表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/285

080 あの日の罪を

2016. 12. 9

ジェイクの後ろから暗い表情で現れたのは、当時、庭師をしていた使用人だ。しかし、今は薬師のローブを着ている。


そして、ファナにはその男の顔に見覚えがあった。


「あなたは……」


彼の顔は忘れもしない。森にファナと出掛けた使用人だった。


「覚えておられますか? 彼はトミルアート。私の従兄弟に当たります。当時は庭師をしておりましたが……」

「うん……トマ……」

「……っ」


俯き、唇を噛むトミルアート。ファナはトマと呼び、慕っていた。それこそ、ラクトの代わりに兄と思ってよく遊んだ覚えがある。


「彼は、その……っトマっ」


ジェイクが話そうとすると、トミルアートはジェイクの手を振り払って廊下を駆けて行ってしまった。


その時、一瞬見えた横顔を見て、ファナは咄嗟にシルヴァへ命じた。


「シルヴァ。あの人を追って」

《承知した》


シルヴァも何か感じていたのだろう。食べかけのお菓子を珍しく放って、直ぐにトミルアートが消えた方向へ走って行った。


「ファナ。彼はどうしたんだ?」


バルドが問いかける。


「……うん……」


どう話すべきかと迷っていれば、ラクトが答えた。


「トマは、父に命じられてファナを置き去りにしてきた奴だ」

「ファナを? 父って事は、侯爵か……」


先代である侯爵の命令に背く事など、誰にも出来なかったであろう。バルドはそう思うと、ファナを捨てたという事実があったとしても、気の毒に思えてしまうようだ。


「ファナ。あいつに怒っているか?」


そう不意にラクトが問いかけてきた。


「ううん……だって、あの時トマは泣きそうな顔をしてたし、たからあそこに怖くても残ったんだもん」


ファナは、自分が森に留まらなければ、トマが困ると思ったのだ。きっと両親に叱られる。そう思ったら、動けなかった。


姿が完全に見えなくなるまで立ち上がらなかったのは、追いかけてしまいそうだったから。


ファナが怒っていないと聞くと、ジェイクが言った。


「トマはあの日、戻って来て、旦那様達に報告してから、直ぐにまた同じ場所へ向かったのです……」

「え……」


ファナはトミルアートの姿が見えなくなってから同じ方向へと走り出した。しかし、広い森で迷い、結局いつの間にか森の奥へと進んでいた。


魔女に拾われたのは、森の中心部辺りだったらしい。


「お嬢様を探して、獣に襲われたのか、酷い傷を負って、次の日の朝方戻ってきました。それから何度も自傷行為をするようになりまして……」


家令であったジェイクの父親が常に気を付けていたお陰で、これまで死ぬ事なく生活していたが、かなり酷い状態だったようだ。


何度も治療してもらう内に、薬草の事にも詳しくなったらしい。それでジェイクの父が、薬師になる事を勧めたのだと言う。


「お嬢様が生きているという事は、学園から戻って来られたラクト様からお聞きしました。ですが、トマは自分が許せなかったのでしょう……薬師見習いとなってからも、自身で新薬の実験台になったりと、自傷を続けているのです……」


毒を飲み、症例を知って、解毒薬を作る。死なないギリギリで、常に自分に罰を与えて来たと言う。


そんな様子を知って、ラクトも落ち着いたのだと言う。


「私も、最初は許せなかったが、異常な後悔の仕方でな。元々、あの愚かな父が命じた事。それを成し遂げた後、探し回ったと聞いては……あれを責められん」


使用人として正しい事をした。それがやるべきではないものであったとしても、使用人としては、その行動が正しい。


本来ならば、やり遂げた後であっても、主人が望む結果を否定したトミルアートは勇敢だろう。首にされるか、殺される事もあり得たのだ。


「ファナ。あれに言ってやってくれないか。許すと……ファナが許したとなれば、あれも落ち着くだろう」

「私からもお願いいたします」


そう言って、ジェイクが頭を下げると、部屋にいた使用人達が全員、同じように頭を下げたのだった。




読んでくださりありがとうございます◎



使用人仲間達も、トミルアートを責めてはいません。

ずっと心配してきたのでしょう。



では次回、一日空けて11日です。

よろしくお願いします◎


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ