073 クエスト完遂の報告
2016. 11. 29
丘の上で待っていたドランとバルドに合流する。すると、ドランがしきりに何かを訴えてきた。
「ドラン何だって?」
そうシルヴァに尋ねる。
《いつもの大きさに戻して欲しいと言っている》
「あらら。本来の姿よりも小さい方が良いの?」
力も解放した今の姿の方が良いのではないかと思ったのだが、すっかり小さな姿での生活が気に入っていたらしい。
「なんだ。そのまま送ってもらおうと思ったんだがな」
「……いや、ドランは目立つだろう……」
ラクトとしては、このままドランの背に乗って行こうと考えていたようだ。しかし、ドランの体は夜の闇の中でも星のように輝く金だ。
ボライアークは白にも見える金だったのだが、それとはまた違う。ボライアークでもかなり夜空に映えて目立っていたのだ。それよりも強い光を放つドランでは、確実に多くの人に目撃される。
「では、また黒霧に頼むとするか」
「ここでか!?」
「何か問題があるか? ボライアークも、私の事を認識したのだ。ここで黒霧を呼んでも問題ないだろう」
「それは……そうかもしれんが……」
バルドは、今もファナやラクトへ視線を向ける者達が気になっていた。
最初は誰もがドランへ目を奪われていたのだが、この場から動かず、襲ってきたりしないと分かると、シルヴァや尽力してくれたファナ、その隣にいるラクトが気になるようになったのだ。
言葉を解し、美しい白銀の毛並みを持つ獅子であるシルヴァにも興味を持っていたようだが、そんなシルヴァが主と呼ぶファナの方が気になったのだろう。
ファナはまだ少女だ。それも話しかけやすそうに見える。そんなファナの保護者だというラクト。
そのラクトは身なりがよく、身のこなしや話し方は、普通ではない。だが、妹だというファナは旅慣れした冒険者のような格好をしている。どう見ても不思議な一団だ。気になるのも仕方がない。
そこでラクトが黒い炎を纏った鳥を召喚したなら、どうなるだろうか。
「ここからドランで人気のない所まで飛んでからの方が良くないか?」
バルドはこれ以上目立つのは避けるべきだと思うのだ。しかし、この案は思わぬ方向から反対された。
《言い忘れていたが、ドランは人を乗せた事がないぞ》
《グルル》
「……それは、危ないって事か?」
《グルっ》
うんうんと三つの首がそれぞれ頷く。
「何を心配している。ボライアークを見た後だ。これ以上、何を見ても大した事はないだろう」
「……そういう心配じゃないんだが……」
「バルド? 大丈夫だよ。黒霧ちゃんなら、目立たないし」
「……そうだな……」
ラクトもファナも、いまいち自分達がどう見られるのかを分かっていないようだ。
バルドの心配の甲斐なく、ラクトは黒霧を召喚する。
そうして、呆気に取られる者達を残し、ファナ達は黒霧に乗ってフレアラント山脈の向こうへ消えたのだった。
◆◆◆◆◆
ティア達は、一応はクエストであったという事で、イクシュバへ降り立った。
「マスター、ただいま〜♪ 」
勢いよくオズライルの部屋へ突撃するファナ。オズライルは、予想していたようで、苦笑しながら冷静に目を向けた。
「お帰り。随分早かったねぇ。まだ一日も経ってないんだけど? っていうか、夜中じゃない?」
「そうだね。けどなんか眠くないしっ」
「うん……君……それ、深夜テンションだよね? 大丈夫。お布団に入ったら落ち着くよ」
オズライルは眠そうな顔をしていた。少しヤケにもなっているようだ。
「そうかな? マスターも寝なくていいの?」
そう言えば、苛立ちのようなものが表情に見えた。理由はどうやら、手にしている水晶のようだ。
その水晶は、離れた場所から通信が出来るもので、ギルド間の連絡に使われている通信具だった。
「僕ももういい歳だし、眠いんだけどね。通信がひっきり無しに来るんだよね。なんでかな?」
「何か緊急事態?」
ファナはどんな大事が起こったのかと嬉しそうに尋ねる。しかし、ここで、話の分かる大人がファナの肩を掴む。
「ファナ……日を改めような……」
「さぁ、どこか宿を取って、一緒に寝よう」
「なんで? 兄さんだって、早く済ませたいって言ったじゃん」
「そうだが、常識的な時間じゃないからな。老人は労らねば。それに、女の子は睡眠をしっかり取らないとな。肌が荒れるぞ」
「そうなの? 夜更かしって初めてだからなぁ……でも、夜って楽しいよね」
ファナは魔女と暮らしている時、月が昇ると眠り、日が昇る頃に目覚めるという規則正しい生活をしていた。
真夜中に動き回るなんて事はなかったのだ。その為、珍しい経験にテンションが上がっている。
《主、ドランももう眠ったぞ。兄殿。主をベッドに入れてやってくれ。すぐに眠るはずだ》
「よし、ファナ。いい子だから一緒に寝よう」
「えぇ〜、ヤダー」
「もう、君達。宿屋もこんな時間に迷惑だから、仮眠室で寝ていきなさい」
「そうします……」
ファナを横抱きにし、ラクトが部屋から出て行く。そして、バルドがその後を追ったのだが、そこでオズライルが呼び止めた。
「バルド。今回の報告はもういいから、報酬だけ貰って行っていいよ」
「え? いや、ですが……」
「大丈夫。全部聞いたから」
「はい?」
そうして、通信具を指さす。
「……通信で……?」
「ご苦労さん」
「……はい……」
オズライルがこんな夜中まで起きていた理由は、ファナ達にあった。ツィンが事の次第を報告していたのだ。
申し訳なさそうに頭を下げ、バルドも部屋を後にする。
そうして、残ったオズライルは一人ポツリと呟いたのだ。
「……とんでもない子を残してくれたよね……」
クエストを一つ解決しただけではない。多くの国の戦士団の者達が死ぬ所だった。王が一人倒れ、混乱は必至だ。そして、伝説を塗り替えた。
更に、何をしたいのかは分からないが、混乱を招く何者かの存在が確認された。
「何はともあれ、あの子の力は必要だろうね」
今後もファナには手を貸してもらわなくてはならなくなるだろう。
オズライルは、静かにほくそ笑み、短い休息を取る為に専用の仮眠室へと足を向けたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
報告がありました。
依頼でしたからね。
お疲れ様なマスターです。
では次回、一日空けて1日です。
よろしくお願いします◎




