090 口は閉じましょうか
2016. 12. 23
ファナは、こんなにじっくり、意識して両親の姿を見たのは生まれて初めてだ。
物心つく頃。記憶している所では両親に話しかけた事もなかった。話しかけてはいけないという何かがあったのだろう。
相手をしてくれたのは使用人とラクトだ。近付くのも恐ろしかったのだと思う。
目を合わせてはいけない。気付かれてはいけない。そんな思いから、両親の前で顔を上げる事ができなかったのだ。
「ねっ、兄さん。似なくて良かったよね」
「そうだな。あんな意地の悪い顔になるには、どうしたら良いのかが分からん」
「嫌味とか言ってると、そういう顔になるって言うもんね」
「なっ!」
指をさしてはははと笑うファナとラクト。
父親はぐっと手を握りこんで震えていた。そして、母親は声も出ないほどの衝撃を受けたようだ。
そんな両親に、なぜ昔はあんなに怖いと思ったのだろうと思いながら、ファナが言った。
「ねぇ、さっさと出てってよ。みんな顔が強張っちゃってるじゃん。邪魔だよ」
「お、お前っ、なんて事をっ……!」
ファナは遠回しな言い方を好まない。それがきっと王であっても、嫌いだと思ったら正直に今の気持ちを言葉にするだろう。
「そうだっ。なんか、トマを脅して命令したんだってね。本当に腐った人達だわ。魔獣の餌にしてやりたいね」
「っ……お、親に向かってっ!」
怒りで頭に血が上ってきたらしく、顔は赤黒くなってきていた。
このまま倒れてしまいそうにも見えるが、そんなヤワな者達ではない。
ファナは気合いを入れるように腰に手をやり、言い放った。
「それが事実だとしても、あんた達を親だなんて思えないね。子どもだからって、好きにして良いわけじゃないんだよ
。そんな事も分かんないの?」
本気でファナは両親を馬鹿にしていた。それがそのまま伝わる事で、苛立ちが募るのだろう。睨み付ける目は充血しそうなほど大きく見開かれていた。
しかし、ファナはそんな両親の気持ちなど配慮する気はない。
「子どもだって一人の人だもの。自分の身になって、して良い事と悪い事の判断くらいしなよね。そんな事も考えられないなら、魔獣の餌になる方が存在意義があるんじゃない?」
「っ……」
もう父親も声が出ないようだ。今にも泡を噴くのではにかというほど、口を意味不明にパクパクと動かしていた。
「ほら、兄さん。こんな人達とっとと追い出して、お茶しようよ。ジェイクも戻って来たし」
扉の所に今まさに顔を見せたジェイクがいた。それを確認したラクトも頷く。
「そうだな。ただ、出ていけと言って、聞くような者ではないからな。今回も戻って来てしまったし……」
ラクトも頭を悩ませていた。使用人達の中で、夫妻を問答無用で叩き出せる者はいない。かろうじて、ジェイクの父が宥めて連れて出て行けたくらい。しかし、それも今は出来ない。
「さてと……どうするか……」
思案するラクトに、ファナが案を出す。
「師匠なら、こういう場合、言う事聞く子にすると思うよ」
「それは、教育するという事か?」
「ううん。教育は聞く姿勢が出来てる子にするんだって」
聞く耳持たない夫妻には無理だ。ならば指導かとも言うが、そうでもない。
「調教だよ。覚えるまでね。とりあえず、口を利けなくして……」
「んっ、んん……っ」
「っ……っ!?」
魔術によって口が開かなくなった両親を見て、ファナはにこやかに笑った。
「声を出そうとすると口が閉じるようになってるんだ。食事はできるから安心してね」
その笑顔は、間違いなく黒い何かを纏っていた。
読んでくださりありがとうございます◎
黙ってろって感じなんですね。
強制的にお口はチャックです。
では次回、1日空けて25日です。
よろしくお願いします◎
◎お知らせ◎
前作、移籍しました『女神なんてお断りですっ』第4巻発売決定しました!
来年1月末頃発売です。
活動報告もご確認ください。