091 ダメージを受けたようです
2016. 12. 25
ファナが言えるのは、自分が両親を嫌っているという事だ。
「んんっ……んっ!」
「やめなよ。見苦しいって」
「んンっ!!」
怒鳴ろうとしても、どうしても口が閉じてしまうという状況。それでも、怒っているのは分かる。だが、半分は困惑と恐怖だろう。
そして、しばらくがむしゃらに言葉を発しようとしていた父親は、それならばとファナに駆け寄ろうとした。その手は、胸倉を掴もうとしているようだ。
だが、それをラクトが許すわけがない。
「ファナに触るな」
そう言って、汚いものでも払い退けるように手を振る。すると、ファナに触れる寸前で、凍り付いたように止まった。
「凄い、兄さん。どうやったの?」
「やった事ないのか?」
「ないよ。だって、動けなくするなら、蹴り飛ばせばいいんだもん」
「……確かに、ファナなら、その方が早いな……」
ラクトは、ファナを待ち伏せていたギルドで再会した時の事を思い出したようだ。その表情は、痛みを感じたような苦いものだった。
「それで、どうしよっか」
「屋敷に送り届けよう」
「案外、兄さんって優しいよね」
「ん? 優しいか?」
そうなのかと首を傾げ、ファナと顔を合わせるラクト。そんなラクトを見て、ふっと笑ったファナは、それから考え込むように顎に手をやる。
そして、何かを思い付いたというように目を輝かせた。
「送ったら、また来ちゃうかもだし、こっからそのお屋敷まで歩いてもらおうよ。そうしたら、疲れてまたこっちへ来ようなんて思えないでしょ」
「ほぉ……だが、自主的には歩かんぞ?」
あっちに行けと言われても、動くはずもない。
「だから、魔術でね。強制的に働かせるとか、連れてくの面倒な時に後をついて来るようにするとかね。出来るんだ」
ファナがそんな提案をすると、ラクトは意地悪く笑った。
「それはいい。この屋敷に帰ってきたら、また術がかかるように仕掛けておくかな」
そんな事が出来るのかとは聞かない。動けなくとも、両親の目には恐怖しているのが見えたのだ。出来なくても出来ると見せかけておけばいい。
「なら、場所確認してくる。このままにしといて。ジェイク、場所教えて。向こうに残ってるジェイクのお父さんも心配でしょ?」
「え、えぇ……まさか、直接場所を見に行く気ですか?」
「そうだよ? シルヴァでね。ほら、行くよ」
「ちょっ、お嬢様っ!?」
ファナが早くと言いながら、ジェイクの手を引っ張った。すると、ラクトが反応する。
「ファナっ! ジェイクと出かけるつもりなのか!? その手を離しなさいっ」
「煩いよ。兄さんはお仕事してて。すぐに戻ってくるし」
困惑するジェイクを引っ張りながら、部屋を出て行こうとするファナ。次のラクトの声に、仕方ないと振り返る。
「ファナっ!!」
「大人しくしてて。着いてきたり、文句言うなら、このまま何処か行っちゃうから」
「ファナぁ……」
「いいね?」
「はい……」
ラクトに言う事を聞かせた後、ファナはジェイクとシルヴァで別邸を確認する。そうして、本当に両親達を歩かせて屋敷へと向かわせた。
数日後、別邸に辿り着いた両親は、死にかけていたという。すぐに薬師を呼び、一命は取り止めたが、まだファナのかけた口を利けなくなる術は有効で、もどかしくも静かに過ごせるようになったという。
「ずっと口が利けないのか……?」
報告が来るまで滞在し、話を聞いたバルドが、気の毒そうにファナに尋ねる。
「もう術は解ける頃なんだけどね。アレ系の術は、精神的に大ダメージ受けると、解けなくなるんだって師匠に聞いた」
「アレらには良い薬だ」
ラクトはこのままで良いらしい。
「さてと、そろそろ山へ……」
その時、ジェイクが何処からか伝言を持って慌てて現れたのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
これで成敗完了!
きっと、両親は死んだように生きていくのでしょう。
やり返しに来たら、またそれを返せばいいんですから。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




