072 これで解決
2016. 11. 28
ファナ曰く『一鍋』を作り終え、運ばれてきた戦士団の者達へ飲ませていく。
全ての者が回復した頃には、月が空高く昇っていた。
「なんとお礼を言ったら良いか……」
ファナの前に座り込み、そう言ったのは、この国の王弟だという男だった。
「別に、大した事してないよ」
薬を作る事は、ファナにとっては暇潰しか遊びぐらいにしか思っていない。解毒薬など、解明して調合していくのは特に娯楽に近い。
他では解けない問題を解くのだ。完成した時の嬉しさは何とも言えない。
今回も、そんなノリでしかなかった。欲を言えば、自分で薬草採取もしたかったくらいだ。その上、ファナの薬の作り方は大鍋で一気にだ。
最後に瓶詰めする事は、唯一ストレスというか、面倒になるが、今回はそのまま杓子で掬って飲ませた。途中で薬師や冒険者達が代わった事もあり、楽だった。
全部を総合すると、間違いなくただ鍋をかき回していただけの労力しか使っていない。だが、そんなファナの思いなど分かるはずもなく、男はひたすら申し訳なさそうに頭を下げていた。
「そんな事はありませんっ。あなたがいなければ、この場の誰も生きてはいなかったでしょう」
「う~ん。それを言うなら、ボライアークのお陰だろうね。薬が出来たとしても、間に合わなかったら意味がないもん。ちゃんとお礼言っといて」
「もちろんですっ。皆、龍……龍神様に頭を下げなさい」
邪竜ではなく、土地の守り神『龍神』と呼んだ。これを受け、ボライアークは嬉しそうに鳴く。
《グォォォン》
ボライアークの声は、とても響く。大気を震わせるその声を聞いて、更に深く頭を下げずにはいられなかったようだ。
「ありがとうございます……二度とこのような無礼がないよう、言い伝えて参ります……」
大地を育む良い龍だと今後は伝えられていくだろう。
彼らとの和解を得て、ボライアークは夜の空に映える金の体をくねらせ、一度空高く上っていく。そして、シルヴァに何やら視線を送ると、そのまま巣穴へと帰っていった。
「シルヴァ、何か言ってた?」
《うむ。またいつか、主と会いに来て欲しいそうだ》
「そっか。了解」
今度は、何か美味しい食べ物でも持って行こうと思うファナだ。
「ファナ、帰るぞ」
そう言って近付いてくるのはラクトだ。
ラクトは、冒険者や薬師達に今回の騒動の顚末の報告を頼んで来たようだ。そして、最後に戦士団を統括する役目の王弟に言った。
「ボライアークだけでなく、ファナにも感謝を忘れるな」
「も、もちろんです!」
崇め、奉れと言わんばかりの胸の張りよう。自慢の妹なのだ。
「あ、あの、薬の作り方はどなたから教わったのですか?」
薬師達は相当、気になっていたのだろう。このまま去って行こうとするファナに、突撃してきた。
「えっと……渡りの魔女って呼ばれてた人だけど?」
魔女の名前は、一般的に知られていない。迷いながらも、二つ名を口にしていた。
「ま、魔女様のっ!?」
「はぁ……弟子ですけど……」
飛び上がって驚く薬師達の勢いに、数歩思わず後ずさる。
「おい。私の妹に近付くな」
「……失礼しました……」
ラクトのどこか気品ある雰囲気と、ファナに執着する様子に薬師達は近付くべきではないと理解する。ファナではなく、ラクトから離れたのだ。
お陰で、ファナに調合の仕方を色々と聞こうとしていた彼らは身を引かざるを得なくなった。
《主、帰るのではないのか?》
「そうだ。我が家へ帰るぞ」
「……忘れてなかったんだ……」
「当然だろう」
そう言ってファナの肩を抱くラクト。そのまま薬師達の前から移動していく。そんな様子を薬師達は見送っていた。
「兄?」
「妹って言ったよな?」
「……シスコン……?」
その後ファナは、暖かく見つめる視線を背中で感じていた。
「魔女様の弟子……そうか」
そう呟く王弟。ここから魔女の弟子が多くの者を救ったと伝えられていく事にもなるのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
ボライアークは龍神様。
ファナちゃんの存在も伝えられていくのでしょう。
さて、次は家に?
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




