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081 大きくなったでしょ?

2016. 12. 11

ファナは、一人で真っ直ぐにトミルアートのいる場所へ向かっていた。


ラクトがついて来ようとしていたのだが、ジェイクとバルドに任せてきた。


テーブルの上でお菓子を堪能していたドランも、立ち上がろうとするラクトを必死で威嚇して止めようとしていたので、そのままにしてきたのだ。


ファナはシルヴァの気配を追い、庭へ出た。


「いた……」


トミルアートがいたのは、庭の端。小さな花壇の前だった。


「あそこは……」


その花壇は、ファナの花壇。かつてまだ幼いファナとトミルアートで好きな花を植えて育てていた場所だった。


ファナがいなくなっても花壇の世話をしていたのか、綺麗な季節の花が、花壇の半分程を彩っていた。


「トマ……」

「っ……」


呼びかけると、トミルアートはビクリと肩を震わせたが、背中を向けたまま動かなかった。


その傍にシルヴァがいた。その小さな足の下に、なぜかナイフがある。


《主、こやつ、油断ならんぞ。これを隠し持っておった》

「……そう……それで何をするつもりだった?」

「……」


トミルアートは、キツく拳を握り、肩を怒らせている。


《これで誰かを襲うつもりだったか?》


そうシルヴァが言うと、トミルアートがはじめて声を発した。


「違うっ! これは僕を……っ」

「死ぬつもりだったの?」

「っ……!」


ファナはその背中に投げかける。恐らく図星だろう。肩が小さく震えていた。


《なるほどな。危なっかしく見えたのはそれか》

「自傷行為を度々してるみたいだけど、どうして?」


分かっている。その原因はファナだ。ファナが一緒にいた時は、そんな素ぶり、欠片もなかったはずだ。


ファナはあの頃、トミルアートの笑顔が好きだった。ラクト以外で、唯一褒めたり笑顔を見せてくれる人。それは、とても貴重な存在だった。


「ねぇ、トマ。私、渡りの魔女の弟子になったんだ。師匠はもう違う世界に行っちゃったけど、立派な魔女になって、師匠が戻ってきた時、歴史に残ってるようにね」

「……」


誰もに魔女と呼ばれる存在になるのがファナの夢だ。出来たら、恐れられる魔女になりたい。不用意にみんなが近付いてこないような、畏怖を感じる魔女に憧れていた。


「私、あの森に行って、良かったと思ってる。師匠に会えた事は、私にとって、最高の出来事だったんだ。だから……」


これに、再びトミルアートが口を開く。


「なんで憎まないっ! 僕は酷い事をしたっ。死んでたかもしれないんだぞっ!」

「……うん。それでも、良かったと思うよ。今の私が証明してる」

「っ……そんな事……っ」


そんな事は偶然の奇跡だと言いたいのだろう。それでも、ファナはトミルアートを恨んでいない。


「私は今生きてる。もしもを考えるより、今を見てよ……」


今のトミルアートは痛々しい。その理由であるファナを置き去りにした事を責めているが、ファナは何事もなくここに居るのだ。生きていると分かった時点で責める必要はない。


「私はトマにまた会えてうれしい。本当はこの屋敷に帰ってくるつもりなんてなかったけど、来て良かった」


トミルアートの事は最初から許していたし、魔女に拾われてから、充実した日々を過ごして来た。


これだけトミルアートが傷付いていると知っていたら、ファナはもっと早く帰って来ただろう。


「……あの時……怖かっただろう……」


トミルアートは、ファナを傷付けてしまったと思ったのだ。


子どもの頃感じた恐怖は、長く心に留まる。たった一度だ。だが、幼いファナを森に独りにしてしまった。それが、トミルアートが自身を許すべきではないという理由。


「少しね……けど、だからこそ、強くなろうって思えた。一人で自由に、魔獣を気にせず歩けるくらい強くなろうって」


背を向け、俯いていたトミルアートが少しだけ頭をファナの方へ捻る。


「ほら、トマ、見てよ。今年で十二歳になったんだよ」


そんな祖父母にでも自分の成長を示すように言うと、トミルアートはようやくファナを見たのだった。




読んでくださりありがとうございます◎



自分が悪い事をしたと自覚し、深く反省しているのは、きっといい人の証拠でしょう。

一つの事でいつまでも反省し、後悔し続けるのは大変です。

おかしくなっても仕方がないですね。



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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