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083 隠れましょう

2016. 12. 13

ジェイクが慌てて走ってくるのを見て、ファナ達は立ち止まった。


「え? 今何て?」


そう返せば、ジェイクが目の前で立ち止まり、離れの屋敷を指した。


「隠れるんです。先ほど、伝令が来まして、先代様方がこちらに向かっております」

「はぁ? だって、別邸にいるって」


領内ではあるが、この町から遠く離れた場所にある別邸で暮らしていく事になっったと聞いたはずだ。


「それが、なんとか別邸にお連れしたのですが、やはり納得がいかないと数人の使用人達をお供に飛び出したらしいのです……」

「なんで今まで気付かなかったの?」


ジェイクの父が着いていっていたはずだ。目端の利く有能な執事だ。これを見逃したとしても、すぐにこの屋敷へ連絡が来るのではないかと思ったのだ。


「申し訳ありません。父が少し体調を崩していたようでして……こちらに向かっている事がわかるまで時間が掛かったようなのです……」

「え? 大丈夫なの?」

「……体が弱いのは、昔からなので……」


ジェイクの父は、主人や家の者に気付かれないように気をつけていたらしいが、弱い方だったという。


「それで良くやってたね」

「はぁ……要領が良かったのです……頭の回転も早かったので……それで誤魔化していました」


そんな人ならば、環境が変わって調子を崩すのも分かる。


「仕方ないよね。それじゃぁあそこに、帰るまで居れば良いって事?」

「はい……申し訳ありません……」

「いいよ。ってか、今から町を出たら良いんじゃ……」

「ここに居てくださいっ!」

「っ……はい……」


必死な様子のジェイクに押され、ファナはシルヴァと共に離れの屋敷に向かおうと一歩を踏み出した。するとそこへ、バルドとドランがやって来た。


「お〜い。俺もそっちに行くぞ〜」

《シャァァァっ》


バルドは先代に会いたくないらしく、ファナと待機する気満々だ。


「う〜ん……やっぱ、町に出た方が良いんじゃない?」

「ダメです」


ジェイクがまたもきっぱりと言う。すると、小さな声でトミルアートが呟く。


「……そのまま消えそうだ」

「その通りだな……」


バルドまで同意していた。


「ねぇ、なんか信用なくない?」


どうやら、みんな、ここから逃げると思っているようだ。


《主が取る行動としては正しいと思うが?》

「まぁね。だって、絶対面倒じゃん」

「……お嬢様……そう思われる所は、ラクト様とそっくりです……」

「マジで? なら予想通りでよくない?」

「ですから、居てくださいと言っているのですっ」

「あっ、なるほど」


もう勘弁してくださいというように、ジェイクは両手で顔を覆っていた。


「ほれ、ファナ。あんまり迷惑かけるもんじゃない。行くぞ」

「は〜い」


バルドに背を押されながら、離れの屋敷に向かって歩き出すファナ。その足下には、シルヴァの背に乗ったドランがいる。


その背中を見送って、ジェイクがトミルアートに言った。


「トマ。お嬢様達に着いて行ってください。あなたも、先代様に会いたくはないでしょう」

「あぁ……そうする」


その声が聞こえたファナは、振り返って立ち止まった。


背を向けているトミルアートの表情は分からないが、ジェイクが嬉しそうに言った。


「お願いします」


そう言われてしっかりと顔を上げたトミルアートがジェイクを呼び止める。


「……ジェイク」

「はい……?」


急いで出迎えの準備をしなくてはと屋敷の方へ体を捻り掛けていたジェイクが動きを止める。


それから、また少し俯いたトミルアートが言った。


「今まで……ありがとう……」


風が運んだその声を聞いて、ファナは微笑む。すると、同じようにジェイクも笑っていた。


「お嬢様の事、お願いしますね」

「分かった」


背を向けて駆け出したジェイクを見送り、トミルアートは一テンポおいてから、ファナの方を向いた。


「えへへ」

「っ……っ!」


ファナの笑顔にぶつかって、恥ずかしそうに顔を背けるトミルアートに、ファナは更に笑みを深める。


「行こっ。早く来ないと、逃亡するよ?」

「ファナが言うと、シャレにならんのだが……」

「なんでよ。バルドってば失礼」

《主よ。それは、逃亡出来ないものでなくては説得力がないのだ。仕方がないだろう》


ファナならば、あっという間に逃亡しそうなのだ。そんな話をしていると、トミルアートも落ち着いたらしい。


「逃げられる前に、ファナの好きだったリートティを淹れようか」


トミルアートは、ファナが幼い頃好きだったお茶を知っているようだ。


「リートティ……? それが、私が好きだったやつなの!? 色々試してみたんだけど、全く分かんなかったんだよっ。どれっ? どんな葉っぱっ?」

「ちょっ、ファ、ファナっ?」


掴みかかるファナに、トミルアートは驚く。それが押し倒しそうな勢いだったので、バルドが慌ててファナの首根っこを掴む。


「こらっ、ファナ。淹れてくれるって言ってんだろ? 落ち着け」

「そ、そっか。お願いします!」

「あ、あぁ……」


ファナは、急げ急げと、トミルアートの腕を引っ張り、離れの屋敷へ向かっていく。


「何なんだ? あれ……」

《主は、昔飲んだ紅茶の味が忘れられなかったらしくてな。色々と試しておられた》

「……なるほど……」


コロコロと変わるファナの様子に呆れながら、自分達も遅れてはいけないと、ファナの後を追うバルドとシルヴァ達だった。



読んでくださりありがとうございます◎



見事にファナちゃんを釣ったトミルアート。

これで隠れて終わり……なんて事はないでしょうね。



では次回、一日空けて15日です。

よろしくお願いします◎


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