079 お茶会?
2016. 12. 8
屋敷の中へ入ったファナ達は、談話室に通された。
屋敷に入って、ファナは幼い頃の記憶と変わらないなと目を細める。
しかし、変わった事もあった。それは、雰囲気だ。屋敷を包む気配が、少し違うように思えた。
理由はジェイクの言葉から分かった。
「お嬢様に父も会いたがっていたのですが、先代と別邸の方へ行っておりまして」
「へぇ。別邸ってどこにあるの?」
「ここクルトーバから半日ほど行った町です」
「それは、その町に迷惑掛けてない?」
何かにつけて文句しか言わなかった両親を覚えていたのだ。
「大丈夫だろう。アックスは当代である私に忠誠を誓ったからな。今までのようにはいかん」
アックスというのが、ジェイクの父。家令だった。アックスは当代当主に忠誠を誓う。今までは当主であったラクトとファナの父の言うことを聞いていたが、ラクトが今の当主だ。
先代に口出しも出来る。アックスは優秀だ。相応しくない事や間違った事をすれば、直ぐに正してくれるだろうとラクトもこの屋敷に残った者も信じていた。
ソファに腰掛けると同時に、いくつものお菓子や飲み物が用意される。
「こんなに……?」
何人分のお茶会用かと思えるほど、小さなテーブルとはいえ、乗り切らない量が並んでいた。数人のメイドが、まだ手にお菓子の乗ったお皿を持っているのだ。
「どうだ? 好きなだけ食べるといい」
「こんなにいらないって。もったいないじゃん」
そう言うと、ラクトと使用人達が揃って肩を落とした。
ファナにとって、焼き菓子は保存食だし、フルーツは鮮度が命だ。どちらも一度に用意するものではないという意識があるのだ。
しかし、使用人達に悪気はない。バルドはその様子に嘘がないと見て、ファナへ言う。
「ファナの為に作ったようだから、少しずつでも食べないとな」
「はぁ……分かった。シルヴァ、ドランも食べて良いよ」
ファナのお許しが出たとシルヴァが優雅にファナの膝の上に飛び乗る。
《良いのか?》
《シャ〜♪》
ドランもモゾモゾと出て来た。
二匹を見て、使用人達は目を丸くする。驚いて当然だろう。子猫が喋り、小鳥ほどの三つの首を持った奇妙な生き物が姿を現したのだ。
しかし、そんな驚きに声も出なくなった使用人達の事など、既にファナの視界から消えている。
それというのも、ラクトがファナへ食べさせ始めたからだ。
「これはあまり甘くないやつだ。ほら、あ〜ん」
「自分で食べるよ……」
「外じゃないから良いだろう?」
「うぅ……」
嬉しそうなラクトと、呆れるファナ。しかし周りは今、シルヴァとドランに釘付けだ。いつもは恥ずかしさもあり、やらないが、仕方ないと口を開けた。
「むぐ……美味しい……」
「そうだろうっ? ファナが好きそうなものをジェイクにリストにして渡しておいたんだ」
そう言われてみれば、味も甘過ぎず好みだ。それがよく分かったなとラクトに感心する。一緒に食べに行ったケーキも甘いものだったのだ。
「兄さんもこれなら食べられるよね……」
甘いお菓子はそれほど好きではないラクト。特にクリーム系は苦手らしい。ラクトも食べられ、ファナも好きなものを、使用人達は作ったのだ。
そう思うと、使用人達に興味がわいた。幼い頃は、父母に従う者という事で、味方にはならないと思っていた。その為、自分から近付いたり、話しかける事はなかったのだ。
お陰で、異常なくらい甘やかしてくるラクトが変だとは感じなかった。あの頃は、ラクトだけが味方のような気がしていたのだ。
なんて視野が狭かったのだろうと思いながら、ラクトを見つめていると、嬉しそうにラクトは頬を赤らめた。
「なんだ? 私にも食べさせてくれるのか? 是非、食べさせ合いっこしよう」
「断る」
「えぇ〜っ……」
何を求めているんだと顔を顰めるしかない。
その時、部屋の外からジェイクが誰かを連れて顔を覗かせたのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
歓迎されているようです。
お兄さんはいつも通り。
楽しいお茶会。
ジェイクが連れて来たのは?
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




