075 うやむや作戦
2016. 12. 2
大変な役目をクリスタが負ってくれていると知って、オズライルとバルドは驚いていた。
一方、ラクトは何かを考えているようで、腕を組んだまま顎に手を当て、目を泳がせている。
この状態なら、屋敷に寄る事も、うやむやに出来るかもしれないと思った。
「ドランも早く会いたいよね〜」
《シャァ〜っ》
このままいってしまえと、話を進める。
「クリスタも、また来てって言ってくれたんだよね」
《うむ。あれは、魔女殿に言わせれば、かなりの寂しがりやとの事だ。その上、人が好きらしい。八百年ほど前は、山で遭難した者を乗せてやっていたりしたらしいからな》
「そんな事があったのか……」
バルドは驚愕し、オズライルはポカンと口を開けている。
「ねっ、会いたくなったでしょ?」
バルドも取り込んでいく。
「あぁ。是非会ってみたいが……昨日の毒霧みたいになるんだろう?」
バルドは、王であった男が吐き出した黒い霧を想像したらしい。気分が悪くなり、倒れてしまった者達。短時間で死んでしまう物だった。だが、それとは違うのだ。
「ううん。幻覚作用があって、山の中を走り回っちゃうんだ。それも全速力で」
「それって……大した事ないよね……?」
体力があれば大丈夫な気がすると、オズライルは不思議に思ったらしい。しかし、そんな簡単な問題ではない。
「霧の中から出たらダメだって感じるみたいで、山から出られないし、最後は体力尽きて終わり」
体の機能がついて行けなくなるまで止まらないのだ。
「その霧って、雨の日とかどうなの?」
霧は細かい粒子が飛んでいるのだ。その粒子は、雨で下に落としてしまえるのではないかとオズライルは言う。
「少しの雨じゃダメだけど、晴れるよ。その間に毒を出す植物……木なんだけど、それから十分に離れられれば回復の余地はある」
それならば、それ程深刻な話ではないだろうとホッと息をつく。だが、もちろんこれも、そう簡単ではない。
《あの毒を吸うと、毒が周りになくなった時、疲労感を一気に感じるようになる事で体の機能が混乱するらしくてな。目や耳と言った感覚機能が使えなくなるのだ》
疲労感で足は動かなくなり、目や耳が突然使えなくなる事で更に動けなくなる。そうして、雨に体温を奪われて死んでしまう者や、耐えられたとしても、雨が止み。再び毒霧が周りを覆えば同じ事だ。
毒から解放されるには、雨の中、毒を受けていない者が助けに入り、抱えて山を下りるしかない。
「クリスタが山で人を見つけたら、稀に毒霧の範囲から放り出すみたいなんだけど、クリスタでも感覚が多少狂うらしくて、気配が読みにくいんだって。それに、見つけられたとしても、小さい人を捕まえるのは難しいみたい」
クリスタは、他の木々を傷付けたくない。毒霧を出す木は、倒しても毒を吐く事に変わりなく、木を倒せば余計に人を探すには邪魔になるのだ。
「そんなわけで、今この時に遭難してる人がいるかもしれないでしょう? 早く行かないと」
少々脇道に外れたが、言いたいのは早くミスト山へ行くぞという事だ。
「う〜ん。不安になって来た。先に今からミスト山に行こうよ」
バルドに振ると、しっかりと頷く。
「そうだな。ファナやシルヴァなら毒霧の中でも大丈夫なように出来るんだろう? それなら安心だし、山の中に入った者が居るかいないかだけ確認しよう」
「だよねっ。そんじゃぁ、行こっか」
これでバルドも行くと決めたのだ。屋敷を素通りして山へ向かってもいいだろう。
そう都合よくまとめたファナだったが、ラクトがこの時、覚醒した。
「ダメだぞっ! ファナは一度帰るんだっ」
立ち上がり、ファナに詰め寄るラクト。その剣幕に、ファナはビクリと体を震わせたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
王が出した毒より厄介かもしれません。
でも、やっぱり先にご帰宅でしょうか。
親の顔も見てみたいですしね。
では次回、一日空けて4日です。
よろしくお願いします◎




