077 大きなお屋敷
2016. 12. 5
ファナ達がクルトーバにあるハークス家の前に着いたのは、昼近くになってからだった。
シルヴァやドランも含め、全員ラクトの召喚した黒霧にクルトーバ近くの街道まで運んでもらい、町に向かったのだ。
「こんな大きかった……?」
「ん? 大きいか?」
屋敷の大きさにファナは圧倒されていた。
「だって、普通の家の何倍? ここが門でしょ? 建物、すっごい向こうだよ?」
「ま、まぁ、貴族の屋敷なんて庭の方が広い時があるから……」
庭の広さは貴族にとっては重要なようで、位が高いほど屋敷もそうだが、庭も広く、凝ったものになる。
「なにそれ、もったいない。お庭なんて手が掛かるだけじゃん。町の人に明け渡そうよ」
「なるほど……半分やっても十は建つな」
「やめろ、ラクト。良いんだよ。もしここに家を建てるとしても、侯爵家に近い場所なんて嫌に決まってるだろ」
「あ〜、なるほど。このお庭は距離を取る為なんだ。それなら止めよ。町の人達が気の毒」
「……悪い、思わず……」
「いや、私もそれで納得だ」
バルドはファナの意見を通しそうになったラクトを止めようと思っただけだったのだが、つい本音が出てしまったらしい。しかし、お陰で理解が得られた。
「さて、行こうか」
「え〜、もう見ただけでお腹いっぱいな感じなんだけど」
「ファナ」
「……は〜い……」
ラクトは、ここで逃してなるものかと必死なようだ。ファナも、確かにここで止めるのも卑怯かと思い直し、素直にラクトの後に続いた。
《主も往生際が悪い。主の本来の棲家は、これだけのテリトリーを持つのだ。我は誇らしいぞ》
「テリトリー? そっか、そうなるんだ」
シルヴァは、人の事など分からない。しかし、ここに来るまでに町を見て思ったのだろう。獣は、自分達のテリトリーを持つ。人にこれを当てはめたようだ。
これまでに見た家の大きさから見れば、明らかに侯爵家は大きい。支配する地が広いほど力あるものだと思っているシルヴァにとって、分かりやすい比較結果だった。
「そうか。正しい見解だ。これだけ広い土地を占有できるのは、この町で最も力ある者だからだな」
「それ分かりやすいね」
「……ファナは仕方がないとしても……ラクト……」
バルドは、微妙に世間知らずなラクトが心配になった。
そうして、長い屋敷までの道を進む。すると、幾つもの視線を感じた。
「ねぇ、なんか見てる」
「気にするな。害はない」
《確かに害意はなさそうだが、ドランが怯える》
《シャっ、キシャっ、シャ〜っ》
「おいおい。暴れるな。落ちるぞ」
落ち着きをなくしたドランが、シルヴァの背から落ちそうになっていた。
布から出てきてしまったドランを、バルドが拾い上げる。
「ドラン、落ち着いて」
《キシャ〜っ》
ファナが言っても落ち着かない。どうやら、寝ていたのを邪魔されたらしい。混乱状態だ。
「しょうがないなぁ」
「ファナ?」
ラクトが不思議そうに振り向いた。その時、ファナは魔力を解放する。それによって、突風がラクト達を中心に放たれた。
庭を突風が吹き抜け、屋敷を囲う塀にぶつかって上空へと消えていく。ほんの一瞬の出来事だった。ラクトもバルドも止める間がなかったのだ。
呆然と事の成り行きを見るしかなかったラクトとバルド。しかし、ファナは満足気だった。
「ほら、いっぱいいた」
《キシャ〜!!》
「お前達……」
庭には、木の陰から転がりだした使用人達が驚いた表情を浮かべて仰向けに倒れていたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
庭を歩くだけで騒動です。
相当広いお屋敷のようですね。
さて、現れた使用人達の思いとは?
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




