096 山登り
2017. 1. 1
次回、少しお休みをいただきます。
ファナ達は、町の様子を見る事なく、すぐに山を登りはじめた。理由は魔導具にある。
「なぁ、これの中の空気って、なくなんねぇのか?」
バルドが今更気付いたというように言う。水中で息が保たないように、空気がそのうちなくなるのではないかと思ったらしい。
「だから、丸一日は空気を循環させて、くれてるの。師匠、なんて言ったかなぁ……吐いたものも吸えるように空気を変化? 浄化? 何か常に綺麗な空気にしてくれてるんだって」
ファナもよく聞いていなかったが、酸欠にならないようにしてあるのだ。
「なんだそれ……」
「ね。よく分かんないけど、その空気を綺麗にする術が、一日しか保たないの」
「だから丸一日?」
「そう。膜が萎んできて、肌に触れる頃に割れるように術が解ける」
術が解けてしまう予兆はあるのだ。少し萎んだなと自覚してから数分で消える為、その後の対処は急がなくてはならない。
「それで、この山は半日で登れると?」
「登れないよ? 一日はかかる」
「……はい?」
尋ねたノークが聞き直そうとしていた。そう。封囲術が解けるまでの時間は丸一日ほど。その間に山を登り、クリスタに状況を確認し、また山を下りなくてはならないのだ。
「じゃぁ、どうすんだ? 俺とノークは登りきれないだろ?」
登って下りてくるまでに二日かかるという事だ。それでは頂上に着いた時点で解けてしまう。
「山の頂上の方は、クリスタが木を無くしていってるから空気も問題ないよ。だから、一日で登り切ろうね」
かなり無茶だと顔色をなくし、黄色い毒霧で見えない山頂の方を見上げだバルドとノーク。しかし、顔を覆っている膜も消えたら終わりだと、なるべく息を浅くしようと思っているようだ。
今は登り始めたばかりで、息も上がってはいないが、そのうちキツくなるので、無駄な努力だといえる。
そうして登っていると、段々と黄色い霧が、本来の緑になっていくのが分かった。
「この辺はいつも通りって事? なんで?」
黄色く烟る下を見る。それは、裾野の方ほど濃いように見えた。
「……植物が違う?」
「そのようだ」
「兄さん?」
ラクトの表情は、何か苦いものでも噛み潰しているようだ。
「何か知ってるの?」
「……魔の森というのがあってな……それと同じかもしれん」
「それって、向こうの大陸でって事?」
「そうだ……」
魔族と呼ばれる者達が住む、この大陸から遥か東にある大陸。そこにある森と同じ状況だというのだ。
「黄色いの?」
ファナは、見た事もない黄色い霧を見て尋ねる。
「少し赤が混じる時があるがな。それは毒素が強い時だ。葉を落としきった時なのだが、葉が芽吹く頃はこれくらいの黄色だった」
「そういえば、下の方の木……葉っぱが少なかったような……」
あれは、葉が芽生えて間もないのではないかと思った。
「でも、なんで向こうの木がこっちに? 環境がいきなり変わってこっちでも出来たって事はないでしょ?」
突然変異で元々あった木が、それになってしまったとは考え難い。
これだけ黄色い霧が多いのだ。木の量もかなりのものだろう。それならば、もっと前から異変が感じられたはずだ。
「上の方が変わらないって事は、クリスタが気付いてない?」
《いや、気付いてはいるはずだ。ここは全てあれの守護下にある。いわば縄張りだ。気付かぬはずはない》
シルヴァも縄張りとしていた山フレアラント山脈の全てを把握していた。ねぐらとしていた場所と、ファナと魔女がいた場所は、山脈の中心だ。
そこにいても、シルヴァは大陸の端まで伸びる山脈を守護下に置いていた。
クリスタも、この山から裾野に広がる町までを縄張りとしているらしい。
そんな話をしながら登り続ける事約一日。バルドとノークの魔導具の効力が消える寸前に霧のない山頂付近に辿り着いたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
山登りは着々と進んでいます。
クリスタとの対面も近いかも?
では次回、少しお休みをいただいて6日です。
よろしくお願いします◎