099 魔女と同郷の者
2017. 1. 11
ファナが開いたのは、青と赤のパーカーを着た親子の写真がついたページだ。クリスタには見にくいであろうその写真を見て大きな声が上がった。
《間違いないっ。これじゃっ》
その服は裾は腰より下の辺り。そこがキュッと締まって体にくっついている。クリスタが言っていたもので間違いなかった。
「って事は……師匠と同郷の人って事?」
《その可能性が高いという事だな。だが、相手が魔女殿のように世界を渡れる程の力を持つとなると、面倒だな》
「でもさぁ。世界を渡る力は溜めないと無理だって言ってたよね?」
《うむ。だからこその滞在期限だと言っていたな》
魔女の力は、計り知れなかった。しかし、世界を渡る程の力は、何年も魔力を溜める事で可能となると聞いた事があった。
それを聞いたバルドは、そんな脅威だろうかと不思議そうに言った。
「その世界を渡れる力ってのが凄くても、溜めなきゃ使えねぇんだろ? なら、普段は弱いかもしんねぇじゃねぇか。西ん時も、あっさり撃退してただろ」
大陸の西。ボライアークの所では、現れたそいつをファナとラクトで追い払っていた。強い力があるのならば、あの後また攻撃をしてきていただろうとバルドは言いたいのだ。
それもそうだがと納得しかけた所で、ラクトが呟く。
「魔力を溜められる者はそうそう居ない」
「どういう事?」
ファナは、魔力は溜めて更に大きなものとして使うのが普通だと思っている。バルドやノークもそうだろう。それが常識とされている。しかし、ラクトは違うというのだ。
「魔力の総量は決まっているのだ。個人差はあるが、容量を超えれば自然に放出される。何年もかかって一杯になる者はそう多くはない」
人によって容量は決まっている。これは訓練した所でほとんど変化はないらしい。こればかりは持って生まれた才能なのだという。
「それじゃあ、やっぱりちょっと面倒くさい?」
「そうだな。魔力の容量は、魔女殿と良い勝負になるかもしれん」
「……それ、大問題じゃん……」
ファナは、それが分かっても平然としているラクトに呆れてしまった。
バルドとノークは、自分達に出番はないと、もうが関せずを決めているようだ。
《そやつを見つけるのは容易いのぉ》
《かなり特殊な気配だ。ほれ、主よ。来るぞ》
「え?」
シルヴァの呑気な予告通り、森の毒霧から駆け抜けて来た者がいた。
「ちょっ、正面からっ!?」
その者は黒いパーカーの前もしっかりと閉めている、身軽な姿で剣を抜くと、毒霧の中で体を覆っていた膜を消す。そして、真っ直ぐにラクト目掛けて切りかかってきた。
「兄さんっ!」
ラクトは右足を大きく後ろへ引くと、向かって来る剣とその人を軽く避ける。
「ラクト!」
バルドが叫ぶ。
後ろへとすり抜けた者を、ラクトは迷惑なものを見るような目で睨みつけた。しかし、ラクトは常の丸腰のままなのだ。
「お前達は、ファナを守っていろ。怪我でもさせたら許さんぞ」
「兄さん」
こんな状況でもファナ第一のラクトだ。それに状況も忘れて一同が呆れる。
「心配するな。あのような感情が乗った剣など、ただの棒切れでしかない」
「っ……!」
ラクトの言葉に、襲ってきた者はビクリと体を揺らす。剣を握る手が強く力が入っているように見えた。そんな様子を見て、ファナは肩の力を抜く。
ファナ自身、よくわからないが、ラクトが負けるはずがないと確信できてしまったのだ。
「バルド、ノーク、邪魔になるから少し下がろう」
「ファナ?」
「助けなくていいのかっ?」
バルドは拍子抜けしたように強張らせていた顔を緩ませる。しかしノークは落ち着かない様子だ。
「大丈夫。兄さんは強いから。あんなの、魔力使わなくても倒せるよ」
それは不思議な安心感だった。
読んでくださりありがとうございます◎
敵は強敵?
それでもラクト兄さんが負けるとは思えないようです。
では次回、金曜13日の0時です。
よろしくお願いします◎




