095 おかしな思考回路
2016. 12. 30
ファナは魔導具の使い方を教える。
「ちょびっとだけ、その石に魔力を流せば良いから、魔術苦手なバルドでもイケるよ」
術が発動しないレベルでも大丈夫だと伝えると安心したようだ。どの魔導具でも発動させる時には、一度魔力を流し込まなくてはならない。魔力が循環する様、道を作るようにする必要があるのだ。
その魔力量も、ある程度は必要になる。その為、魔導具を使える者も限られてくるのだ。
《その封囲術は強力だ。まったく外気を入れないように出来る。本来は、水の中に潜れるようにする為のものだ》
「水の中を?」
ノークがまさかと思いながら呟く。
「そう。体は濡れるけど、飾りから上に膜を張る感じでね。発動すると、丸一日保つんだ。いいでしょ?」
ニヤニヤと笑って言うファナ。それを見て、何か裏があると思ったバルドは目を細めた。
「……ほぉ……それで、問題は?」
「あははっ、解除法がないんだよ。丸一日消えないから、食事も出来ないし、顔や頭が痒くなっても掻けないんだよね〜」
「おい……」
それは発動するのに、かなり勇気がいる。そんな重要な事を言わずにおこうとしていたようだ。
「さぁ、覚悟も決まった所で行こっか」
「ちょっ、決まってねぇよっ。だいたい、お前やラクトはどうすんだ?」
首飾りを二つ箱の中に残し、蓋を締めて鞄に入れたのを見て慌てて手を伸ばすが、ファナは当たり前のように言った。
「だって、兄さんも自分で封囲術使えるでしょ?」
「もちろんだ」
「だよね。って事で大丈夫だよ。何重かにしなきゃなんないけど、シルヴァは自分の周りに風の膜を張って、毒を寄せ付けないようにできるし……ドランどうしよっか……」
《キシャ?》
ドランの事は考えてなかったぞと黒霧の炎の様な黒い体毛に埋れて遊んでいるドランを振り返る。
すると、ドランは危なげなく黒霧の背の端に行って真ん中のラドがぐっと首を伸ばし、下にある黄色く怪しい霧を見る。
ドラとランが落ちないように後ろへ頭を反り返してバランスを取っているのが面白かった。
しばらく観察していたラドが、頭を戻して得意気に鳴いた。
《キシャシャ! シャシャっ、シャシャシャ!》
それをすかさずシルヴァが通訳する。
《大丈夫そうだと言っている。毒類は飲まなければ効かないらしい。呼吸するのは問題ないと……黒のと同じドラゴンだったな》
シルヴァが『黒の』と呼ぶクリスタは、植物の放つ毒霧は効かなかった。平然としているのだ。
たまに緑に飽きた時や綺麗な空気を吸いたければ、上空に上がれば良いと言っていた。
「へぇ、ドラゴンの生態って不思議……」
《主……今、バラす用のドラゴンがいないかと思っただろう……》
《シャ……っ》
ドランを見た目は、その生態を見透かそうとするような鋭い目だった。
それに怯えて首を短くするように竦めるドラン。そんなドランを見て、冗談だよと笑って誤魔化す。
すると、ラクトが真剣に考えだした。
「ドラゴンか……ファナの為ならば、用意してやりたいが……くっ、やはり魔女殿のように世界を渡れなければファナを満足させられぬのか……っ」
心底悔しそうにするラクト。体全体で悔しさをアピールしている。
「ちょっと、兄さん。別にいらないって。変な研究とか始めないでね?」
「異世界に渡る研究かっ? なぜ分かったっ!?」
「……バカ兄貴……」
察せない方が不思議だ。ラクトのシスコンは今に始まった事はではないのだから。
この場には、それが分かる者しかいない。バルドとノークも呆れた顔をしていた。
「ファナの願いは何が何でも叶えなくてはならないものだろうっ!!」
「私はどこの女王様か神だ? さも常識のように言うな!」
「なっ、ファナは女王様で女神様だろう?」
「……黒霧ちゃん。こいつ落としていい?」
兄バカ発言は、安全な場所に降り立つまで続いたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
大丈夫です。
いたって正常。
兄さんは兄さんです。
では次回、一日空けて1日です。
来年もよろしくお願いします◎




