071 過去の思い
2016. 11. 27
ラクトは、ファナが緩めた封印が完全に解けないよう、壺を封囲術で覆った。それを仕掛ける間、封印された怨念とも言える何者かの負の感情と向き合う事になった。
封印が緩められていた事で、それがとても近く感じられたのだ。
すると最も思い出したくない辛い過去が思い出された。それは、強い憎しみに支配された過去の記憶。
◆◆◆◆◆
いつだって人は勝手な生き物だ。
その時も、そんな勝手な人に振り回され、侵略された。
世界にある大きな二つの大陸。その一つには、高い魔力を持った者達が住んでいた。
創世の頃。大陸は一つだった。しかし、大きな魔力を持った者をそうでない者達が妬み、迫害するようになった。
多勢に無勢といえる程、魔力をそれほど持たない者達の方が圧倒的に多かったのだ。
迫害された者達は、集まり、自分達が平和に平等に暮らせる場所を探した。そこで比較的、森や山が多く、人々が分入っていない土地に集まり、そこで大地を割った。
大きな魔力を合わせ、大陸を動かし、遥か東へと移動したのが魔族の国の始まりだと言われている。
魔力が高い者は、総じて寿命が長かった。それから時は流れ、更に寿命の長い者が出るようになった。
その中でも、最も魔力が高く、力を持った者。それが、魔王となったランドクィールだった。
長い歴史の中で、魔族と呼ばれるようになった者達から戦いを仕掛けた事は、一度としてなかった。しかし、人々は、どれだけ年月が経ち、世代が変わっても、妬む思いを忘れる事はなかったらしい。
ファルナを失った時も、そんな人々が、わざわざ広い海を越えてやってきた。
ファルナは、聖女、生贄として大陸に流れ着いた。不幸なこの少女を、魔王であるランドクィールは不憫に思い、傍に置いた。
人の国から、魔族への捧げ物として流され、生きて辿り着けた者は、ファナだけだったのだ。
楽しく、穏やかな日々が続くと思った。そんなある日、突然、人が攻めて来た。
大きな船に乗り、大陸に到着した彼らは、勝手に送りつけてきた聖女達の無念を晴らすと言っていた。
平和に暮らしていた無抵抗な民達を蹂躙し、城まで上がり込んできた。勇者と呼ばれる者が先頭に立ち、ランドクィールに立ち向かってきたのだ。
多くの部下を、この時亡くした。騎士であったバルトローク。宰相補佐であったノバ。正直、ここまで攻めてくるとは思っていなかったランドクィールの、取り返しの付かないミスだった。
その時に感じた怒り、憎しみ、それは、ランドクィールを庇い、ファルナを目の前で殺された時、ピークに達していた。
それからは記憶が曖昧だ。怒りに我を忘れ、魔力を暴走させたのだろう。勇者達は倒せたはずだが、そこで命が尽きた。
長く眠りについても、その心に焼きついた怒りと人に対する憎悪は消えなかったように思う。
そんな思いが、黒い怨念の塊にもあった。許せないという思い。なんて勝手な奴らなんだと怒りがこみ上げてくる。
ラクトはいつの間にか同調していた。
その中で男の姿が見えたのだ。それが、この怨念の持ち主だという事は直感できた。
滅ぼしてしまいたい。最期の最期まで苦しませ、恨みを晴らしたい。そんな思いがあった。
今でも許せないという思いがある。それは決して消えないのだ。その男も、同じ思いに取り憑かれていた。
だが、その理由は分からない。ただ、その思いに同調し、昔の、この世に再び生まれて胸にしまいこんでいたその思いが、胸に広がっていった。
今いる状況が理解できていても、大義の元に戦いに来たのだという様子だった勇者達を思い出してしまうと、国の為とこの場に集まっている戦士団の者達を全て殺してやりたくなった。
暗い思いが体を支配しようとする。そんな時、ふと目に入ったファナ。その姿を見て、正気に戻る。
今を見ろ、今を生きろという世界の声が聞こえた気がした。
ファナが居なければ、ラクトは今頃、戦士団を全滅させていたかもしれない。せっかくボライアークが止めていた時間も破壊し、全てを消し去る。
そんな思いは、ファナが居なければ全て現実のものとなっていた。
それがわかるからこそ、自分がこの場にいる意味はなかったかもしれないと言うファナの言葉を否定した。
「意味はあったさ……」
ファナが生きている。今度は傍にいて亡くさないように。そう誓うラクトの中で、ファナの存在は何よりも大きかったのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
ファナちゃんの存在が全て。
大切だった人を亡くしたその恨み、悲しみ、怒りと同じくらいの思いが、そこにあったようです。
同調したラクト兄さんは、その思いに飲まれる所だったのでしょう。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




