082 一緒に帰りましょう
2016. 12. 12
ゆっくりと振り向き、ファナを見るトミルアート。
「ファナ……」
ファナが笑みを見せると、肩の力が抜けたようだ。これを見て、シルヴァが溜め息をつく。
《ようやくか》
「……猫……」
トミルアートはこれまで、賢い猫がいるのは分かっていても、シルヴァの存在をはっきりと認識していなかったようだ。
話をするシルヴァに、目を丸くする。それが面白かったのだろう。シルヴァがふっと笑う。
《本来の姿を見せてやろう》
そうして、シルヴァは得意気に本来の姿へと変化した。
「っ!?」
息を飲むトミルアート。倒れてしまいそうなほど、一気に血の気が引いていた。
「あ、大丈夫だよ。こんな強そうな成りだけど、突然襲ったりしないから」
《我は意思を持つ至高の存在だ。本能のまま行動したりはせぬ》
その説明は心外だぞとシルヴァがムッとして言った。
「……まさか、白銀の王……か……?」
「なんで知ってんの?」
トミルアートは、怯えるどころか、なぜか近付いてシルヴァをマジマジと見つめる。
「あ、あぁ……曽祖父が、絵を描いていて……それが残ってるんだ」
《む? そういえば、そんな酔狂な男が居たな……》
シルヴァは何かを思い出すように上へ視線を投げる。
「曽祖父って事は、百年くらい前? シルヴァに挑んで来たのは、マスターが最後って言ってたじゃんね。それより前?」
《そうだな……その少し前くらいだ。姿は見せなかったのだ。我もいつ、かかって来るのかと待ってやっていたのだがな。ついにそのまま消えた》
草木の隙間から、丸一日見つめる者がいるのに、シルヴァは気付いていたらしい。それが、姿を現わすのを待っていてやったのだが、結局姿を見せずに退散したという。
「曽祖父は画家だったんだ。植物の絵が専門で、薬草の図鑑を作っていたらしい」
スケッチをしながら山を登り、山頂付近でシルヴァを見つけた。死を覚悟しながらスケッチし、それを終えて山を下りたという。
「シルヴァは綺麗だもんね。思わず描いちゃったんだろうなぁ」
「恐らくそうだろう……とても凛々しく、美しい姿だった」
このスケッチを気に入り、家に飾ってあったらしい。
《我を美しいと見たならば、悪い者ではないな》
「悪い奴だって、シルヴァに見惚れてたのいたじゃん……」
《盗賊は、我らに色々と献上するだろう。悪い奴らではない》
「そっか。そうだね」
ファナとシルヴァは、盗賊は悪い奴ではないと認識したようだ。
「ほらトマ。帰ろ。お腹いっぱいになるくらい、お菓子あったから。一緒に食べようよ」
「それは……僕は使用人だから……」
「じゃぁ、みんなで食べよう。どうせ、あんなには食べられないもん。ねっ」
「けど……っ」
渋るトミルアートの背をシルヴァが押した。
《我もまだ堪能しきれていないのだ。早く戻るぞ》
「ほら、早く〜」
呼ぶファナに、苦笑して、トミルアートは歩き出した。
「分かったよ」
ファナと並んだトミルアート。その顔を見上げ、ファナはふと気になっていた事を尋ねてみた。
「ねぇ、トマ。私って、なんで捨てられたの?」
「えっ……」
さすがにデリカシーに欠ける質問だ。気にしているトミルアートに、直接聞くなど、普通はしない。しかし、良くも悪くも、ファナはそういった一般的な配慮が欠けている所があった。
こんな時は、なぜかシルヴァの方が良く分かっていて指摘する。
《主……責めているのか?》
「え? なんで?」
そこで、顔色を悪くするトミルアートを見て、ようやく思い至る。
「あっ、そっか。トマを責めてるわけじゃないよ? さっきも言ったけど、感謝してるから。そうじゃなくて、理由はちゃんと知っておきたいなって」
「……そう……だよな……」
ファナは真っ直ぐでキラキラした瞳をトミルアートに向けている。分からない事、知らない事を純粋に知ろうとしているのだ。
「理由は……」
その時だった。ジェイクが走って来たのだ。
「お嬢様っ。隠れてくださいっ!」
「はい?」
それは、唐突な警告だった。
読んでくださりありがとうございます◎
シルヴァはカッコいいんだろうです。
ファナちゃんは、人との接し方が、まだ少し分かっていないのでしょう。
説得は完了です。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎