088 後悔なんて不要です
2016. 12. 20
ファナが魔女の弟子であると混乱の中、理解したメイド達は、驚きの声を挙げた後、不思議そうにファナを見ていた。
「そんな事があるのですね……」
「魔女様って、魔女様ですよね? まさか、あの魔女様の弟子にだなんて……」
「先代様も、ラクト様の為とはいえ、そんな事になるとは思っていないわよね」
メイド達は、感心しながら言う。その会話を聞いて、ファナは引っかかった。
「ん? 兄さんの為?」
どう言う事かとメイド達に目を向けた。
「あ、いえ……」
「その……」
「失礼しました……」
突然気まずそうに目を背けるメイド達。
「そういえば、理由聞くんだった。ねぇ、トマ。なんで私が出て行く事になったのか知ってるんだよね?」
「……あぁ……」
トミルアートを振り返り、尋ねた。そこには、困惑の表情があった。
「ファナ……聞かなくてもいいんじゃないのか……?」
バルドがまずい空気だとフォローに回った。聞いた所で何も変わらないだろうと思ったのだ。
「一応は知っておきたいんだよね〜」
ファナはこんな軽く言ってはいるが、魔女に保護された当時は、半年ほど悶々と過ごした。なぜだという思いが、寝ても覚めても頭をよぎったのだ。
「結果的には良かったんだけど、何でそうなったのかって知っておかないと、伝記が書けないじゃん」
「伝記?」
バルドがどういう事かと表情を引きつらせる。なんとなく理由が予想できたらしい。
「そう。だって、伝説になる立派な魔女にならなきゃいけないんだもん!」
「あ〜……」
ファナはぐっと右手を握り、決意の表情を見せる。これに、やっぱりかとバルドが頭を抱えた。
「さぁっ、トマ。理由を教えて」
「……分かった……」
トミルアートは、ファナが知る権利はあると思っていた。だが、それがファナを傷付ける事になるのではないかとも思っていたのだ。
しかし、今のファナの宣言で確信した。ファナはそんなことでは傷付かない。
「理由は……ラクト様のファナへの執着を消す為だ……その行為は次期侯爵として相応しくないと……」
ファナを溺愛する余り、両親へ反抗したり、勝手な行動をするラクト。それならば、ファナが居なくなればいいと思ったのだ。
「この侯爵家のためになる事をしろと言われて……それで……」
トミルアートも辛い立場だったのだ。それは、メイド達も理解していたようだ。
「お嬢様……トマは父親にもそうしないと家を追い出されてしまうとの事で……」
「鞭で打たれて、酷い怪我をした時もありましたの」
「ラクト様が居られなかったあの頃は、旦那様方が特に荒れておられたのです」
常に気性が荒い性格だったラクトとファナの両親。何かに毎日イラついていた。ラクトは、そんな両親を適当にあしらい、時に上手く発散させる事で、使用人達に当たる事もそれほど酷くはなかったらしい。
「ラクト様が上手くコントロールされていたから……」
だからこそ、ラクトが学園に行っている間は、使用人が多く首になっていたという。
「首にされれば、行くところがない……だから、あんな命令を……」
聞いてしまったのだと俯くトミルアート。そうだったのかとファナは納得する。幼い頃の居心地の悪さは、そんな使用人達の怯えからも来ていたようだ。
ファナは不意に立ち上がると、トミルアートの心を慰めるように抱きついた。
「っ、ファナ……」
「ゴメンね。トマ。私は何ともないし、もう大丈夫だよ」
「っ……」
抱きついたファナの背中に、そっとトミルアートが腕を回す。その温かさを感じて、ファナは笑みを浮かべた。
そして、ふっと顔をトミルアートの体から離し、トミルアートの顔を見上げて言った。
「待ってて、トマ。お仕置きしてくるからっ」
「……え?」
そう言って、ファナは体を離すと、扉に向かう。部屋を出る寸前で振り返り、皆に言った。
「すぐに戻ってくるからっ」
部屋を飛び出してファナは、両親が来ている屋敷に向かう。
そうして、駆け込んだその部屋の扉に手を突いたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
反省しなくていいんです。
これで良かったんですから。
そして、ファナちゃんは両親の元へ。
では次回、一日空けて22日です。
よろしくお願いします◎




