは消えない。同じ身体なのに、そこは違う。なんでだろう。

「流華、救急車お願い」

 顔を上げて頷く。莉乃は自分の鞄からタオルを取り出したり制服を脱いだりして男の子の傷口に当てていた。

 スマホを取り出して救急車を要請。これで自動的に支部にも任務完了の連絡がいく。

 生徒は校舎内に留まるように、と告げる校内放送を聞きながらスマホをしまうと、校舎から数人の大人が出てきた。男の人ばっかりだ。そのうち二人はジャージ姿で明らかに体育教師。他の三人は……うーん。顔的に現国、化学、数学かな。それぞれ担当科目に適した武器とか持ってれば面白いのに。数学ならデカイ三角定規とかあるだろうし。国語は……辞書かな。あれの角で殴ればかなり痛いと思う。化学は……うーん。硫酸とか? 人体模型でもいいかも。そんなの抱えてる人がいたら私でもちょっと怖いし。

 その人達に莉乃の手伝いと綺麗なタオルを持ってくるように頼んでから、その場に残った一人(一番年上で化学教師っぽい人)にカフカ出現時の状況やその後について聞いて適当にメモを取る。本来は後処理班(現場の検証や清掃をする人達)の仕事だけど、まぁ来るまで暇だしね。

 確認できた死傷者は八人。死者は二人、重傷者は莉乃が診てる男子だけ。他には逃げる時に転んだとかで軽傷者五人。友達が殺されるのを目の当たりにして精神的に弱ってる生徒もいるらしいけど、それは知ったこっちゃない。

 話の途中で、救急車、パトカー、対カフカ部隊の車が到着した。莉乃の方をチラリと見ると、いつの間にか戻ってきていた他の教員や保健室の先生らしき白衣を着たおばさんと男の子の応急処置に当たっていた。

「戸舞班長、お疲れ様です」

 ワゴン車から降りてきた公子こうこさんがビシッと敬礼をする。

「公子さんもお疲れー」

「交代します」

「うん、じゃあよろしくね。はい、これ」

 メモを破いて渡してから踵を返す。担架に乗せられた男の子が救急車の中へ消えていく。それを見ている莉乃の後ろ姿。

「りーのっ」

 呼び掛けに莉乃が振り返る。

「うわぁ。シャツ血塗れじゃん」

「うん。また買わないといけない」

 莉乃はそう言いながらも気にした様子はなく、発進した救急車を目で追っていた。

「さっきの男の子大丈夫なの?」

「どうだろう」

 救急車が校門から出ていくのとすれ違いで誰かが歩いて入ってきた。

 美織だ。

 九ヶ月くらい前に私の班に入ってきた女の子。私や莉乃と同い年で、同じ学校、同じクラス。住んでるマンションだって同じ。

 違うのは仕事に対する真面目さくらい。

 美織はいつだって現場に遅れてくる。吸花は身体能力が低いから、という理由は通らないくらいの社長出勤だ。

 全部終わる頃合いを見てフラっとやってくるから、当然、戦闘にも一般人の救助活動にも間に合わない。カフカを人に戻す際の吸収だって、急を要する場合が九ヶ月間で何度かあって、その時は莉乃がやった。私がやってあげられればいいんだけど大将から吸収は三人目のメンバーが担当するように、それが不可能な場合は莉乃が、って言われてるしなぁ。

 ま、美織の気持ちも分からないでもないけど。色々噂されちゃったこともあったし。

 でもなぁ。

 美織の代わりに莉乃が腐化しちゃうのは嫌だなぁ。


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