093 一緒に行きましょう
2016. 12. 27
ジェイクの後ろ。そこには、薬師のローブを着た者が立っていた。
「失礼いたします。ラクト様。お客様です」
「あれ? え〜っと……」
その顔に、ファナも覚えがある。だが、咄嗟に名前が出てこないのはお約束だ。呟くように名を呼んだのはラクトだ。
「……ノーク?」
「久し振りだ……」
彼はおずおずと進み出て、ファナ達を見た。
「どうしたんだ? ノーク」
そう尋ねるバルドに顔を向けるノーク。
「師匠に、世界を見てこいと言われた。お前達と……」
「俺達と?」
どうやら、ノークはファナ達と別れてから、薬師の師匠に言われたらしい。
「魔女様の弟子と一緒にいれば、色々な薬も知る事が出来る。俺は、多くの人の役に立てる薬師になりたい」
それが、ノークの本音だ。しかし、ファナはそんな素直に本音を話す者に慣れていない。疑ってかかるのが正しい。
「へぇ。そう言えって伯爵だったかに言われたんじゃなくて?」
「違うっ! 俺の意思だっ」
強い口調でそれを否定したノーク。すると、ラクトが言った。
「そろそろ、独り立ち出来るんじゃないのか? 師匠は他に何か言わなかったか?」
ラクトは、前世から縁のあるノークが心配なのだ。喰い物にされていやしないか。ただ利用されているのではないか。そう思ってしまうのは、前世での何でも抱え込んでしまう器用貧乏だった彼を知っているからだ。
「……言われた……独り立ちを考えてみないかと……だかその前に、彼女の弟子になったらどうかと……」
「私の弟子に?」
何を言ってるのかと目を見開く。
「……っ」
ファナが見つめると、ノークはたまらず目を逸らす。それに首を傾げている。すると、ラクトがムッとして言った。
「おい。私の可愛い妹から目を逸らすとはどういう事だ」
ピリッとした空気が支配する。そんなラクトを見たバルドが非難する。
「……見つめ合ってたら、それはそれでお前、怒るだろう……」
「当然だっ。私の可愛い妹と見つ合うなどっ、目を潰してくれる!」
「……」
バルドは呆れてしまう。そして、ファナは完全に無視だ。
「ねぇ。じゃぁ、これから私と一緒に行くって事?」
「そ、そうだ。行ってもいいだろうか……」
「いいよ〜」
ファナは勝手に話を進めていた。
「これから東に行くんだぁ。毒霧の解毒薬作んなきゃならなくなると思うんだよね〜。人手が増えるのは大歓迎だよ」
「そ、そうなのか……」
明るいファナの声に、ノークはどう反応すればいいのかわからないようだ。彼は、ファナに対して恐怖心を持っている。
「ノーク……顔が引きつってるぞ」
「あ、あぁ」
バルドが指摘すると、頬を両手で触れてほぐす。
「なぁに? 私が怖いの? 別に酷い事してないよ?」
ファナとしては、特に何もしていないと思っている。手を出すのは止められたのだ。全て未遂だという記憶しかない。すると、 バルドとシルヴァが言う。
「いや、しただろう……」
《精神的にはかなり追い詰めたと思うぞ》
「そう? ピンクにしただけじゃなかった?」
確かにピンクにしただけだが、落ちない不安感と、目に痛い色はとても精神的にきただろうと、バルドとシルヴァは、目を逸らすノークを気の毒そうに見たのだった。
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